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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第4章 Speak of the Demon
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第45話 クレインの激戦

「てやあーっ!」


 白い魔錬機(マギティファクト)――〈叡魔白猫(ケットシー)〉はとても機械とは思えないような俊敏さで教団の魔錬機の間を縫うように駆け抜け、跳躍する。


 長柄の扱いに()けたミアは、手に持つ戟で突きあるいは払うことで敵を寄せ付けない。まさに柔軟かつ豪胆な戦い方だ。


「後ろから敵が来るなー。クレア、お願い」

「任せてミア! 水の女神様よ、力をお貸しください――《水流》!」


 緊張感があるのかないのかわからない声に促されて、後部座席に座るクレアは背部の訪問を操作。即座に反転させ、魔力を込めて魔法を放った。得意の水属性魔法《水流》だ。それが魔錬機に共通して備わる魔導コアの力によって増幅され、激しい勢いの鉄砲水となって敵機を襲う。


「やりー。やるねえクレア」

「どういたしまして! ちょ、ちょっとミア、前の敵もまた来るよ!」

「おっとー。じゃあよく掴まってて」

「――へ?」


 意図不明なミアの言葉に、クレアは聞き返すこともできなかった。ミアは〈叡魔白猫〉が持つ戟の石突を勢いよく地面へと突き刺し、言わば棒高跳びの要領で跳躍した。


「えええええええっ!?!?」

「下噛むよー」


 とっさにしがみついたクレアは目の前が天地逆さになり、ただ前部操縦席に座るミアの白いふわふわな毛が目に入った。そして〈叡魔白猫〉はドンと衝撃をもって着地する。まだ魔錬機の操縦を練習し始めたばかりだがセンスのあるミアは上手く負荷を逃がすと、巧みな操作で戟を操り、想定外の行動に虚をつかれた敵機を襲撃する。


「あらよっとー。大丈夫ークレア?」

「な、なんとか。ミアったら無茶するね……」

「若様のためにがんばらないとねー。クレアも同じような気持ちで乗ってんでしょ?」

「……うん。私もマグナを助けたいから!」


 ミアが若様――ガルのために。そしてクレアはマグナのために。

 想いを秘めた二人のルーキーは、その才能と心の強さをもって迫りくる教団の熟練魔錬機乗りを圧倒していた。



 ☆☆☆☆☆



「《泥濘連弾》ッ!」


 泥の弾を連続して放つ地属性魔法が炸裂し無数の弾丸が敵を襲い続ける。

 ミアが相対しているのは三機の魔錬機。

 数の上では不利だが、こうやって攻撃を浴びせている以上動きは封じることができる。

 しかしいくら(エルフ)の彼女といえども、無限に魔法を放ち続けることはできない。次の一手に取り掛かるべく行動を開始する。そういう意図をもって浴びせ続けていた攻撃を中止した。


「やはり向かってきますか!」


 想定通り敵の三機の魔錬機は、フォーメーションを組んで向かってくる。ヴィヴィの誘いにのった――いやのってくれた。間違っても魔力切れだと軽率に判断したわけではないだろう。


 とにかく敵は熟練の動きで近づいてくる。ヴィヴィはそれを見て操縦席の中でニヤリと笑うと、〈翠玉聖霊(エスプリ)〉を踊るように動かす。


「まずは先頭の一機、《泥沼》!」


 先頭を進む一機の足下にヴィヴィの魔法によって泥沼が出現し足をとられる。

 ここは乾いた山肌の山岳地帯であり威力は半減だが、一瞬足を止めれば十分だ。

 しかし残りの敵機は、そんなの織り込み済みだとばかりに進撃してくる。


「それも想定通りです! 味方を避けて向かってくることは想定通りです! そしてこれまでの戦闘から二番目のあなたの機体は左足の動きが若干悪い! 有り体に言えば整備不良ですね! 気づくか気づかないかの差ですが私は気づきましたッ! つまり――」


 おそらく相手には聞こえていない。けれどヴィヴィは喋り続ける。元気よくハキハキと喋り続ける。それが彼女のスタイルであり、例え相手に伝わらなくても相手の不手際を指摘してあげるのが王族たる者の勤めだからだ。


「つまり――、左側からの攻撃に対応するには、若干のラグが生じるということ! お覚悟! 《泥濘散弾》ッ!」


 ヴィヴィはひらひらと舞い踊るように〈翠玉聖霊〉を滑らせると、迫る二機目の魔錬機へと接近。その左側面から先ほどの連射とは違い放射状に炸裂する泥の弾丸を、至近距離で放つ。クリーンヒットした攻撃は見事に敵機の上半身をブッ飛ばした。


「お次は――おっと、刀をもって接近戦ですか! 良い判断です! けれどあなたの操縦だいぶ癖がありますね! 出会った時から私の右へ右へ回り込むように動く。ほらまた右側です! 魔錬機は人型である以上、どうしてもそういった癖は出てしまいますからね! 仕方ありません! けれど直した方がよろしいと思いますよ。まあ――」


