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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第4章 Speak of the Demon
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第42話 黒い感情の果てに

「《武器錬成》――〈雷切〉! とりゃあああッ!!!」


 魔錬機(マギティファクト)〈レイド〉と融合し、〈マグナレイド〉となったマグナはその手に長刀を錬成。そのまま一気呵成に斎藤ツバキ操る異形の魔錬機――〈憎恨水蛇(ヒュドラ)〉へと斬りかかる。


「くっ……!」


 〈憎恨水蛇〉は複数備わっている――いや、むしろ生えていると表現した方がいいかもしれない触腕で〈マグナレイド〉の一撃を防いだ。が、マグナの勢いが勝った。

 そのまま刀を押し込むと、〈憎恨水蛇〉を蹴り飛ばした。バランスを崩していた〈憎恨水蛇〉は大きく飛ばされ、フォトゥリ郊外の山肌に激突した。


「上手く郊外に吹き飛ばせたか?」

(二、三建物を巻き込んだようだが、魔力反応はない。人的被害はないだろう。市街地戦の初撃にしては上出来だ)


 マグナは状況把握に努めながらも、追撃を加えるべくすぐに追いかける。

 〈憎恨水蛇〉は瓦礫の中から体勢を立て直そうとしていた。


「松平、あんた魔錬機を……! いいえそもそも、よくも魔法で私の事を痺れさせてくれてえええッ!!!」


 怒りを込めたツバキの絶叫が木霊する。

 その瞬間、マグナは鋭い痛みを感じてバランスを崩した。


「――ッ! なんだ!?」


 〈憎恨水蛇〉が攻撃を行うようなモーションはなかった。しかし間違いない。二度三度と続いて感じる鋭い痛みは、斎藤ツバキの攻撃によるものだろう。


「レイド、これはなんだ!? 魔法か?」

(いや、魔力反応はない。つまりこれは――)

「――物理攻撃か! そういうことなら!」


 マグナは大きく跳躍した。〈マグナレイド〉の運動性能のポテンシャルをもってすれば、かなり高く跳躍できる。そして跳んだその頂点で、〈雷切〉を真下に振るった。すると彼の狙い通り、確かな手ごたえを感じた。


「くうっ……! 松平、あんた!」

「思った通りだったみたいだな! 斎藤! お前はその触腕の何本かを透明化させて攻撃してきていたんだな!」


 〈憎恨水蛇〉はいくつもの触腕を備えている。その総数は、会敵したばかりのマグナは知る由もない。だから斎藤ツバキはその全てではなく、幾本かを彼女のギフトで透明化させることによって、見えない攻撃を叩き込んでいた。


 マグナからしてみれば、それは攻撃モーションも魔力反応もない文字通り“()()()()()()”となるはずだった。しかし魔力探知に長けたレイドと、幾度もの戦いを経て勝負勘が養われたマグナの前には、こんな小細工は通用しなかった。


「なんで!? なんであんたは邪魔すんの!」

「支離滅裂だな。勝手に暴れまわっているのは斎藤、お前だろう」

「私はただ許せないだけ! 私がどれだけ苦労したかもしれないで、のうのうと生きていてさ。結婚して、子どもまでいて。アヤネの癖に私を置いてけぼりにして。私の方がずっとおしゃれで、綺麗で、コスメやブランドにも詳しかったのにッ!!!」


 今度は本体ごと〈憎恨水蛇(ヒュドラ)〉が消えようとする。だがそれはマグナがさせない。《武器錬成》によって造り上げた槍を投擲し、装甲を抉ることによって防ぐ。


「友達の事をそんな子分みたいに言うのって良くないぞ。竹中アヤネはお前の事を本気で心配していた」

「あああああッ! それが上から目線だって言ってんの! 松平、無能勇者だって言われたあんたならわかるでしょ!? こんなクソみたいな世界をかばうの!?」

「俺は……」


 マグナの脳裏に無能勇者だと蔑まれた記憶が蘇る。

 この世界に来て良いことなんてなかった。元の世界だとそこそこ楽しくやれていたはずだ。そんな絶望を優しさで照らしてくれた瀬名セイラも死んでしまった。けれど――、


「俺はお前とは違う! 憎しみを振りまくのはやめろ斎藤。不満があるのなら自分が変われ!」

「うるさいうるさいうるさいッ!!! 私の方がすごい、私の方がいいねが多い、私の方がおしゃれ、私の方が綺麗ッ! 心国は私に約束した。大魔王の手先の魔族を殺せば、きっと元の世界に帰れるって! 綺麗でおしゃれな元の世界に! だから私は殺す。殺して綺麗になる。だから燃えろッ!」


