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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
サン=モストロの城

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ディアバ「ハリシャはあのジュリアンて子に会えたのかねえ……全く。海の男に惚れちゃいけないよって、言ってやったのに」

度々視点が変わって申し訳ありません、ジュリアン編を、これを含めてあと二回やらないといけません。

このあたり、後でちゃんと整頓したい所です……

 尖塔のような高い岩が見下ろす、密林を切り拓いて作った隠れ里。

 その広場では一人の男が倒れていた。周りに集まった仲間達は、銃で脇腹を撃たれた男の為、懸命に止血をしていた。


 広場には明らかにここの村人ではない男達も居た。マスケット銃を持った男が4人と、その頭目らしい、擦り切れた二角帽を被った大柄な男。

 さらには、カトラスを手にした男が3人、4人、複数のグループを作り、集落にある家屋に押し込み、金目の物を攫っている。


「奴隷共が、貯め込みやがって」


 頭目の前には小さな木箱があり、中には袋分けされた金貨と銀貨が詰められていた。唇をゆがめて笑う頭目は、金貨を鷲掴みにして、また袋の中へとこぼす。


「それだけあれば……十分だろう」


 銃で撃たれ倒れているのは、村のリーダーのマンサという男だった。



 この隠れ里を探している北大陸人が居るという話は、港に住む仲間のラゴンバから聞いていた。彼等が雇ったガイドも通訳もマンサの友人である。

 マンサ達は、今までそうして来たように、その探検家を連携して追い払うつもりだった。

 しかし、同じ頃。ここに逃亡奴隷の隠れ里がある事、その里から嫌に等級の高い砂糖が出荷されてる事を知った別の密輸業者が、襲撃を目論んでいたのだ。

 密輸業者は港に奴隷の仲間が居る可能性をにらみ、ガイドや通訳を雇わず、時間を掛けてこの隠れ里の場所を割り出した。

 そして別の探検家が隠れ里を探してるらしいと聞き、村を略奪する勝負に出たのだ。


 マンサ達村人から見て、侵略者は予期してない方角から突然現れた。侵略者は相手を恐慌に落とす為、リーダーであるように見えたマンサをいきなり撃った。

 撃たれたマンサは相手が十分に戦闘準備をした10人以上の集団である事を見て、仲間達に抵抗しないように伝えた。

 マンサの仲間は言われた通り、賊の頭目の元に、村人の共有財産である金貨と銀貨を全て持って来た。



「話のわかる奴で良かった。いや……ご主人様が取り分を持って行くだけだ、最初から、こうなるべきだった」


 賊の頭目は、そう言って村人を嘲笑う。


 マンサの仲間達は愕然としていた。

 大人の男の数なら、こちらの方が多い。だけどマンサは戦うなと言っている……それは戦いになれば、こちらの何人かは死ぬ事になるからだろう。そして村人は相手のような暴力集団ではない、賊は易々と逃げ去り、また弾を籠め直して襲って来るかもしれない。

 ともかく抵抗しなければ、賊共は満足し、金を持って立ち去る。マンサはそう考えたのだが。


 底意地の悪そうな賊の幹部が、不機嫌そうに顔をしかめ、つばを吐いてうなる。


「だけどボルガン、こいつらもちょっと素直過ぎねえか?」


 別の幹部も、唇を歪めて下品に笑いながら、目を逸らしてうそぶく。


「まだ何か……隠してるんじゃねえかなあ?」


 ホルガンと呼ばれた頭目の男も、白々しく天を仰ぎ、顎を撫でて考えるふりをする。


「そうか? ふーん。まあ、お前らがそう言うのなら……おい、掘っ建て小屋はもういい、そうだな、そこの畜舎を探してみろ」


 ボルガンがそう言って顎で指すと、賊の中では下っ端の男が、マスケット銃を構えたまま畜舎に近づいて行く。村のラゴンバの男達は、密かに冷や汗を堪える。



 開け広げの畜舎には数頭のカブラが居た。この辺りの風土に強い小型のヤギで、ジャングルや岩場の草木だけで育つ優れた家畜だ。

 そこにはカブラの他に、村の女の子も何人か居た。この騒ぎに震えながら、何も気づかないふりをしてヤギの乳絞りをしている。


 畜舎の外で項垂うなだれるラゴンバの男の一人が、耐えきれなくなって叫ぶ。


「も……もういいだろう!」

「おーい、よく探せってよ」


 ボルガンはそう言って笑う。幹部達も笑う。

 畜舎の調査を命じられていた男はふと、10歳くらいの少女の一人の肩に手を伸ばして、掴む。ヤギの搾乳の邪魔をされた少女は振り返り、男を見上げる。男は、手を離す。


「何もねえなあ」


 男はそう言いながら辺りを見回す……別の少女が、男の目に留まる。さっきの少女より少し背が高く、子供と大人の中間のような体型をしている。男はその少女の肩を掴む。

 少女の肩には泥がついていた。それは一見、作業でついた他愛のないものに見えたが。


「おい……こいつは奴隷の入れ墨があるぞ」


 泥の下から現れた印を見つけ、ニンマリと笑った男は、賊仲間にそう告げる。


 そもそも、ここが逃亡奴隷の隠れ里である事は誰もが知っている。


 大人の男は肌を傷つけるか別の入れ墨で上書きするなどして、様々な方法でつけられるその屈辱的な印を消している。大人の女も同様に消すか、隠すかしている。

 一方、この村で新たに生まれた子供には、そんな印はない。賊の男が最初に掴んだ少女は、この村の生まれだった。

 しかし二人目に見たこの少女は、幼いうちに印をつけられた逃亡奴隷だった。そして村の大人達は幼い少女の肩に、焼きごてを当てて印を消す事が出来ずにいた。もう少し大きくなって、痛みに耐えられるようになってから消せばいいと考えていたのだ。


