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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
サン=モストロの城

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320/322

ネィマ「奥さんが居るんだ……」

エンリケ島の海賊ジュリアン編、これでいったん完結です。普段の倍の長さだよ!

 村人達も、最初はただ混乱していた。しかし後から来た海賊達の方はラゴンバのガイド二人と通訳一人も連れていた。


「大丈夫だ皆、こっちの海賊は俺達の味方だ!」

「この人達は、悪い奴じゃない!」


 二人のガイドよりかなり年上の通訳の男は、申し訳なさそうにうつむいていた。


「すまない船長、私は村の為、貴方を港に追い返そうとしていた」

「事情は何となく察したから、気にしないでいいよ」


 隠れていた村の女達は集まって来て、撃たれた村長、マンサの手当てを始める。他の男達は、物陰から抜き身のカトラスを担いで現れた豪傑、ネイホフの周りに集まり口々にお礼を述べていたが。


「待て待て俺は船長じゃない、船長はジュリアンだ」


 ネイホフはそう言って、先程の戦端を切った少年を指差す。ジュリアンの傍に居た通訳は、すぐにそれを仲間達に訳して聞かせる。


「ではあの小さな男が勇者か!」「ありがとう、勇者!」

「え……ヒエッ!?」


 振り向いた村の男達が殺到して来るのを見てジュリアンは飛び上がりかけるが、横から先程の少女、ネィマに抱き着かれる方が先になった。


「騙そうとしてごめんなさい、まさか助けてくれるなんて思わなくて」


 ネィマはぼろぼろと涙をこぼしながら、そう訴える。



 マンサ達村人は港に仲間を置き、村を探しだそうとする北大陸人に備えていた。そういう相手が来たら、自分達の仲間でガイドと通訳をして、上手く追い返すというわけだ。

 しかし今回は以前追い返した別のならず者グループが、港も使わずガイドもなしで村に到達してしまった。

 そんな村を全滅の危機から救ってくれたのは、マンサ達が脅かして追い返そうとしていたジュリアンだった。



「あっ、ああ、大した事はしてねえよ、それより、あの人は無事か……その、家族なんじゃないのか」


 ジュリアンはそっとネィマを引き離し、手当てを受けているマンサを指差す。


「……お父さん!」


 ネィマはそう叫んで父の元に駆け寄る。一息ついたジュリアンは、少し離れた所で村の子供達に囲まれて何かを説明しているハリシャの方を向く。ハリシャもこちらを見ていた……苦笑いをして。


「あ、あのハリシャ、これは」


 ジュリアンは大股にハリシャに歩み寄る、しかし、


「やったねジュリアン! アンタすごいわ!」

「あたしらも連れて来て良かったろ!?」


 次の瞬間には二人の勝気なホステス、グラサとスカイカに両側からぎゅうぎゅうに抱き着かれ、視界を塞がれる。


「わプッ!? ふ、二人ともありがとう、ちょっと、ごめん」


 二人の間から這い出したジュリアンは再びハリシャの元に駆け寄り、その手を取る。


「無事で良かった、怪我はない?」

「あ……あるわけないわ、私は役に立てなかったし……ジュリアンが無事で良かった! だけど私、もっとジュリアンを助けたい!」


 苦笑いをやめたハリシャはジュリアンの手を取り返し、真剣な表情でそう訴える。ジュリアンは肩を落として笑う。


「今回はたいした事なかったから」

「そんな……相手は大勢で銃も持ってたわ」

「ほんとに、バーグホンド号を取り返した時やマリー・パスファインダーと戦った時と比べたら」


 ジュリアンはそう言って、雑な手当てを受けている敵の頭目を後ろ指で差す。

 そこに、ネイホフもやって来る。


「言ったでしょう、知恵も力も船長の方が上ですって」

「そんな訳ないでしょ、からかわないでよ」


 ハリシャとネイホフ、二人の幹部を連れた海賊船バーグホンド号の船長、ジュリアンは、ネィマと村の女達の手当てを受けているマンサに近づく。


「話せるかい村長さん。教えてくれ……ゲスピノッサ親分はここに来てたんだな? どうして親分はこの村を秘密にしていたんだ?」

「なんとお詫びを言ったらいいか……確かに、ゲスピノッサはここに来ていた」


 やはり、というか。この隠れ里を建設したのは、ゲスピノッサだったという。

 そして悪の王国を持っていた頃のゲスピノッサは、密かにここを保護していたという。サトウキビ栽培と精糖技術、ラム酒の蒸留技術を持ち込んだのもゲスピノッサだし、港に見張りを置いて厄介な探検家が来たら追い払うよう入れ知恵したのもゲスピノッサだというのだ。

