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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第4章 Speak of the Demon
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第40話 影の正体

「うーん、ないです! 残留魔力反応は感じられません!」


 フォトゥリの街で発生している連続襲撃事件の解決をアヤネから依頼されたマグナは、ヴィヴィを連れてアッテが襲撃された現場へとやって来ていた。魔力に対して鋭敏な知覚を持つ(エルフ)種の彼女なら、何かヒントを感じ取れるかもしれないと期待したからだ。


「そうか、ヴィヴィでも無理か……」

「そもそもマグナさんたち勇者のギフトと我々の魔法は似て非なる存在なのです!」

「そういうものなのか?」

「はい! 今回の一件が光属性魔法を利用した単純な目暗ましなら、妖種に負けぬ魔力知覚を持つ魔族の方々が、こうも犠牲にならなかったでしょうッ!」


 言われて初めてマグナは考える。彼らのギフトを判別した際、もしくは誰かが勇者のギフトを語る際、決まって何とか魔法“相当”のと言っていた。つまりヴィヴィの言う通り、一応この世界の魔法系統に当てはめているだけで、厳密には違う存在なのだろう。


「そう言えばマグナさんのギフトを伺ったことはなかったですね! 風属性相当の電気操作ですか!? ……いや、確か地属性魔法のような芸当もされていますよね?」

「あはは……、それは今いいじゃないか。さ、次の現場を調べに行こう」


 ふむと珍しく真剣な顔で顎に手を当てながら考え出したヴィヴィに対して、まるで露骨に話を変えるようにマグナは歩き出した。


 ――いや、まるでではない。マグナはこの話をしたくなかった。

 もしかしたら魔法に詳しいヴィヴィに聞けば、《融合》の力について何かわかるかもしれない。だが今は、セイラの力を受け継ぎマサヤの力を奪ったこの能力を明かしたくなかった。


 秘密主義というわけではない。けれど仲間には、もう少しこの能力の実体が判明してから伝えたい。まるで戦場の死体漁りのようなこの能力の。


「ちょ! マグナさん、待ってくださいマグナさーん!」



 ☆☆☆☆☆



「はー、結局なんもわからなかったな……」


 数日かけてこれまで発生した事件の現場は全て周った。しかしそのいずれも残留魔力反応は出なかった。それならと地図上に発生現場を点で示してみたが、特に法則性というものも発見できなかった。遺留品無し、法則性無し。マグナが元の世界の推理ドラマで得た知識は早くも限界に達していた。


「そもそもそういう捜査なら、フォトゥリの人がとっくにしてんじゃない?」

「そうだよなあ……」


 竹中アヤネの子どもと遊んでやりながら話すセルマの意見に、マグナは心底同意する。

 エルモに聞いた話しによると、フォトゥリの人々は自警団をつくって夜の巡回をするなど事件究明に全力を挙げているようだ。そんな彼らがこの程度の捜査をしていないわけがない。


「外は寒くて疲れたでしょ? いったん休んだ方がいいよ――あれ? お客さん?」


 ドアがノックされる音が聞こえ、家主不在の間家事を一手に任されたクレアがパタパタとかけていく。玄関から入ってきたのは、見知らぬ魔族の女性だ。


 黒い肌に鳶色の瞳。紙の色は銀色でピシッとした制服のようなものに身を包んでいる、キリっとした顔立ちが真面目な印象を与える美女だった。腰には刀を佩いている。


「失礼。ここに連続殺人事件を捜査している勇者がいると聞いた。相違ないか?」



 ☆☆☆☆☆



「――で、えーっと……【マティルダ】さんは事件捜査の為に中央から派遣されてきたと?」

「そういうことだ。普段は魔錬機(マギティファクト)部隊の隊長を務めている」

「魔錬機部隊の方がなぜ?」

「現在我が国は武国及び心国と激しい戦いを繰り広げている。人手が足らんということだ。愛機が整備中の間に解決せよと下命を拝した」


 マティルダ自身が語ったところによると、彼女は事件究明のため終国中央から派遣されてきたこの国の騎士だという。いろいろとごたついていたため今日になってやっとフォトゥリへ到着し、捜査の過程でマグナの話しを聞いたためやって来たと言う。


「マグナ殿と言ったな。もし貴公が事件解決に協力してくれるのならありがたい」

「こちらこそ。正直行き詰っていたところで……。これが集めた情報です」


 マグナはそう言って、事件発生場所、時間帯や状況、そして被害者の情報が書かれた紙をテーブルに広げる。


「捜査を始めて数日だと言っていたが、よく調べられているな」


 聞き込みは主にセルマが行った。どうやったかわからないが、人と仲良くなるのが得意な彼女はよそ者に警戒心を抱いているはずのフォトゥリの住人にすぐに溶け込み、あっという間にいくつもの情報を集めてしまった。


