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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第4章 Speak of the Demon
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第39話 凶刃

「松平はさ、クレインに行くん?」

「そうなるな。準備ができ次第すぐにでも行きたいけれど」


 オッリ老に話を聞いた夜。マグナたちは竹中アヤネとアッテの夫婦から、夕食へと招待されていた。


 イライジャが根拠地にしている場所はわかった。すぐにでも向かいイライジャを討ち取りたい。だがマグナ達の戦力は魔錬機(マギティファクト)が二機だけであり、教団がどれほどの戦力を持つかわからない以上、安易に仕掛けるのは無謀だと言える。


 獣人種のガルは敵の居場所がつかめたら呼べと言っていた。一族の戦士を連れて加勢するとも。心強いが彼らは魔錬機に乗れず、現実的に戦力差は埋まらない。


「ヴィヴィ、本当にガルに連絡をとれるのか?」

「ご心配なく! ある種の魔力を込めて木に印を刻むと、それを見た鳥獣がガルさんに伝えてくれますのでッ!」


 獣人種は鳥獣とある程度の意思疎通ができるらしい。けれど彼らは肉も食う。

 肉を忌避するのは(エルフ)種の方だ。しかし健啖家のヴィヴィは例外らしく、曰く「大地の女神様もお許しになるでしょう!」とのことだ。獣肉を食わないのは特に宗教的な意味合いではなく、長年の習慣によるものらしい。


「ああー、しかしお腹が空きました! 空腹です!」

「ヴィヴィさん!」


 そんなヴィヴィがお腹を鳴らしながら空腹を訴え、クレアがそれをたしなめる。マグナはそんな彼女の姿に王女であることを疑問に感じつつ、腕をふるった料理を食卓に並べる竹中アヤネに謝った。


「すまん竹中」

「あはは、いいよ。それにしてもダーリン遅いなあ……」


 料理は少し前にできている。今は家主であるアッテの帰宅待ちだ。

 オッリ老に話を聞いた後、アッテは仕事があるからとマグナ達とは別れていた。終国は日が沈むのが早く外はとうに真っ暗闇だ。


「仕事が長引いてるのかなあ? でも今日は早めに帰ってくるって――」


 アヤネが心配そうに窓から外を眺めていたその時だった。玄関の扉が明けられ、赤い肌の魔族の男が駆け込んできた。ビュオっと雪風が部屋の中に入り込み、身が縮むような寒さを感じる。


「エ、エルモさん!? どうしたん?」

「はあはあ、落ち着いて聞いてくれ!」


 そうは言うものの、エルモと呼ばれた魔族の方がよほど落ち着いていない。なにせ息は整っておらず、本来は赤い肌を真っ青にさせている。そしてエルモは叫ぶようにこう言った。


「アッテが襲われた! 例の連続殺人の犯人に!」



 ☆☆☆☆☆



「ダーリン……」


 アヤネがベッドに横たわるアッテの手をぎゅっと握る。

 少し冷たい手は握り返してはこない。


「アッテは犯人に腹を掻捌(かっさば)かられた。けれど魔法の腕が良いからなんとか追い払えたんだな。そして倒れているところを俺が見つけて医者に運び込んだんだ」


 エルモがそう語るように、アッテはなんとか一命をとりとめた。満月胆も切り取られる前だったようだ。しかし一命はとりとめたものの意識はなく、危ない状態が続いている。


「エルモさん、マジでありがとう……」

「俺もアッテやアヤネちゃんには世話になってる。いいってことよ。何か必要な事があったら頼りな。フォトゥリの街の他の連中も、きっと力になってくれるはずさ。ところでだ――」


 そう言ってエルモは、今度はマグナの方へと向き直る。

 エルモからの急報を受けてアヤネは娘をクレアらに預け、急いでこの病院へと駆けつけた。それに付き添ったのはマグナだけだ。


「俺が助けた時、アッテにはまだ意識があった。そして俺にこう言った『犯人は勇者』だってな」

「あんたは俺が犯人だと言いたいのか?」

「そうは言ってねえ。アッテが襲われた時、お前はアヤネちゃんの家にいたみたいだからな。それに殺しはお前が村へ来る前から発生している」


 突然の言葉に身を固くしたマグナだが、それを聞いて少し緊張が和らいだ。


「犯人の目的は明らかだ。俺達魔族の腹の中にある満月胆は一部の人族には“長寿の妙薬”なんて言われてやがる。売るのか、自分で食うのか。いずれにせよ畜生の所業だ。正直言うと、一部の心無い過激な奴の中にはアヤネちゃんが犯人じゃないかって言う奴もいる」