 その叫びと共に〈憎恨水蛇〉の触腕がぶわーっと広がり、その蛇のような口先から火炎が放たれる。フォトゥリの街に炎が広がっていく。


「魔法か!?」

(いや、おそらく魔錬機自体の機能だ)

「なら切り落とせば解決か!」


 激しい炎で本体には近づけない。だからマグナは触腕の一本一本を切り落としていく。切り落としながら本体へと近づいていく。


「終わりだ!」

「終わりはお前だ」


 火災の広まりに気をとられ過ぎた。そしてあまりにも容易く本体へと近づけたので油断し過ぎた。二つの注意不足が、マグナを死へと近づけた。


 一本だけ。そう一本だけだ。狂ったように見えてしたたかさを隠していた斎藤ツバキは、触腕を一本だけ透明化させて忍ばせていた。そして今、その一本が無防備な〈マグナレイド〉の操縦席の位置へ穿たれようとしている!


「しま――」


 刻が止まったように感じる。脳内に記憶が駆け巡る。それが走馬灯だと気がついた時、マグナにはもう対処しようがなかった。すぐにくるであろう衝撃と痛みに備える


 ――が、その瞬間がくることはなかった。


「こんな盾、どこから!?」


 命拾いをしたマグナ本人が驚きの声をあげる。見れば〈マグナレイド〉と触腕の間に一枚の鉄の盾が出現し、必殺の一撃を防いでいた。


「地属性魔法相当の防壁生成――アヤネえええッ!!!」


 ツバキの叫びによってこれが竹中アヤネのギフトによるものだと理解したマグナは、自分へと迫っていた最後の触腕を斬り捨てると、刀を〈憎恨水蛇(ヒュドラ)〉へ向けた。


「私は帰る! 邪魔なアヤネも殺して、魔族なんて害虫もみんな殺して! だいたい魔族なんて変な生き物が幸せに暮らしているっておかしいじゃん。私はあんだけ苦労したのに! ねえ! ねえ! ねえッ!?」

「そうか、じゃあ一足先に帰ってくれ。貫け――《雷光一閃》」


 静かにそう唱えると、青い稲妻が迸った。

 焦げた匂いと共に〈憎恨水蛇〉の操縦席に穴が空き、ジタバタとのたうっていた異形の魔錬機の動きが止まった。



 ☆☆☆☆☆



「ごめんね、嫌な役をやらせちゃって」

「慣れているから構わない。……慣れちゃいけないんだけどな」


 もう既にマグナの手は血で汚れている。斎藤ツバキの命は奪わざるを得なかった。だからマグナの中に後悔はない。フォトゥリの街や仲間を守るために他に手段はなかった。

 竹中アヤネもそんなマグナの過去をほじくり返そうともせず、ただ「そっか」とだけ返答した。


「ツバキはさ、うちなんかよりずっとおしゃれだったんだよ。高校を卒業した後は、服飾の専門学校に行くって言ってたし、フランスにも行きたいからフラ語も勉強してた。努力家なんだよ。アヤネには夢があった。こんな世界にこなければ、きっとすごいデザイナーになってたと思う」

「……そうだな」

「うちはさ、ただそんなツバキに会いたかった。私の親友のツバキに。でも、でも……」


 アヤネの目から大粒の涙が零れ落ちる。マグナは彼女を抱きしめはしない。彼女を慰める術を知らない。だから黙って話を聞く。


「おーい、アヤネちゃん! アッテさんが目を覚ましたって!」


 そんな時、遠くからエルモがそんな事を叫んだ。

 数日を経てアッテ氏の容体は安定していた。そんな彼が目を覚ましたのだ。


「ほら、行かないと。娘さんは後でクレアが連れて来るよ」

「うん、うん。でも今のうち、悲しくて泣いているのか嬉しくて泣いているのかわかんないや……」

「どっちもでいいんじゃないか? 親友が死んだことを悲しむのは当然だし、旦那さんが無事で喜ぶのも当然だ。竹中がこの世界で築いた家族と幸せに暮らすことは、悪いことじゃないよ。良いことだ。俺は断言する」