 彼女は王族であり、王族たるとも負けは許されない。

 否、彼女の中で勝つことは当然の(ことわり)なのである。

 そういったある種の傲慢さが、ヴィヴィアンヌ・ラ・テール・ヴィクトワール・ヴェルディエという極めてポジティブな(エルフ)の王女を形成していた。


「まあ――ご存命であればの話しですが」


 動きは読んでいた。後は簡単だ。迫りくる三機目の魔錬機は、あらかじめ設置していた魔法による(トラップ)によって地中から生えた鋭い石柱に串刺しにされた。


「というわけで、あなた方は負けるのです! 教団なる組織が悪ゆえに滅びる――そういった理由では決してありません! 私は強い、あなた方は弱い。そういったシンプルな弱肉強食の原理によって負けるのです! おわかりいただけましたでしょうか?」


 ヴィヴィがそうやって演説をしている間、ようやく泥沼か足を出すことに成功した最初の魔錬機が、右手に魔法の炎を、左手に魔法の雷を発生させて〈翠玉聖霊〉を狙う。


「はい《土壁城塞(どへきじょうさい)》!」


 地中から強固な土の壁を発生させる地属性の上級魔法だ。〈翠玉聖霊〉を狙った二筋の魔法は、それによってあっさりと防がれた。


「なんの捻りもない攻撃です! そしてあなた方の魔錬機も、整備性を考慮してかどこでも見ることができる〈単眼鬼(サイクロプス)〉や〈死食鬼(グール)〉ばかり。見ていて興味深いものでもありません! つまり! あなた方は何事にもシステマティックすぎるのです! 秘密結社なら秘密結社らしく独自にカスタマイズされた謎の最新鋭機でも使用してはいかがでしょうかッ!!! ゆえに――」


 地中から出現した壁は防壁であり囮だ。ヴィヴィは敵の意識をそちらに向け、静かに〈翠玉聖霊〉を移動させた。そう、敵の魔錬機の真横へ。


「ゆえに――ごきげんよう。残念ながらまたお会いすることはございませんし、この戦いもティータイムの世間話にもなりませんが。《泥濘強弾》ッ!」


 強固で強力な泥の弾丸だった。それは的確に操縦席を撃ち抜き、操り人を失った〈単眼鬼〉は力なく倒れる。


「おや、新手ですか! おかわり自由の食べ放題とはこのことですね!」


 ふうと息をつく間もなく、次の敵が現れる。

 想定よりも敵の数が多いようだ。けれど今の彼女には問題ない。そう言い切れるほどの魔力のキレを彼女は感じる。それは神殿都市クレインが地脈の集中する地にあることも関係あるだろう。魔力は彼女たち(エルフ)にとって生命力だ。


 そしてなにより、信頼できる仲間の為に戦っているからだろう。

 彼女は行き倒れ、マグナ達が助けた。彼女は正体を明かし、それでもマグナ達は旅の同行を許した。それ以上に何が必要か――いや、ない。


「ああ、〈紅艶魔王〉をいじらせていただくのも楽しみですね!」


 きっとマグナが相対しているだろう魔錬機の名前を口に出すと、興奮で身体が火照る。早くなでたい触りたいいじりたい。きっと素敵なひと時に違いない。


「――む?」


 そんな時、彼女が絶えず感じていたマグナの――厳密には〈マグナレイド〉の魔力反応が少し揺らいだ。自然現象ではない揺らぎだ。


 心配だ。結構心配だ。貴重な魔錬機である〈レイド〉のことはもちろん、人に興味を抱かない彼女には珍しくマグナのことも心配している。それほどまでに今の彼女にとって仲間たちの存在は大きい。


「まあ、マグナさんたちなら大丈夫ですね! なにせ王女である私の仲間ですからッ!」


 なんの疑いもなくそう思った。元より目の前の敵をどうにかしないと、救援にも行けない。だから彼女はマグナ達の心配をいったん横へおいて、迫りくる敵へと向かった。



☆☆☆☆☆



「――グナ」

「んん……」


誰かがマグナを呼ぶ声が聞こえる。

誰だったか。最近聞いた声な気がするし、そうではない気もする。

でも今はこの温かな日差しの中で、もう少しまどろんでいたい気分だ。


「――マグナ、おいマグナ。起きろって」

「うるせえなレイド……もう少し寝かせてくれ……」

「いや、誰だよレイド。寝ぼけてねえで日本史はじまるっての。もうすぐ先生くんぞ」

「――え? 日本史……?」


強烈な違和感を抱いて顔をあげる。

見慣れた教室、見慣れた黒板、そして学生服の自分。


「ここは……元の世界……?」


松平マグナは、間違いなく彼のよく知る三年二組の教室にいた――。


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