第37話 Speak of the Demon
「さすがに寒いな。レイドは寒くないのか?」
雪が深々と降り注ぐ山道を行きながら、マグナはそんな問いかけを魔錬機の相棒へと投げかけてみた。
その問いに相棒はというと、「一応気温の変化は感じ取っている」と前置きをしてから、「君たちのように寒くて辛いという感情は抱かないほどだ」と返答した。
その答えに、やはり機械の身体はそういうものかとマグナも納得し、再びレイドの操縦席の中から前方を確認する作業へと戻った。
魔錬機〈レイド〉という存在は実に不思議だ。多くの知識を蓄える妖族――それも王家の血筋たるヴィヴィでさえ、こんな魔錬機は見たことないと言う。造りの良さを鑑みれば名のある名匠の作であると思えるが誰の作かは見当もつかず、またいつ頃製作されたかさえも定かではないと言うのだ。
――話を現在に戻そう。
マグナ達はサルディアの街を出て北へ北へ、大陸北方へと位置するルナティア終国の領域へとやってきて来ていた。
目的は二つ。一つ目は、鵜殿トクジの語った“教団”なる組織が魔王信奉者と関係あるか調査の為。二つ目に、イライジャの操る魔錬機〈紅艶魔王〉が魔族の作という点からの調査の為だ。
魔族は生まれ持つ魔力が高く肉体も強靭で、しかも長寿に恵まれている。しかし彼らからは定期的に大魔王という存在が生まれ世界を危機へと陥れるために、迫害を受けてその多くはルナティア終国に居住している。
そんな魔族達へと出会う為に、彼らは遥々こんな極寒の地までやって来たのだった。
馬車を〈レイド〉に引かせ、マグナは魔力補充のため操縦席に。後の面々は馬車に乗っているから寒さはある程度緩和されているが、それを考慮しても慣れぬ雪山というのは彼らの体力を奪っていた。
「――街だ! おい皆、街が見えたぞ!」
そんな中、ようやくマグナの目に目的地である街の明かりが映った。
鉱山の街【フォトゥリ】。それが彼らの目的地の名だった。
☆☆☆☆☆
入域の許諾と魔錬機の持ち込み許可をもらい目にしたフォトゥリの街は、一言で言えばカラフルだった。鉱山の街と聞けば茶や黒といったイメージをマグナは抱くが、そんな事は一切ない。
真っ白な雪に包まれた街を行きかうのは、様々な姿をした魔族達。色とりどりのその姿は分類のしようがないほどに千差万別だが、ヴィヴィに言わせてみればそれこそが魔族ということらしい。
「魔族は血のつながりでも見た目でもなく、満月胆という臓器を持っていることが共通点なのです! 人とも獣人とも妖とも違う別なルーツを持つ知的種族、それが彼らなのですッ!」
聞けばなるほどとも思うが、実際その事を理解するのは難しい。なにせ人と変わらぬ見た目をして肌の赤い者、青い者がいると思えば、角がある者、目玉が三つある者、光沢のある茶色いに覆われた者など特異な見た目の者もいる。極めつけは四足だったりする明らかに人族とは違うフォルムの者たちだ。
彼ら全てが同じ種族ですと言われても、すぐにはピンとこない。人族における肌の色の違いなんて、ほんの些細な差違に思える。
「とにかく聞き込みをしないとね」
「そうだなクレア。すみませーん」
ある程度の目算をつけてフォトゥリの街に来たものの、それ以上のあてというものは彼らにはない。なので聞き込みをしようと、マグナは近くを歩いていた比較的親しみやすそうな緑色の肌をした魔族に声をかけたが、
「すみま――あれ?」
その魔族はスッとマグナを無視して通り過ぎて行ってしまった。
マグナはめげずに次の魔族へと話しかける。しかし、またしても同じように素通りされる。そんなことが五度も続いた。
そして素通りされるのは彼だけではなかった。妖族であるヴィヴィや、比較的警戒心を抱かれなさそうな子どもであるクレアやセルマでさえ、彼女たちが話しかけようとすると相手は途端に早足で去ってしまう。
「警戒されて……いやそれ以上に……?」
