第38話 魔王の居場所
マグナ達がアッテから案内された場所は、街外れの半分雪に埋もれた建物だった。どうやらこの場所がアッテの祖父にあたる魔錬機技師の工房であり、アッテとアヤネの夫婦は週に何度か食料を届けているらしい。
「本当に会ってくれるのかな?」
「気難しいって話だったな。お、アッテさんが出てきたぞ」
「大丈夫みたいです! ガレージを開けますね!」
不安気な顔をしたセルマと話しをしていると、窓からアッテが顔を出した。すると彼の言う通り、魔錬機が入れるサイズであろうガレージがギギギと錆びついた金属音をたてて開いていく。
会ってもらう為に、マグナは一つ提案をした。
それは珍しい魔錬機である〈レイド〉を調べても良いというものだ。
技術者である以上、未知の存在には誰だって興味を惹かれるものだ。だからこちらは魔錬機マニアのヴィヴィでさえ知らない魔錬機である〈レイド〉の存在をほのめかせ、言わば交換条件として提示した。
結果は見事、気難しいと言われるご老人の説得に成功したようだ。
(レイド、大丈夫だとは思うがもし不信感を抱いたらすぐに伝えろ)
(心得ている)
心の中でそう注意して、〈レイド〉のボディから出る。
埃っぽい工房の中は薄暗く不気味だ。そんな工房の奥から一人の魔族が杖をついて出てきた。アッテと同じ青い肌に、どれくらい歳月を重ねたかわからないほどシワが刻まれている。
「おお、これが……!」
「【オッリ】さんですね? 初めまして、松平マグナです。あっちの二人はセルマとクレア。そして隣は妖族のヴィヴィ」
「聞いておる。ワシは人嫌いじゃが可愛い孫夫婦の頼みじゃ。これをいじらせてもらう間くらいは話しをきいてやる」
早速〈レイド〉を見聞するのに夢中な老人は、マグナを振り返ることもなくそう返答した。
「もうお爺ちゃん! ごめんね松平」
「いや、いいんだ竹中。……ではお訊ねします。俺は三年前、〈紅艶魔王〉と呼ばれる魔錬機と戦いました。貴方はそれを造った一人だと聞きましたが、それは本当ですか?」
「本当だとも。ワシは〈紅艶魔王〉を始めとする魔錬機群の製作者の一人じゃ」
「……! ならその、弱点とか居場所のつきとめ方に心当たりは……?」
「ふむ、わからんこともないが」
「――っ!」
アタリだ。そう確信したマグナは次の質問をしようとした。しかし先に言葉を発したのはオッリ老の方だった。
「……じゃがその前に、それらの機体がなんで開発されたか知っとるか?」
「い、いえ……」
助け舟を求めてヴィヴィの方を見るが、彼女もブンブンと首を横に振る。
「そうか。ならば魔錬機がいつ開発されたかは?」
「それならわかります! 魔錬機が開発されたのはおよそ七百年前! 原初の勇者によって築かれたガルダナ統一王国では魔法も技術も発展し、やがて魔錬機を生み出すに至ったと伝わっていますッ!!!」
「ほう、妖族にしては珍しく魔錬機に詳しいんじゃな。概ねその通りじゃ」
今度は元気よく答えたヴィヴィが、えっへんと胸を張った。
「少し付け加えよう。おおよそ千年の昔、原初の魔王を倒したことにより原初の勇者は英雄となった。そしてこの大陸に統一国家を築き上げ、繁栄を極めた。平和な時代だ。しかし定期的に我らが種族から大魔王なる称号を名乗る者が現れ、世界を脅かした。それは存じておるな?」
「はい。その対策として勇者召喚が行われていたと」
「そうじゃ。そして魔錬機もまた、ある勇者の手によって魔王対策として生み出された。つまり魔錬機とは、この世界の魔法技術と、お前やアヤネの世界の科学技術の融合!」
本来この世界は純然たるファンタジックな世界観だった。そこに勇者召喚という形で文明の交流がおこった。その結果、甲冑の発展として魔錬機なるものが誕生したということだ。
「なるほど! 薄々そうではないかと思っていましたが、なにせ三百年程前の戦乱突入以前の資料はあまり残っておりませぬゆえ、知りませんでしたッ!」
「じゃろうな。ワシとてこれは師より伝え聞いた話。しかしその誕生に勇者が関わっておるのは事実じゃ」
「――ちょ、ちょっと待ってお爺ちゃん! 魔錬機ができたのって七百年前なんでしょ? その頃って私たちの世界は……えーっと?」
「鎌倉時代かな。元寇とかの時代のはずだ。いずれにせよ科学技術なんて発展していない時代だ」
アヤネが何を言いたいか察して、マグナが代わりに答える。鎌倉時代の科学力なんて、本来のこの世界とどっこいのはずだ。その時代から召喚された勇者が、ロボットを創り上げるなんておかしい。
