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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第4章 Speak of the Demon
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第47話 仇敵

「戦況はこっち優勢……かな?」


 クレインを一望できる高台から、セルマは双眼鏡を使って戦場を把握する。

 ヴィヴィの〈翠玉聖霊(エスプリ)〉は豊富な魔力を活かして多数の敵を足止めあるいは撃破している。獣人種のミアとセルマの姉であるクレアが乗る〈叡魔白猫(ケットシー)〉も、初陣であるにも関わらず教団の手練れたち相手によく戦っている。先ほど報告があったところによると、ガル率いる陸戦隊もいくつかの拠点を制圧したようだ。


「〈マグナレイド〉は……」


 再び双眼鏡を覗き込み、レモンイエローの魔錬機(マギティファクト)を探す。――いた。特異な形の敵魔錬機を倒し、神殿の奥へと足を踏み入れるようだ。

 先ほど〈マグナレイド〉が糸の切れた人形のように倒れたときは肝を冷やした。彼が再び立ち上がる五分ほどの時間が、異様に長くに感じられた。

 数の不利がある以上、増援を送ることは難しい。敵の数が想定より多かったのも問題だ。けれど彼――いや彼らは再び立ち上がった。そして目的を遂げるべく進む。


「がんばって、二人とも!」


 マグナの言う〈紅艶魔王(アスモデウス)〉という機体は見当たらない。おそらくだが、彼が神殿の奥へ向かったということはそこにそれは座すということだ。さすがに敵の戦力もこれ以上残されていないだろう。勝負は一騎打ちで決まる。


 その敵にかつてマグナは負けたと言っていた。その結果としてラッセル村へとたどり着き、セルマ達と出会ったとも。けれどそれから三年経った。マグナもレイドもこの月日の中で成長したはずだ。だからセルマはそれを信じる。いやセルマだけじゃない、クレアもヴィヴィもそれを信じたからこそ、ここまでついて来た。だから信じる。


「勝って……!」


 ただ勝利だけを――。



 ☆☆☆☆☆



「おやおや、ここにたどり着いたということは朝比奈ナツキを退けたということかな? いやはやお見事と言っておこう」


 マグナがたどり着いた神殿の奥。かつて彼らが召喚されたその場所で、仇敵イライジャ・イオバルディは待ち構えていた。忘れもしない真紅の魔錬機――〈紅艶魔王(アスモデウス)〉に乗り込み、器用にもその両手で拍手をしている。パチパチとした音が、密閉された聖堂後にいやに響いて聞こえる。


「その朝比奈なんとかが誰だか知らないが、俺にくだらない悪夢を見せたやつにはツケを払ってもらった」

「はて悪夢? 彼のギフトは心地よい夢を見させるものだったと思うが。さて、同郷の勇者を殺した気分はどうかな、無能勇者殿?」

「勇者は殺したのはこれが初めてじゃない」

「おやおや……。それはいよいよ無能勇者という評価を改めなければいけないかな?」

「黙れ! 《雷撃》ッ!」


 挑発するように語るイライジャ目掛けて、しびれを切らしたマグナは魔法を放つ。青白い稲妻は高速で標的を貫き、イライジャを生け捕る――はずだった。


「その程度の魔法効かんと言った!」


 隙だらけに見えた〈紅艶魔王〉は地面に刺さっていた突撃槍(ランス)を瞬時に引き抜くと、それを左手で振るって容易く雷撃を払ってみせた。


(恐ろしい腕だな。怖気づくなよ)

「当たり前だ。ここまできて、ビビッて逃げ帰るかよ! 《武器錬成》――〈雷切〉!」


 もちろんマグナだってこんな単純な魔法一撃で勝負が決まると思っていなかった。即座に〈雷切〉を錬成し、雄叫びをあげて斬りかかる。だが――勢いにのったそんな攻撃も〈紅艶魔王〉の突撃槍に受け止められた。


「なるほど。山賊程度なら容易く葬れるほどに腕をあげたようだ。勇者を殺したのが初めてではないというのも本当の様だな!」

「そうだ! お前を倒す為に……俺はッ!」


 マグナは全身全霊を込めて刀を振るっている。しかし受け止めるイライジャの方に余裕があるようだ。二撃、三撃と打ち合わせるたびに、少しずつマグナは押されていく。


「風属性魔法相当の《雷撃》に、地属性魔法相当の《武器錬成》。だが貴様からは以前と同じく魔力は感じない。ならばギフトの類。しかし貴様はギフトを持たぬ故に“無能勇者”だったのであったな? 魔錬機を動かせたのも驚きだったが、これは驚嘆に値するぞ家畜よ」

「――ッ!」


 一つ動揺し、一つ有利をとられる。二つ動揺し、二つ有利をとられる。相対するのはただでさえ三年以上追い求めていた仇敵なのだ。少しのミスが万の敗因となる実戦において、動揺しまいとするほどに心が揺れてしまう。


(マグナ、落ち着け!)