明らかによそ者であるマグナ達を警戒するというのはわかる。しかしここまで空振りとなると、それ以上の何かを感じる。彼らが困って立ち尽くしていると、後ろから何か呼ぶ声がした。
「おーい、あ! やっぱ松平じゃん! 久しぶり!」
「お前は……【竹中アヤネ】!」
声の主はマグナと同じく元三年二組の生徒、竹中アヤネだった。
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松平マグナの記憶の中での竹中アヤネは、いわゆるギャルだった。
髪を派手な色に染めて、ファッションや芸能、美容やコスメに詳しい。そういう明るい性格の人物だったと思う。話しやすい性格で、彼もそれなりに仲が良かったはずだ。
三年を経て再開した今の彼女は、明るい性格というのは変わってはいないが、いくらか落ち着いた雰囲気をマグナは感じていた。
そんな彼女はこのフォトゥリの街在住らしく、手がかりらしい手がかりを掴めないどころか聞き込みさえままならないマグナ達は、案内されるまま彼女の家へとやって来ていた。
「さあ、どうぞ。温まるよ?」
「あ、ああ。ありがとう……」
マグナは脳裏に稲葉イオとの一件が思い浮かびながらも、竹中アヤネの明るい笑みに押されて差し出されたマグカップに口をつける。温かなスープが、冷え切った身体をとかしてく。
「さ、ママはこの人たちとお話しがあるから、あっちで遊んでな」
「わかったー」
出会った時から連れていた魔族であろう青い肌の少女へ、竹中アヤネはそんな事を言った。
「え? ママ? つまり子ども?」
「そ、私の娘。もうすぐ三歳。ダーリンもそろそろ帰ってくると思うんだけれど……あ、噂をすれば」
その言葉にあわせたように、玄関の扉が開き長身で青い肌の魔族の男性が入ってくる。彼は驚いた顔をして「あれ、お客さん?」とつぶやいた。
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「雅国がなくなっちゃって、さまよってたどり着いた先がこのフォトゥリだったんだ。その時親切にしてくれたのがダーリンで、優しくてイケメンでマジヤバってなって一目惚れしちゃって即結婚。お腹の中には二人目もいるんだよ?」
「へえ、それは……おめでとう」
自分と同じ歳なのに結婚して子どもがいるという事実にマグナは少し動揺しながらも、幸せそうに語るアヤネを見ると、シンプルにお祝いの言葉が出てきた。
「普通人族は我々の肌の色を敬遠するんですがね。物怖じしないというかなんというか」
「そんな事ないって顔が良いし何より優しい! ダーリンは世界一のダーリンだって!」
「ははは……ありがとうアヤネ」
惚気まくるアヤネに苦笑しながらも、【アッテ】と名乗った魔族の夫は嬉しそうだ。良い関係の二人を見て、少しばかり警戒していたマグナ達の心が安らぐ。
「ところで、松平たちはあの場所で聞き込みをしてたんだっけ?」
「そうなんだ。だけど全然話を聞いてくれなくて……」
「ま、そりゃそうかもね。元から魔族は多種族を警戒しているうえに、最近魔族を狙った殺人事件が起きてるから」
「殺人事件?」
「そ。殺してお腹掻っ捌いて満月胆を抜き取るってエグイやつ。だから今は普段の倍マシで多種族やよそ者を警戒してるよ」
「そうか……、なら手詰まりだな……」
知らなかったとはいえタイミングが悪い。どうりで誰も立ち止まらないはずだとマグナ達は理解する。しかしそうなるとどうしようもない。教団についても魔錬機についても、調べる手立てはごくわずかとなる。
「教団と呼ばれる集団についてはわかりませんが、魔錬機の方ならお力になれるかもしれません」
そう切り出したのは、理知的な顔立ちのアッテだった。
「本当ですか、アッテさん?」
「はい。なにせマグナさん達がお探しの金魔鋼を使用した魔錬機シリーズ。僕の祖父は、その製作者の一人ですから」
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