「そうらしいな。しかし召喚は空間を超越するとともに、時間をも超越すると言われる秘儀じゃ。お前らの故郷であるニホンなる国は、元号というものを使うそうじゃの? ワシが二百年前に出会った勇者は、令和という元号から召喚されたらしいぞ?」
「そうなのか! ……いや、それがわかった所で元の世界に戻れるという話でもないか」
「残念ながらそうみたいじゃな。――話を戻そう。開発された魔錬機は、多くの戦いに使用されることとなった。それは魔王との戦い以外でもじゃ」
そうなるのは必然だろう。現代では戦乱により普及したとはいえ、川尻マサヤが与した山賊連中も使用していたし、教団なんて怪しい連中も使用しているくらいだ。
「そして人族は、大魔王に与していない魔族に対しても魔錬機を使って弾圧するようになっていった」
「そんな……」
優しいクレアは少し涙を浮かべて息を呑む。
「残念ながら事実じゃ。我らの種族は忌み嫌われているでな。そこでワシら――と言っても当時のワシは単なる下働きじゃったが、人族の魔錬機に対抗するための魔族の為の魔錬機を造り上げた。その一機が〈紅艶魔王〉じゃ」
「それがなんでマグナの敵になったのさ?」
物怖じせずにそう訊ねたのはセルマだ。
「ワシらはそれらの魔錬機が大魔王を名乗る者には悪用されぬよう、分散して運用しておった。長い年月を経て、そのうちの一機が流出したんじゃろう。売ったのか、奪われたのかは知らんがな。――最初の質問に答えんとの。弱点や居場所のつきとめ方は存じておる。というかその二つは連動しておる」
「本当ですか!?」
「ああ、本当じゃとも。一つ確認したいのじゃが、現在の〈紅艶魔王〉の乗り手は何者じゃ? 魔族か? 勇者か?」
「そのどちらでもありません。ただの人族です」
「そうか。なら簡単じゃ。あれらのシリーズは魔族の為に造り上げたもの。扱うには強靭な肉体と魔力が必要。ならばそれを補うためにはどうするか? 修繕や運用に適地が必要じゃ。地脈の通っておる適地がな」
なるほどと思うものの、それ自体が具体的にイライジャの居場所を示すわけではない。落胆しかけたマグナに、クレアが声をかけた。
「金魔鋼の行方は、サルディア以降追えないんだよね?」
「そうだな。他の魔錬機部品は獣人の領域へと送られたようだけど、金魔鋼はわからない」
「私たちは武国の領域に沿って、大陸を西から東に移動したよね。そしてサルディアの東から南にかけては獣人国家群がある。だから私たちは北に来た」
「そうだな」
「でもその北である終国では教団の噂は聞かないし、金魔鋼の魔錬機を調整できる適地なんて全部終国が管理してる。ちょっとやそっとの地脈じゃだめなんですよね?」
「左様。大儀式を執り行えるほどの地脈が必要じゃ」
マグナはクレアの話が読めない。しかし、セルマとヴィヴィも何かに気がついたようだ。
「なるほど! 北でも西でも東でも、はたまた南でもない場所!」
「そして地脈が通っている場所ね~。となると……」
「おいおい、何かわかったのなら教えてくれよ」
「マグナはさ、雅国にいたんでしょ? アルクス雅国の名前の由来って知ってる?」
「いや、聞いたことないな……」
セルマからそう問われて、少し考えてみてもまるで記憶にない。雅国について覚えている事と言えばやたら国が細長いのと、シュルティアが国都のわりに不便なところにあったくらいだ。
「アルクス雅国の名前はね、この大陸を貫くアルクス山脈に由来するんだよ。アルクス山脈にあるからアルクス雅国!」
「そうだよ。だから国境線が長くて、他の大国全てと国境を接してた。普段はその地形を活かして攻撃を防いでいたんだけどね」
つまり山岳国家だ。雅国崩壊当時は必死だったのでよく覚えていないが、言われてみればマグナも山を下った結果としてラッセル村近辺までたどり着いたのだった。
マグナが納得したのを見てクレアが続ける。
「旧雅国領は分割されて併合されたけれど、山岳地で不便だから無視されて山賊の巣窟になっている都市もあるって言うよ。その一つは雅国によって勇者召喚が行われていたという――」
そこまで言われてマグナも思い至る。金魔鋼はきっとサルディアからアルクス山脈へと運ばれていたのだ。そして教団なる組織は、大陸を貫く山脈を利用して各国にて暗躍してる。つまりイライジャの居場所は――
「「――神殿都市クレイン!」」