「わかっているレイド! だけど俺は――」


 イライジャを倒したい。倒さなければならない。それが瀬名セイラに対する弔いであり、自身の目的なのだ。しかしそう思えばそう思うほどに切っ先は焦り、実力者であるイライジャを前に価値の目を自ら捨ててしまう。


「待て――それらのギフト、見覚えがあるな。確か貴様の仲間たちのものだった。違うか? それを奪った? 命と一緒に? それが貴様のギフトだったのか?」

「違う! 俺は奪ってなんかいない!」


 奪ったものではなく、託されたものだ。そう自信満々に言いたいが、瀬名セイラのギフトはともかく、川尻マサヤのギフトはそう言い難い。だから反論しつつも心の中ではマグナ自身それを信じ切れていない。


「その魔錬機の運動能力、そして他者のギフトを奪う力。貴様はいい家畜に育った。故にもう一度言おう――この私に飼われるつもりはないかな?」

「誰がそんな言葉に応じるものか! 貫け――《雷光一閃》ッ!」

「――む!?」


 余裕たっぷりに語りだしたイライジャに、マグナは必殺の一撃を叩き込む。〈雷切〉から迸る蒼い稲妻は《雷撃》とは比べ物にならないほどに、鋭く激しい一撃だ。今度は簡単に払われることもなく、〈紅艶魔王〉へと直撃する。


「ククク……。いや本当に化けたものだな欠落者、今のは効いたぞ。教団のシンボルたる『(わざわい)』の字が台無しじゃないか」


 煙が晴れ、〈紅艶魔王〉の姿が現れる。突撃槍で防げなかった稲妻は、その真紅のボディの右肩を焼き切り、刻まれた『災』の字ごと粉砕していた。


「『災』……。やっぱりそれは俺達の世界の……!」

「そうだ。ニホンの言葉だ。厳密には異国からニホンに伝わった言葉だったか? ――いや、それはどうでもいい。重要なのは文字の意味だ。火を意味する文字が入り、災いを表すとはなんとも我らが理想を形にしたようではないか」

「そこらへんも含めて、たっぷり喋ってもらう! 《武器錬成》――槍!」


 マグナは追撃を加えるべく、《武器錬成》の力によって次々に槍を創り出しては投げる。しかし、〈紅艶魔王〉は損傷したものの機体性能は落ちていないのか、槍は砕かれ全て土くれへと帰る。


「そう何度も食らうものではないさ。そして、貴様が知るのもここまでだ」

「まだだ! お前はここで倒す!」

(待てマグナ! 膨大な魔力を感じる!)

「この三年で成長した褒美だ。我が秘儀を見せてやろう――」


 レイドがマグナを止めようとしたのと、イライジャが突撃槍(ランス)を床につい刺したのは同時だった。


「――《魅了する火焔(ファシネイトフレイム)》」


 瞬間、空間が紅に染まった。揺らめく炎が、まるで生きているように〈マグナレイド〉を襲う。もはや〈紅艶魔王〉に近づくことすらできない。


「貴様は自分で三年間という月日で私に追いついたと思ったのだろう。しかしそれは考え違いだ。かつてシュルティアを焼いた際は、ただ炎をまき散らすだけだった。それをこの三年間で使いこなすまでに至ったのだよ、貴様と同じでね」

「くそ! 待て!」

(マグナ、不用意に突っ込むな! これは魔法の火だ! 私たちの身体といえども焼き殺されてしまうぞ!)


 刀で炎を切り払う。しかしゆらゆらと揺らめく炎は生き物のように行く手を阻む。普通の炎程度なら魔錬機と化しているマグナの身体は難なく通り抜けられる。けれどレイドの言う通りこれは魔法の炎だ。しかもただの魔法の炎ではなく、オッリ氏らが魔族を守る為に開発した対多数戦闘を前提にした特別な攻撃によるものだ。


「フハハ! これは攻撃するだけの炎ではないぞ? その名の通り魅了するのだ。さあ、炎を相手に無様なダンスを見せてくれたまえよ! しかし惜しいな。ここに貴様の仲間たちがいれば同士討ちが見れたものだが」


 頭がクラクラとしてくる。イライジャの嘲笑う声がガンガンと響き、精神を侵食する感覚がある。催眠攻撃を破ったばかりなんだ。負けてたまるかとマグナは奮い立とうとする。しかしこれはレベルが違う。


(マグナ……すまない……私もどうやら――)

「レイド! しっかりしろレイド!」


 催眠とは違い直接精神に感応するということか。マグナの心の中で一体と鳴っている、レイドの精神の灯が消えようとしている。このままでは〈マグナレイド〉の合体が解ける。そう直感的に思い至る。


「さあ、終わりにしようか」


 正面を見れば、左腕を叩く掲げる独特のフォームで構えられた凶悪な真紅の突撃槍が〈マグナレイド〉を狙っていた。


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