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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
サン=モストロの城

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309/322

ネルンボ「そろそろ帰ってもらわないとまずくない?」ゼキンダ「大丈夫、マンサが上手くやるよ」

この世界のエンリケ島は、こちらの世界のサントメ島と同じ場所にあります。このサントメ島、大変面白い島なのに観光客がとっても少ないとか。

例えばその名所の一つ……お時間のある方は「ピコ・カン・グランデ」で検索してみて下さい。その頂点は海抜663m、麓からでも370mという、ジャングルの中にそそり立つ塔のような岩です。

登れるのは長い修行を積んだ勇者のみ。頂上にはカリン様が居そうですね。

 エンリケ島は極めて急峻な地形を持っていた。海風を受け止める高い山の頂は、常に深い霧と雲に覆われている。

 島を覆う密林の様子も、南大陸のものとはどこか違う。巨大化したシダ植物、カポックの巨木に絡まる幾種類もの蔓植物、むせ返る程の緑の臭い……それはまるで、人類の侵入を拒む緑の監獄のようだった。

 この島には人と家畜以外の大型動物が居ない。それがどういう事か。ここには大陸本土では絶滅してしまったような生き物が、たくさん残っているのだ。


 ハリシャは自分の顔より大きな殻を背負った巨大なカタツムリを見て、目を丸くしていた。それは巨大な蔓植物の葉の上で、巨大な二本の触角をうねうねと動かし、じっとハリシャを見つめ返すように佇んでいる。

 ジュリアンが見ていたのは、密林の彼方にそびえ立つ塔だ。アイビスにもコルジアにもあんな巨大な塔はなかった。その高さは数十メートルなどではない、数百メートルもあるのだ。それが人工物ではなく自然に出来た岩だというのだから、余計に信じられない。


 ここに居るのはジュリアンとハリシャ、ネイホフ、そして四人の水夫、一人の通訳と二人のラゴンバのガイド、


「見てよあの大きな花、こんなので花束を作ったら笑っちゃうわ」

「冒険っていいわぁー。船乗り共の気持ちが解るってもんじゃん」


 さらにはついて来てしまった二人の勝気なホステス。12人の一行は島の沿岸をボートで南下し、火山性の黒い砂が覆う美しいビーチから再上陸していた。


「近くに逃亡奴隷の集落がある、彼等はあんた達のような北大陸人を襲う、気をつけろ」


 ガイドの言葉を通訳が訳す。水夫達は落ち着きのない目で辺りを見回す。彼等の目には、ここにはもう自分達以外には文明の痕跡はないように見えていた。

 ジュリアンは二人のラゴンバのガイドに向き直る。


「その集落について、もう少し詳しく教えて」


 通訳からその言葉を聞かされたガイドの二人は、少しの間顔を見合わせ、小声で何事か話し合ったり、肩をすくめたりしていたが。


「彼等は奴隷にされた過去を憎んでいるし、連れ戻される事を恐れている。ジャングルを熟知していて、北大陸人がどんなに強くてもここでは敵わない。近づいてはいけない」


 やがて通訳を通じて、ジュリアンにそう伝えた。

 ジュリアンは腕組みをして考える。言われるまでもない、自分達北大陸人はガイドなしではこの密林を真っ直ぐ歩く事すら出来まい。だが彼等の言い分にはどうにも引っ掛かる所がある。


「正義を司る太陽の塔、その知恵の指し示す所……船長、分かりましたか?」


 それまで沈黙していたネイホフが呟く。ジュリアンに命を救われて以来、ネイホフは他の水夫達の模範となるよう率先してジュリアンに敬意を示して来た。


 今ネイホフが言った事は、ジュリアンが託されたゲスピノッサの奥歯に刻まれていた暗号の一部である。

 ジュリアンは腕組みをしたままネイホフの方を向く。


「親分にとって正義なんて言葉は、幻想とか、道具とか、そういうものと一緒だったんじゃないかな」

「ああ……それは解ります、海賊ですから正義なんてもん信じちゃいませんが、その言葉を利用出来る時は利用する、そんな感じですかね」

「だから正義は正午の事でいいのかなって。太陽の塔の知恵は、正午にあの岩の影が指し示す所でいいんじゃない?」

「なるほど、さすが船長だ。お前ら、影が落ちる場所をよく探すぞ!」


 ネイホフは水夫達にそう号令する。しかし、島の空はずっと曇っており、影はあまりはっきりと見えない。そして時計を持っていないネイホフ達は、そもそも今が正午かどうか解らない。さらには。


「あの……太陽の位置は、季節と緯度によって違うの」


 ハリシャはおずおずと小さく手を上げ、顔を突き合わせているジュリアンとネイホフに囁く。ネイホフは腕組みをする。


「そうだ、それにここはほぼ赤道直下ですから、春分と秋分の正午には太陽は真上から照らすはずだ、影なんて出来ねえ」

「え……あの、夏と冬には!?」

「6月には北から照らすから南に、12月には南から照らすから北に影が出来るわ」


 モーラの天文学に明るいハリシャが答える。知識はなかったが地頭の良いジュリアンは、問題に気付き頭を抱える。


「親分が何月何日の正午を指定してるのか、その日付がわからなきゃ意味がねえ」

「日付ですかい……船長、航海日誌にありませんか? ゲスピノッサ親分はこまめに日誌をつけるお方でした、親分が前にこの島を訪れたのがいつなのか、きっと書いていますよ……まあその日誌を持って行ったのは、ザナドゥの野郎なんですが」