「逃亡奴隷は……連れ戻さないといけないなぁ?」


 賊は少女、ネィマの肩を強く掴み、ヤギから引き離す。

 村の男達は悲痛に顔を歪める。誰もが今すぐネィマを助けたいと考える、だが賊達はそういう相手の心理を理解していて、油断なく銃を構える。


 マンサの止血をしていた村の戦士が、その耳元でささやく。


「マンサ、もう駄目だ、俺は戦う」

「よせ、ムウィニ……皆が困る……」


 しかしマンサはそううめく。マンサの言う通り、誰かが一人でも歯向かうような動きを見せれば、奴等は見せしめに、仲間を何人も撃つかもしれない。

 だけどネィマはマンサの娘なのだ。このままネィマが連れ去られるのを見て、マンサが平気な訳がない。ムウィニはうつむいたまま、小さく首を振る。


「こんな世の中我慢出来ん……こんなの、死んだ方がマシだ」

「やめろムウィニ……やめろ……」


 マンサは痛んでいない方の手で、必死にムウィニを止める。


 ネィマは。賊に腕を引かれるまま、抵抗もせず、黙って連れられて行く。彼女はマンサを、父の方を見る事さえしなかった。


 賊の頭目のボルガンは、パニョと呼ばれる複数の繊維を織り合わせて作られた藍染めのワンピースの衣装を着て、足にはラフィア繊維の脚絆をつけた少女を少しの間眺めていた。


「あー、こいつは俺が預かる、その……俺がしつけをしてやろう」


 ボルガンはそう言うと、少女を連れて来た男の手から彼女をもぎ取る。そして少女の顔を覗き込み、前歯のない口を開けニンマリと笑う。

 もぎ取られた男の方はまず唖然として、次に露骨に悔しそうな顔をするが、賊の他の幹部ににらまれると、すごすごと引き下がる。


 ネィマは村の仲間に迷惑を掛ける事がないよう、決して誰の顔も見ないようにしていた。だけどこれが見納めかもしれないと思うと、父の顔だけは、一目見ずにはいられなかった。


「……お父さん」

「ネィマ……!」


 二人がほんの一瞬、視線を交わした、次の瞬間。


「おっさん達奴隷商人だろ? おいらもまぜてくれよ」


 いつの間にか、ボルガンの近くに北大陸人の少年が一人立っていた。背格好はせいぜい11歳か12歳くらいという、こんな所に居るはずのない子供だ。

 ボルガンはラゴンバの少女を左脇に抱え、右手には火縄のついた銃を持っていた。そして少年は両手に火打石式で銃身のごく短い、「酒場のお守り」銃を構えていて、その一方をボルガンの右肩に突きつけていた。


―― ドン!


 短い炸裂音と光熱を発した銃から放たれた弾丸は、1m先のボルガンの右肩に命中する。

 ジュリアンは撃ってしまった銃から手を離し、ベルトに提げたもう一丁の、30cm程の銃身を持つ短銃を抜く。


「こっ、小僧……」


 ボルガンの近くに居た賊がすぐにマスケット銃を向けようとするが、距離が近過ぎた。大股に、落ち着いて移動したジュリアンの左手のお守り銃が、先にその賊の右腕を撃ち抜く。


―― ドォン!


「え、あ、う、撃たれたぁぁ!?」

「こ、このクソガキ!」


 賊共はラゴンバの男達の抵抗は予想していたが、背後からこんな伏兵が現れる事は予想していなかった。

 相手は少年だが持っている銃は本物だ、二丁は撃ったようだがまだ一丁残ってるし、子供のくせに躊躇ちゅうちょなく至近距離から人を撃つ危険な奴だ。


 賊共は無抵抗のラゴンバを撃つのは嫌いではなかったが、自分を撃つかもしれない銃を持った敵と戦う覚悟は、すぐには出来なかった。

 その一瞬の気後れと混乱の隙を突き、ジュリアンは身を翻し近くの建物の影に飛び込む。


「何だあのガキは!?」「くそ、殺せ、殺せ!」


 賊はいきり立ちそう叫ぶが、この場はもう接近攻撃を成功させたジュリアンの勝ちだった。


―― ドドドォドン! ドンドォン!


 ジュリアンに気を取られた賊達が、少年船長のクルーの動きに気づく事はなかった。たちまち轟いた銃声は長身のマスケット銃によるもので、その弾丸は6発で4人の賊を撃ち倒していた。


「当たったー!」「どうだいジュリアン!」


 二人の女が叫ぶ声もする。彼女らがどこに居るのかは、賊からも村人達からも見えない。


「ぎゃああ!?」「ぐえっ?!」


 また別の家屋の陰から、賊徒の悲鳴が響く。ネイホフはジュリアンほど機敏ではなかったが、どうにか物陰から接近して二人の敵を無力化していた。


「抵抗はやめろ面倒くせぇ、大勢の狙撃手がてめえらを狙っているぞ!」


 ネイホフは物陰からそう叫ぶ。それが本物の荒くれ者、それも一廉の豪傑のものである事は、誰の耳にもすぐに解った。

 そして実際、戦力を半分以下にされた賊徒に抵抗の意思は残っていなかった。


―― ドサッ、ドサドサ


「頼む、撃たないでくれぇ!」


 逃亡奴隷の集落を略奪しようとしていた一味は、ジュリアンとバーグホンド号の一味の奇襲を受け、武器を捨てて降伏した。

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ジュリアン…立派なワルになって…
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