「うん、そうだね!」



 ☆☆☆☆☆



 もろもろの事後処理は中央から派遣されたマルティナに任せ、マグナ達は呼び出されて老オッリのもとを訪ねていた。


 マルティナは「本事件におけるマグナ殿の英雄的活躍は、必ず終王陛下へのお耳にいれる」と激賞し、今後何かあった際の協力と、終国内において彼女の名前を使って便宜を図ってもらえることとなった。


「しかし喋る魔錬機とはのう……」

「隠していてすみません。オッリさんはレイド以外の喋る機体をご存じですか?」

「いいや、見たことも聞いたことも初めてじゃわい」


 オッリ老が聞いたことないという事は、おおよそこの世界において珍品極まりないということだ。


「ワシが気がついたのは、この〈レイド〉という機体はワシらが魔族の為の魔錬機を造る際に参考にした、最初期の魔錬機に酷似しとるということくらいかの」

「最初期の……?」


 マグナはさっぱりわからないが、一人だけわかった人物がいたようだ。ヴィヴィだ。


「やはりそうでしたか! 私もレイドさんをいじらせてもらった際、現行の魔錬機とは著しく異なる部位が多数見受けられましたゆえ!」

「左様。ワシらが魔錬機を開発する際も、とある勇者が協力してくれての。そ奴が操っておったのがその最初期の魔錬機のうちの一機じゃ。となるとこの部分に――」


 オッリ老はよっこらせと〈レイド〉のボディに手を触れると、胸のあたりにあった装甲を開き、中からさらにパネルのようなものを外した。その奥には、何かミミズの這った様な形の文字が刻まれていた。


「オッリさん、これは?」

「銘じゃな。一点物の魔錬機はもとより、〈単眼鬼(サイクロプス)〉のような大量生産品にもその原型機には刻まれておるものじゃよ」

「ヴィヴィ、知っていたか?」

「もちろん銘の存在は知っていますが、レイドさんのこの部分に刻まれているとは私も……」


 あれだけ〈レイド〉をいじりまわしていたヴィヴィが気づかなかったのだ。オッリ老が〈レイド〉と近い型の魔錬機を触ったというのも、〈レイド〉が最初期型の魔錬機という推測も本当だろう。


「小僧、これ読めるか?」

「え? えーっと……」


 ミミズの這った様な文字は、マグナの知る漢字の成り立ちに酷似していた。なんとなくなだが、読める気がする。


「こっちは(れい)かな? だとすると二文字で……『零人』。もしかしてこれで零人(レイド)と読ませるのか?」

零人(レイド)……それが私の本当の名」

「レイド、名前を聞いて昔の事を思い出したりしないか?」

「……すまない。それはないようだ」


 レイドはある程度以上昔の事を記憶していない。刀の振るい方などの技術は染み付いているが、知識としては元の世界の記憶がないマグナと同じくスカスカだ。


「そうか。魔錬機を勇者が造ったのなら、漢字が刻まれていてもおかしくはないわけか。漢字か……」


 思えばマグナは、マグナという自身の名前の漢字表記さえ思い出せない。それはまるで本来の自分の姿を忘れているようで、ひどく空虚に感じる。


「お前さんたちは旧雅国の神殿都市クレイン跡地を目指すと言っていたな? 街や孫夫婦を救ってくれた礼だ、整備は十二分にしてやる。(エルフ)種の嬢ちゃん、手伝いな。この老いぼれの技術をあますことなく教えてやろう」

「はい! よろしくお願いします師匠ッ!!!」


 レイドは自分の記憶の一部を取り戻した。ではマグナは?

 決戦が近づく彼の心は、曖昧な記憶の狭間に揺れていた。


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