 ネイホフはそんなジュリアンに提案するが、途中から自分が愚かな事を言っていると思いトーンを下げる。


「日誌を手に入れないと駄目かな……」


 そう言って肩を落とすジュリアンに、イソルダの店の面々の中でも比較的若く、勝気な二人のホステス、グラサとスカイカが並び掛けて来る。


「でもそれってさ、あの岩の真北か真南にあるって事でしょ? とりあえず行ってみたらいいじゃん、折角ここまで来たんだし!」

「そこにあの顎長おじさんの宝物が埋まってるんじゃないの!? 行こうよ、すぐそこなんだから!」


 ジュリアンはもう一度、彼方にそびえ立つ尖塔のような岩に目を移す。

 あれは確かにすぐそこにあるように見えるが、すぐそこではない。間にあるのは、非常に密度の濃いジャングルだ。真っ直ぐ進む事など不可能だし、この一行が通れそうな場所を探したらどれ程時間がかかるだろうか。


 ゲスピノッサ親分は、以前にも文明から遠く離れた場所に財産を隠していた事があるという。

 ストームブリンガー号に乗っていた時に訪れた、マリキータ島のアジト。マカーティ船長とコンドル船長はそこを訪れ、海底を浚ったが、見つかったのは僅かな硬貨と価値の低いガラクタだけだった。

 しかし上陸したロブ船長は、アジトの部屋にゲスピノッサ親分が隠していた仕掛けを見破り、小脇に抱えられる程度の宝箱を見つけ出した。

 その事件はストームブリンガー号の三船長にとっては、十分な報酬を得た冒険の記録となったのだが、その直後にアジトに入ったバーグホンド号は、親分がさらに島の山中に隠していた大量の武器、銃砲を回収していたという。


 そんな用意周到なゲスピノッサが、自分に託した暗号がこれである。


「親分は宝物があるだなんて一言も言ってなかったからね。後でがっかりしても知らないよ」


 ジュリアンはそう言って苦笑いをする。それでもジュリアンには、そこに何があるにせよ、それを託した親分の期待に応えたいという気持ちがあった。



 ジュリアンは自らゲスピノッサより譲り受けたサーベルを振るい、草木を切り開きながら、ジャングルを進む。ハリシャもそれに並び、こちらはマリー・パスファインダーに貰ったという短剣を振るって道を拓く。


「えいっ、えいっ……」

「大丈夫? 無理はするなよ」

「平気よ、だってわくわくするもの! こんな冒険に連れてきてくれてありがとう、ジュリアン」


 ハリシャの眩しい笑顔に照らされたジュリアンは頬を染め、ますます気合いを入れて進んで行く。

 そこへ。


―― ジャーン、ジャーン!


 突如ジュリアン一行の行く手から、金物を打ち鳴らす音が響く。一つや二つではない、左右からも鳴る。


「伏兵だ、囲まれてるぞ!?」


 ネイホフはそう叫び、慌ただしく辺りを見回す。同行していた四人の水夫も立ちすくむ。


「ああ襲撃だ、原住民の襲撃だ!」


 港で雇った通訳が怯えた声で叫ぶ。二人のホステスも驚いて怯える。

 ハリシャもはっとしてジュリアンの横顔を見る。ジュリアンは、妙に落ち着いていた。


「みんな少し下がって」


 ジュリアンはそう言って、全員に自分より後ろに行くように示す。現地人ガイドの二人、そして水夫達や他の者が皆ジュリアンより数歩後ろに下がる。ジュリアンはハリシャとネイホフに視線を送る。二人は顔を見合わせ、一歩、二歩、後ろに下がる。


「ガオオオオゥ!」


 次の瞬間。正面の昼なお暗き密林の合間から、巨大な怪物が飛び出して来た。極彩色のごつごつした顔、巨大な目、割けたような口からは真っ赤な液体が滴っている、それは並みの者ならたちまち肝を潰してしまいそうな恐ろしいものだった。


「キャアアアーッ!?」


 実際、二人のホステスはたちまち悲鳴を上げ座り込んでしまう。水夫達も半ば飛び上がる。

 ハリシャはジュリアンの方を見ていた。ジュリアンは突如現れた怪物の側面に回り込むと、その相手に組み着いていた。


「ぬおっ!? 離せ小僧!」


 組みつかれた怪物(・・)はラゴンバの言葉で何か叫び、もがく。怪物の首が、たちまち落ちる……


―― ゴロン!


「うわあ!」


 ネイホフも思わず叫んでしまう。怪物の顔面と思われていたものは、巨大な木の仮面だった。巧妙な彫刻を施され、塗装されている。

 巨大過ぎて顔につけられない仮面を両手で持っていたのは、腰蓑一丁のラゴンバの男だった。脇からジュリアンに組みつかれた男は仮面を捨て、ジュリアンを振り払おうともがいていた。そして体の小さいジュリアンを振り払うのは、簡単だったのだが。


「……」


 二人の女と一人の少女がほぼ裸の自分を見ている事に気付いた男は、赤面して踵を返し、密林の中に飛び込んで逃げ出す。


「そのお面はとっとけ、ハリシャはそこに居て!」

「待ってジュリアン危ない!」

「だめだ姐さん、敵はまだ居る!」


 ジュリアンは放り出していたサーベルを拾い、勇躍して男を追う。ハリシャもそれを追い掛けようとしたが、それはネイホフが止めた。


「だけどネイホフさん、ジュリアンが……」

「船長が強くて賢いのは本当です、それに船長は待つように言ったんです、どうか堪えて下さい」


 周りの茂みの中からも、バサバサと枝葉を揺らす音がする。水夫達はナイフや鉈を抜いて身構えていたが、その気配は次第に遠ざかって行く。

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ジャーン、ジャーン! げえっ関羽! いやこの時代に関羽はいない しかしジュリアンたちサン=モストロから大分離れて行動してるねえ 何が見つかるのやら
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