 そんなゲスピノッサがコルジア海軍に捕まったという話も、その後戻っては来たが跡目を継いだザナドゥに敗れて死んだという話も、マンサ達は知らなかった。彼等にそれを教えてくれたのは、皮肉にもならず者共だった。


「ゲスピノッサは奴隷商人で悪党だった。本人がそう言うのだ、間違っても自分を良い人間だなどと思うなと……だけど我々にとって、彼は守護者だった」



 手当てを受けたマンサは一命を取り留めたが、その顔色は良くはない。ジュリアンは話を切り上げ、マンサを静かな所へ運ばせる。

 その話を神妙な面持ちで聞いていたネイホフは、ぽつりとつぶやく。


「あの人がねぇ……いや、あの人らしいというか。船長はどう思います?」


 ジュリアンは軽く周囲を見回す。水夫達はならず者共を見張っており、村人はならず者に荒らされた村の片付けをしている。ハリシャとグラサとスカイカは、村の子供達から質問攻めに合っている。


「ゲスピノッサ親分の、最後の言葉があるんだ」


―― 俺はなァ。海賊になりてェと思った事は一度もなかった


 ジュリアンがそれを口にすると、ネイホフもただ、黙ってうつむく。ジュリアンは続ける。


「親分は教えてくれたんだ。おいらは親分が歩いたのと全く同じ道に居るんだと。ネイホフも同じなんじゃないの? もしかしたら、あいつらだって……最初から海賊になりたいと思ってた奴なんて、居るのかな」


 ネイホフはジュリアンが顎で示した、水夫達に銃を突きつけられ震え上がって命乞いをしているならず者共を見つめる。


おいらは今、親分の代わりにこの村を守ってやりたいと思ってる。だけどその為には、さっきみたいに人を銃で撃たなきゃならない事もあるんだろう」


 取られた物を取り返しただけ、守りたい物を守っただけ。そんな事を繰り返すうちに、海賊は出来上がる……ゲスピノッサはそう教えてくれたのではないか。少なくとも、ジュリアンはそう考えた。


「だけどおいらに親分みたいな根性は無ぇ。やっぱり船長はネイホフがやってくれよ、おいらはただ一人前になりたくて船に乗って、ハリシャを助けたくて海賊に憧れた、ただの子供なんだ」


 ジュリアンは真剣な顔でそう言って、真っ直ぐにネイホフに向き直る。ネイホフは、苦笑いをして首を振る。


「俺が船長じゃこの村もあの親娘も助けられませんでしたよ。ジュリアン親分は、本当にそれでいいんですかい」

「それは……だけど毎回こんなに運良く行くもんか、おいらは運が良かっただけだ、でも運なんていつもいい訳ないだろ!」

「一人前になりたくて、たまたま密航した船が海賊船だったんでしょう? そんなにツイてない話はありませんぜ、だけどその船でたちまち成り上がったのは実力ですよ、実力。俺はこれからもジュリアン親分について行きてえ、もう檻に入れられて水路に沈められるのは真っ平ご免ですぜ」


 ネイホフは最近聞かされていた、ジュリアンが海賊になった顛末を持ち出してカラカラと笑う。ジュリアンはすぐに抗議しようとして恰好を崩すが、何と言っていいか思いつかず、そのままため息をつく。

 ネイホフは大笑いを苦笑いに変えて、もう一度ジュリアンの方を向く。


「ゲスピノッサ親分は確かに、たくさんのラゴンバを奴隷として売り飛ばしましたし、無事でいりゃ今でも奴隷商人をやっていたでしょう。自分の行先は地獄だとよく言ってましたよ、妙に信心深い御仁でもありましたからね……そんな親分の口癖を覚えてるでしょう、俺は悪党が笑って暮らせる悪の楽園を作りたいんだと」