「ふむ……もしかしてこの者の種族はXxxjigか?」


 資料を眺めていたマティルダが何か聞き取れない言葉を発した。マグナ達がポカンとしていると、マティルダはすまないと謝って、


「魔族語はわからないか。この上から二番目に記されている者は、三つ目があって体毛が濃い種族の者だったか?」

「あ、それならそうだよ!」


 今度は理解できたとセルマが即答した。

 マティルダは納得して、再び資料の上で指を滑らせる。


「やはりか。となると名前からしてこっちはSippqq、こちらはZznnun族の者だな。直近で襲われた者の特徴は?」

「青い肌でやせ型。後は俺たち人族と変わらない感じです」

「なるほど、おそらくInbaunだな」


 そして確信を得たように彼女はうなずく。


「何かわかったんですか?」

「少しは。ここに記されている被害者たちは皆、皮膚の柔らかく草食、もしくは草食よりの雑食の種族の者たちだ」

「草食……そう言えばアヤネさんから、この子にはあまりお肉を食べさせないでねって」


 アヤネから家事と子どもを任されるとき、色々と言付けを受けていたクレアが言った。マグナも思い返してみれば、アッテ氏が襲われた夜の食卓に並べられていたのは、肉の入っていない野菜のスープだった気がする。


「一口にun……魔族と言っても、その共通点は満月胆があるかどうかで我らの同胞(はらから)には多様な種族があるのだ。Inbaunは雑食の種族だが、肉をとりすぎると体質に変化が現れる。しかしこの犯人、満月胆に雑味が入るのを嫌ったか」

「そうか。つまりこれは無差別な通り魔的犯行ではなくて、ある程度計画性がある犯行」

「そうなるな。しかし困った。私自身を囮に捜査しようと思っていたが、あいにく私の肌は強靭だ」


 マグナの目からすると普通の人間と変わらないようにも見えるがそこは魔族。見た目にはわからない力を備えた者も多い。


「襲われる種族がわかったところで、対策をうてなければ……!」


 マティルダは悔しそうにテーブルを叩く。この事がわかったからといって現実的にうてる策は、自警団に伝えて警戒を促す程度だ。


「ひとつ質問なのですが! 条件に当てはまる方はこの街の住人の何割ほどなのですか?」


 ――と、不意にそんなことを今まで黙っていたヴィヴィが言い出した。


「おおよそ四割……いや、草食よりの雑食という点を鑑みれば、三割弱ほどかと思う」

「ふむ! それなら可能です!」

「ヴィヴィさん、何が可能なんですか?」

「よくぞ聞いてくれましたクレアちゃん! この街の住人、その三割ほどの行動を追うのなら、私の魔法で可能ですッ!」



 ☆☆☆☆☆



 日が沈み始めた頃、一人の魔族の女性が歩いていた。

 物騒な事件が続いておりなるべく人通りの多い道を歩くようにしているが、自宅は中心地から離れており、どうしても人気(ひとけ)のない路地を行く必要もある。


 そんな路地に差し掛かった時だった。後ろの方から気配を感じる。

 振り返ってみても誰もいない。不気味に思い、自然と早足になる。


「ハア、ハア、ハア……」


 聞こえるのは自分の息遣いと、雪道を踏む足音、それから早くなっていく鼓動。それだけのはずだ。けれどそこに自分の物ではない足音が混ざった気がした。その時だった。


「――っ!」


 闇の中からヌッと生えたように現れた大振りのナイフが、自分の腹に今まさに突き立てられようとしていた。沈みゆく夕日にあてられて、刃が凶悪に輝く。


「させるかよ! 《雷撃》!」


 刺される痛みを覚悟した彼女に聞こえてきたのは、そんな声だった。

 そして魔法の雷が闇から生えた腕に当たり、動きが乱れる。


「おいあんた、早く逃げろ! セルマ! ここが当たりだ! 皆を呼べ!」

「わかった!」


 腰が抜けて倒れ込む女性を助け起こしながら、マグナは叫ぶ。


「さあ、正体を現しやがれ! 《雷撃》!」

「――!?」


 もう一度虚空に《雷撃》を撃ちこむと、変化があった。

 まるでゆで卵の殻のように。背景がぺりぺりとめくれていく。

 やがて現れたのは、細身で髪の長い女だった。


「お前は――斎藤ツバキ!」


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