「そんな……!」

「バカな話しだよ。俺だってそういう奴を見るたびに殴り飛ばしてる。……つまり俺が言いたいのはだな、お前も勇者なら犯人に心当たりはないかってことだ。犯人は人族の、それも勇者じゃないかとは今までも言われてきた話しだ。だからアヤネちゃんも疑われたわけだからな。同郷のお前にはわからんか?」


 そう言われても、マグナだって勇者の全てを把握しているわけではない。なにせ勇者というものはマグナたち元三年二組のクラスメイトだけではなく、鵜殿トクジのように別口で召喚されている連中も多くいるからだ。


 でもこの質問も無理はない。エルモのような勇者召喚の事情をよく知らない一般人からすると、勇者というのは特定の場所から呼び出される超人――程度の認識しかないからだ。

 つまり要はその国のプロパガンダ次第。ルミナス心国あたりだと、勇者とは召喚者の平和に対する切なる願いに応えて戦う、愛と正義の使者という扱いらしい。


 マグナが「残念ながら」と首を振って心当りがないことを表すと、エルモはそうかと頷いた。


「何か思い当たることがあったら教えてくれ」

「ああ。そうだ、アッテさんは他に何か言っていたか?」

「ん? えーっと、確か……『突然刃が』くらいか。暗がりで突然襲われたって意味だと思うんだが」


 その言葉を聞いた時、アッテの手を握るアヤネの身体が、ピクリと反応したのをマグナは見逃さなかった。



 ☆☆☆☆☆



「追加の毛布をもらってきた。これで寒くないだろ」

「うん、サンキュー松平」


 アッテの身は以前、予断を許さない状況だ。だからアヤネは夜通しつきそう決断をし、マグナもまた護衛と手伝いを兼ねて残ることにした。家の方は魔法を使えるヴィヴィがいればもし何らかの襲撃があっても大丈夫だろうし、しっかり者のクレアとセルマも一緒で安心だ。


「ひとつ聞いていいか?」

「……うん」

「襲撃者に心当たりがあるのか?」


 そう聞かれることがわかっていたのか、アヤネはさほど動揺していないように感じた。そして静かに頭を縦に動かし、肯定であることを示した。


「ツバキの事、憶えてる……?」

「ツバキ……【斎藤(さいとう)ツバキ】のことか?」

「そう。斎藤ツバキ」


 斎藤ツバキ。マグナと同じく元三年二組所属の女子で、竹中アヤネとは特に親しい仲だった。アヤネが明るく親しみやすい可愛い系だとするとツバキは長身でスタイルが良い美人系で、特に美容には力を入れていてSNSに美容系の動画を投稿していたような人物だ。


「うちってツバキとは仲良かったじゃん? つーかいつもつるんでたし、こっち来ても班分けで同じ班だったのよね。でも雅国がなくなって、その混乱で離ればなれになって、私はこうやってダーリンと出会って幸せに暮らしてるけど、ツバキの事はいつも気になってた」

「それでもしかして……?」

「うん。松平はさ、ツバキのギフト覚えてない?」


 自分が無能力者であったショックが大きすぎて、クラスメイトのギフトを覚えていないマグナは首を横に振る。


「あの子のギフト、光属性相当の光学迷彩ってのだったの」

「光学迷彩?」

「うん。うちは頭悪いからいまいちわからないんだけど、光の屈折? とかを利用してその場にいないように見せることができるの」

「――!」


 それが本当ならアッテの証言とも符合するし、この町中にあって気づかれることなく犯行を重ねることも可能だ。だけど、斎藤ツバキがこの凶行に及ぶ理由がわからない。動機の不在だ。


「商人さんの噂で聞いたんだけど、去年そんな能力を持った勇者がルミナス心国に雇われたんだって。たぶんツバキ」

「ルミナス心国……確か人族至上主義のバルディア武国とはまた違った差別主義国家で、魔族を大魔王の眷属として否定しているんだっけか?」

「そう」


 敵の厭戦感情を誘発させるため、敵地で凄惨な殺害を行う。なんて話をマグナは元の世界にいたとき聞いたことがあった。もしルミナス心国がそういった作戦で斎藤ツバキを送り込んだのなら、辻褄はあう。


「お願い松平、もしツバキなら――ううん、ツバキじゃなくてもこんな事はやめさせてあげて。だって勇者なら同じ日本人って事じゃん」

「そうだな。わかった、俺も解決に協力するよ」


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