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冒険者マリー・パスファインダーの日記  作者: 堂道形人
サン=モストロの城

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307/322

ターナー「あの、どこでもいいから他所の港へ、一番に出る船に乗りたいんですけど……」

さて、ザナドゥからユッタへと託された言葉。マリーはどう伝えるのでしょう。

 サン=モストロの町の城壁外地区では、ザナドゥの命令を受けたと称する兵士達が方々で狼藉を働いていた。


「持ち物を調べさせろ」「巻頭布(ゲレ)を取れ!」

「何をするのさ!」「あんた達本当に兵士か!?」

「抵抗するとは怪しいなぁ、お前たちが魔女じゃないのかー?」


 兵士達は特に、地元民や移民の女達を呼び止めては、魔女を探しているという名目の元に、名前や巻頭布の下の顔、持ち物を調べる。



 一方マリーは他人の印象に残らない目につきにくい動きと、一見の判断を狂わせる巧妙な演技力を駆使して、戒厳下の町を進んで行く。特に銃士の服を着ている時のマリーは、歩き方と仕草の組み合わせで、10代前半の少女にも、20代半ばの青年にもなれた。

 買い物かごを持った婦人の後ろを歩く時に幼い少女のふりをすれば、ぱっと見には仲の良い母娘に見える。

 威勢のいい若者達の後ろを歩く時は、肩で風を切り辺りを斜めに見て歩く。すれ違う兵士達も、どう見てもターゲット外な上、喧嘩になると厄介な愚連隊集団には、わざわざ因縁をつけて来たりしない。

 そして曲がり角があれば、すぐにヒョイと曲がって消える。夫人も若者達も、マリーに利用された事も気付かない。

 露店の商売で人目を集める技術に長けているマリーは、人目を集めない技術にも長けていた。


 とは、いうものの。


 町の雰囲気は時を追うごとに悪くなって来た。最初に来た時はここだって、乱雑ではあるが活気もある場所だったのだが。

 用もなく出歩く者が少なくなれば、商いも捗らなくなる。マリーはそういう事には敏感だ。今、この町の景気は後退している。

 路傍でため息を一つつき、マリーはアジトに戻る。



   ◇◇◇



 マリーは掃除小屋に入る前にサリームに戻る。そして梯子を登り屋根裏へと這い上がる。ナーディルことカイヴァーンは、ぶち猫を抱えたユッタにおとぎ話を聞かせている所だった。


「そんなのはウソです、魔神さま、貴方はとても大きくて強いのに、あんなに小さな壺に入れる訳がありません、貴方は壺の中に入っていたふりをして、私に意地悪を言っているのです。漁師が震えながらそう言うと、魔神は顔を真っ赤にして怒りました。何と無礼な奴め、そこまで言うなら見せてやる、魔神はそう言ってモクモクとした煙に変身すると、壺の中に入ってしまいました。漁師はすぐに王様の蓋を取り出し……サリーム、やっと戻ったのか!」

「ちょっ……続きを言いなさい! そんな所でやめないで!」


 ユッタに引っ張られて取れそうになる付け髭を押さえながら、ナーディルはサリームの方に這い寄る。


「それで、何とかなったのか」

「ああ、あの……ユッタちゃん、ワシは今お父さんに会って来たんだけど」

「つづきー! つづき……本当? パパは一緒なの?」


 ユッタはナーディルに絡むのをやめ、サリームが登って来た梯子の下を覗き込む。そして不満そうにサリームに向き直る。


「居ないじゃない」

「だから、会って来ただけなんじゃ、いや会って話をしたけど、お父さんは城を離れる事が出来ないし、ユッタちゃんに城に来てもらう訳にも行かないと、その……お父さんは魔女と戦わなくてはならなくて」


 サリームが迷いながらそう話すと、ユッタは激高する。


「ターナーもそう言ってたって、わたし話したじゃない! やっぱり貴方もターナーも話にならないわ、もういいわよ自分で歩いて行くから、そこをどきなさい!」


 そしてサリームを押し退けて梯子に捕まろうとする。サリームはすぐにどうするか決めなくてはならなかった。


 ユッタの意思を尊重し、城へ連れて行くか? しかし、城も町もどんどん警戒が厳重になって行っている、そして自分やナーディルやぶち猫と違い、ユッタは普通の女の子だ、いや自分も普通の女の子だがユッタはもっと普通の女の子だ。ザナドゥの部屋まで、隠れて忍び込めるとは思えない。

 ではユッタを一人で行かせるか? しかしユッタは本物のザナドゥの娘ではないし、今のザナドゥがユッタを隠し子として扱っているなら、どんな問題が起きるか解らない。

 ユッタには何も説明せず、力ずくで閉じ込めておくか? 大人ならそうするべきなのかもしれない。傲慢で冷酷なようだが、その方がユッタの心を傷つけずに済む……だけど自分には出来ない、それではトライダーと王立養育院と同じだ。

 自分は本当の事を話すべきだ。自分がユッタなら、本当の事を話してもらいたいだろう。



「ユッタちゃん。ザナドゥの、お父さんからの言葉を伝えます! ユッタ、お前は本当は私の娘ではないッ……その事はお前にももう解っているはずだ、私の事は忘れて強く生きろッ……」