 その事はジュリアンも良く覚えていた。初めて聞いた時は、そんなものが出来たら善良な人々にとっては地獄のようだと思ったものだが、実際にはゲスピノッサは自分が支配する場所では殺しも盗みも許さなかった。


「親分の言う悪の楽園と、このラゴンバの隠れ里。決して異なるものではないと思うんですよ。上手くは言えねえが……ジュリアン親分。俺は学がないし勘が悪いんで、それ以上の事は解らねぇ。だけど親分には解るんじゃないんですか? ゲスピノッサ親分が、とっておきのお宝を、この村を託した理由が」


 ジュリアンはため息をつき、首を振る。


「わかんないよ、そんな……とにかく、船長を代わりたくなったらいつでもそう言っておくれ。ハリシャ! グラサとスカイカ、みんな、一度捕虜を連れて港に戻ろう、こいつらのカラベル船があるらしいから、そいつを頂戴しないと」

「……ジュリアン!」


 ジュリアンの声に応えハリシャが振り返ると、ハリシャの周りに集まっていた村の子供達が一斉にジュリアンの元に駆け寄り、取り囲む。


「船長ヒーロー!」「海賊ヒーローだ!」「ジュリアン船長は強い!」

「わっ、ちょっと待て、この子達に何を言ったのハリシャ」

「ジュリアン強い!」「海賊なのジュリアン!?」「かっこいい海賊!」


 二人のホステスと四人の水夫も、マスケット銃を振りかざして叫ぶ。


「また海賊だって、血が騒ぐねぇ!」「ヒャッハー、ジュリアン船長万歳!」

「やっぱり親分は海賊に向いてますよ、本当に」


 ネイホフもそう言ってまた笑う。

 ジュリアンは子供達に囲まれ、腕だの脚だのにしがみつかれ、もがきながら叫ぶ。


「マンサさん、ネィマ、近いうちにまた来るから!」



   ◇◇◇



 通訳と二人のガイドはもちろん帰り道にも同行した。往路では全く話せないふりをしていたガイドの若者は、本当はコルジア語が少し出来た。


「だましてごめん船長」「船長、小さいのに強い」

「もういいって」


 ジュリアンは時折振り返りながら、二人のガイドと共に先頭を切って密林の獣道を歩いて行く。

 後方ではネイホフと四人の水夫、さらに村が出してくれた八人のラゴンバの戦士が、捕虜となったならず者共を銃や槍でつついて歩かせている。


―― 昔からチビだとバカにされていた俺は、ただ一人前になりてェ、男として生きてぇと……それだけを考えて、無我夢中で世間を渡って来た


 ジュリアンは一生懸命、あの日のゲスピノッサの言葉を思い出そうとしていた。印象的な言葉は色々あったのだが、なかなか全てを思い出す事は出来ない。何かもっと重要な言葉があった気がするのだが。

 そんな考え事にふけるジュリアンに、グラサとスカイカが並び掛けて来る。


「ジュリアンは本当に女にモテるね、あのネィマって子も可愛かったじゃない」

「そういうのじゃないから」

「いいじゃない、ハリシャだってモテない亭主よりモテる亭主の方がいいでしょ、ねえー?」

「違うったら! あの子は村長の娘で、村の為に芝居をしていたんだよ!」


 考え事を飛び散らされたジュリアンは、振り返って抗議する……その瞬間、ジュリアンは苦笑いを浮かべたハリシャの顔を見てしまった。


「大丈夫よ、私、何があってもジュリアンについて行くから」

「そそ、そんな顔すんなよ! 俺の女房はお前だけだーっ!」


 真っ赤になってそう叫んでしまったジュリアンに、グラサが、水夫達が口笛を浴びせる。


「ああもう、おいらは先に行くからな!」

「船長、道を外れると危ない、アナネズミの穴に落ちる」


 一人で先に行こうとするジュリアンに、ガイドの一人が現地語で声を掛ける。しかしジュリアンは気付かずに藪の中へ分け入って行く。その、数秒後。


―― ガサーッ! ドタン!