 サリームは声を震わせ、そう、絞り出すように告げた。


 最初に反応したのは、ナーディルだった。


「……嘘だろ……嘘だろ姉ッ……!」


 ナーディルは自分の口元を押さえながら、サリームに迫る。その声は酷い動揺に裏返り、震えていた。


「ユッタの親父がそんな事を言ったのか、だってそんな、嘘だ、強く生きろってまだ6歳のユッタに一人でどう生きろって言うんだよ、」

「ナーディル君、」

「ユッタはザナドゥのことパパって言ってるんだぞ、俺の元の親父は悪党で酷い奴だったけど、俺を捨てる事だけはしなかった、ザナドゥは何でそんな事を言うんだ!?」


 ナーディル(カイヴァーン)はたちまち溢れ出した涙に濡れながらサリームに迫り、サリームは天井裏を後ずさりして行く。梯子の所には、ユッタとぶち猫が残される。


「俺の母ちゃんは極悪非道の親父が大嫌いで、俺を生んだ事が嫌だったから、母ちゃんになってくれなかった、そんな親父ですら俺の親父にはなってくれた、年中鞭で打たれたしちょっとした事で叱られたけど、上手くやった時にはめちゃくちゃ褒めてくれたんだ、」


 今まで触れずに来たナーディル(カイヴァーン)の出生の秘密にサリーム(マリー)は圧倒され、あんぐりと口を開けたまま、壁際に追い詰められる。ナーディルは、天井裏の隙間だらけの床に顔を伏せ慟哭する。


 ユッタは。そこへ自分からやって来て、ナーディルの頭を、慈しむように撫でつける。


「そう。貴方も悲しかったのね。よしよし。泣かないで」


 ぶち猫も、そろりそろりと歩いて来て、ユッタの足元からその顔を見上げる。

 ユッタはすすり泣くナーディルの頭を撫でながら、腰を抜かしたように壁際に座り込んでいるサリームを見下ろして告げる。


「パパは私の所に来るつもりはないのね。じゃあ、私をパパの所に連れて行きなさい」


 サリームは憔悴し葛藤していた。自分には幸い実の父が居るが、父の居ない娘が誰かを父親にしたい気持ちは解らないでもない。


「ユッタちゃん、貴女の気持ちはわかるよ」


 サリームは壁際から立ち上がりユッタに近づく。ユッタはそんなサリームの顔を見上げる。


「パパが居ない寂しさは、ワシもよく解る……だけどザナドゥは本当に貴女のパパじゃないんだよ。そしてもう、親子の真似は続けられないんじゃ」


 自分は身分を隠してザナドゥに会った事で、ザナドゥとユッタの本当の関係を知ってしまった。ザナドゥの方には、その関係を続ける意思がない事も。

 どんなに辛くても。ユッタには、ザナドゥを父と思い込む事を諦めてもらうしかない。

 里親が必要なら自分が探してやろう。自分は何も6歳の少女に僅かな金を持たせ道端に放り出そうとしてるのではない。


「ザナドゥはそうして欲しいと言っとるんじゃ、ユッタちゃんとザナドゥが、二年前にとある町で出会って、そこで親子になったという話も聞いた……本当じゃ。魔女との戦いが始まる前にここを離れて欲しい、ワシの仲間の船があるから、ナーディルもぶち猫も一緒じゃから。新しい里親が必要なら一緒に探してあげるし、故郷に帰りたいならきっと連れて行ってあげるから」


 サリームは隙間だらけの床板の上に、コインの入った巾着袋を置く。


「これはザナドゥ……君の仮初めのパパからの、最後の贈り物じゃ……信じておくれ。わしらと一緒に、ここを去ろう」



 ユッタは。小さく鼻を鳴らすと、腕組みをして斜めに構え、(おとがい)を上げて、土下座をしているサリームを見つめる。


「私、パパが本当のパパじゃない事くらい知ってるわ。だって私は先に生まれて、あとでパパをパパと決めたんだもの」

「だったら、その、この袋を受け取って、」

「持って行くわよ。パパったらまた有り金ぜーんぶ渡しちゃったんでしょ」


 気難しい悪役令嬢のように。ユッタはサリームと巾着を見下ろしながら続けた。


「パパはあんなに大きくて()()()()顔をしてるけど、本当に弱虫なの。いつも誰かにいじめられて、殴られて、それでヘラヘラ笑ってるのよ。おまけに酷いお人好しで、全く見てられないの」

「ユッタちゃん……?」


 サリームはポカンと口を開きユッタの顔を見上げる。ナーディルも顔を上げ、ぶち猫と並んでユッタを見上げる。


「だから私、パパの娘になってあげる(・・・)事にしたの。娘になって、パパを守ってあげるって決めたの。どうせまたいじめられてるんでしょう? パパったら。こんなものよこすくらいだから……はー。しょーがないわねぇ」


 ユッタは相変わらず貴族の娘のようなデザインの服を着ているが、それは粗末な古着を組み合わせて作った()()()物だし、海に落ちたせいでずぶ濡れのままである。

 それでもサリームの目には、この6歳の可憐な美少女は誰よりも気高い貴族令嬢のように見えた。


「この巾着、ネコババしないで持って来てくれたのね、一応お礼を言っておこうかしら。私はパパを助けに行かなきゃならないから、ここで失礼するわ。さよなら」

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― 新着の感想 ―
ユッタちゃん、強い これは南大陸の女王(違) そしてこんなタイミングでカイヴァーンに悲しき過去… まあ最初の時点で干からびて死んでもおかしくなかった状況だったしなあ
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