 藪の中の窪地を進んでいたジュリアンが、派手に転倒し180度ひっくり返った。


「いってェェ! 何だよこれ」

「ジュリアン! 怪我はない!?」


 グラサ達に冷やかされるのも構わず、ハリシャは真っ先にジュリアンの方に向かい、長い草の生えた柔らかい地面でもがいているジュリアンに、手を貸して引き起こす。


「ツイてないですねぇ、船長」


 先程の会話を覚えていたネイホフは後ろの方から、笑ってそう叫んだが。


「……待てよ、本当に、何だこれ?」


 ハリシャに引き起こされたジュリアンはその手を取ったまま、自分が足を引っ掛けた物の所に戻る。それは水分をたっぷり含んだ泥の中から突き出した、頑丈そうな木箱の角だった。



   ◇◇◇



 本物の(・・・)ゲスピノッサの隠し財産は、ここにあった。最初の箱からは袋分けした金貨と銀貨の山が出て来た。

 この事は隠れ里のラゴンバ達も知らなかったらしく、皆目を丸くしていた。

 ジュリアンは捕虜にもラゴンバにも分け前を約束した。男達は協力して、まず周囲の下草を全部刈り取った。

 泥を掘ると、木箱は次から次へと出て来た。一体どうやってこんな所に持ち込み、どうやって埋めたのか……しかし。


「うわああ!?」「だめだ、食われちまってるぜ」


 無事だったのは最初の特殊な塗装をした箱だけで、その他の箱は熱帯の泥の中でシロアリや何かに食い散らかされ、持ち上げようとしただけで崩れてしまう。

 箱の中に入っていたのは藁だった物や籾殻だった物らしいが、それらは当然ドロドロになっている……その更に中から出て来たのは、はるか東方の大国、セリカから運ばれて来たと思われる、見事な絵付けを施された磁器の数々だったのだが。


「だめだこりゃ……触るだけでボロボロ崩れちまう」


 その釉上彩は、長年埋められている間に変質してしまっていた。黒く変色した釉薬模様も、金色の縁取りも台無しだ。これでは商品になどならない。

 ネイホフは肩を落とし、力なく笑う。


「ゲスピノッサ親分はマリキータ島にも財産を隠してましたが、そこはほとんど雨の降らねえ不毛の島でね……勿体ねえ、この荷ならディアマンテでもブレイビスでも、言い値で売れたろうに」


 ジュリアンは比較的無事だった、絵付けのないシンプルなお椀を手に取り、しげしげと眺める。このくらいなら売り物になるかもしれないが、日用品以上の価格はつかないだろう。


 ゲスピノッサのお宝はあったし、全くの空振りという訳ではない。だけどそれはあの、ジュリアンを取り囲んで騒いだラゴンバの子供達の無邪気な笑顔などではなく、普通に東の彼方から来た珍品といくらかの金銀だった……ジュリアンにはその事の方が残念に思えた。


「はは……あはは。ゲスピノッサ親分の声が聞こえるみたいだ」


―― 俺の考えを、わかったような気になるなよ。ヒヒ、ヒ。


 ありがとう、親分。俺は半分はあんたのようになりたいが、半分はあんたのようにはならない。

 ジュリアンはそう、心密かに誓う。


「約束だ、金銀の半分はバーグホンド号の資産にさせてもらうけど、残り半分はこの場の全員で山分けにしよう」


 ジュリアンはそう言って、自分の水夫達やホステスはもちろん、ガイドや通訳、ラゴンバの戦士、そして先程まで隠れ里を襲撃していた捕虜にまで分け前を配る。

 捕虜の男達は恐る恐る、ジュリアンから金銀を受け取る。


「いいのか……? 俺らがこんなもの受け取っちまって」

「ゲスピノッサ親分の施しだぞ、心して受け取れ……なんとかなりそうな茶碗やなんかは港まで持って行くから、皆協力してくれよ!」

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― 新着の感想 ―
ジュリアンいい男になったなあ 姉が見たらなんというだろうか
>最初から海賊になりたいと思ってた奴なんて、居るのかな 首がもげそうな勢いでうなずくマリー イイハナシダナーと思わせといて普通に財宝が埋まってる辺り 死んでも食えない奴だなゲスピは
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