第34話 『災』の文様
「よーし、魔導砲撃続け!」
【鵜殿トクジ】は部下に命令を下し、自身も目標の自治都市サルディアへ向けて砲撃を継続する。
彼は四年前にこの世界に召喚された勇者だ。ガルマーラ鎧国へと召喚された彼は、いくつかの戦闘に参加し生き残ってきた。
そして今回、いつものようにとある密命を受けた。
それは彼が仕えるガルマーラ鎧国の王女を、抹殺せよというものだ。
汚れ仕事なんてこれまでいくつも命じられてきたし、命令を下した人物の意図なんてどうでもいい。重要なのはトクジ自身が報酬を得、鎧国において一定の地位を授かることだ。
ガルマーラの人々は彼がどういった任務をこなしているかわかっていないが、今では護国の勇者の一人としてもてはやされている。金、女、地位、名誉。この世界で彼を多くの物を掴んできた。
その為には自治都市のひとつくらい簡単に葬れる。後ろ盾がしっかり守ってくれることは、これまでの任務の結果からわかっている。だからこうして安心して任務にのぞめるという者だ。
「王女様よお、街一個墓標にしてやるんだから恨まないでくれよ。それに――」
トクジの頭に佐々レイラの生意気な顔が浮かんだ。
「傭兵風情が、誘ってやったのにすげなく断りやがって……!」
あの生意気な女をこの手で始末できるのも心地良い。所詮佐々レイラは使い捨ての傭兵で、トクジはこの任務の功績をもってさらに出世するのだ。もし這いつくばって命乞いをするというのなら、自分の物にしてやってもいい――そうトクジは考え、肥満でふくれた顔にぐちゃりと笑みを浮かべた。
「よーし、どんどん撃てよオ! サルディアを更地にしろ!」
部下たちは彼の命令に従って黙々と魔法を撃ちこむ。
しかし部下――といっても、彼らは鎧国の兵士ではない。今回の任務の為につけられた、傭兵部隊のような集団だ。この一段に鎧国の者は、トクジ一人しかいない。
(……たしか“教団”とか言ったか?)
そういう組織名だったと思う。彼らの使う魔錬機は肩や足の一部分が赤く塗られ、それぞれどこかに漢字の『災』に似たマークが描かれている。それらが何を意味するのかトクジは知らない。これまでも任務によって部下をつけられたことはあったので、その類だろうとやがて気にも止めなくなった。
「まだまだ撃てよオ! ネズミみたいに穴倉から出てきたら、俺直々に殺してやる!」
帰還した時の筋書きは、傭兵にさらわれた王女様を助けに行くも、一歩間に合わなかった悲劇の勇者様か。そんな妄想をしながら、トクジは再びぐちゃりとした笑みを浮かべた。
☆☆☆☆☆
「おいおいブラザー正気かYO!? そこの女は今のいままで小さなガールたちを人質にしていて、魔錬機で仕掛けてこようとしたじゃないかYO!」
「お前の言いたいことはわかる。唸っているガルの不満もな。けれど今は頭数が必要だ」
サルディアを襲う攻撃の密度からして、敵魔錬機の数は両手の指よりも多いだろう。佐々レイラを狙いにきたことからして、勇者も混じっているかもしれない。片やサルディア側と言えば、魔力の低い獣人種が多いため魔錬機も満足に存在しない自警団に、マグナとヴィヴィの機体だけだ。戦力不足も甚だしい。
「佐々、お前はどうなんだ? 使い捨てみたいにされて、そのまま惨めに野垂れ死ぬのか?」
「誰が!」
「じゃあ協力しろ」
「……わかったわ」
マグナが差し出した右手を、レイラは握り返す。
はっきり言ってマグナ自身もこの決断に全て納得がいっているかというと、そういうわけではない。ただひとえに、生き残る確率を高めるためだ。この世界では時にそういった決断をする必要があることを、彼はこの三年間で痛いほど身に染みていた。
「よろしく頼むよ。みんなもそれでいいな?」
マグナの言葉に皆がうなずく。撃ち込まれる魔法の勢いはますます増し、火事や爆発がそこら中で起きている。彼らに残された時間はそう多くはない。
「お前たちは魔錬機で出るんだろ? だったら俺は知り合い連中を集めて避難誘導と救護にあたる」
「わかったガル。セルマとクレアを頼めるか?」
「任せろ! 二人とも、手を貸してくれ」
「「わかった!」」
ガルは真面目で義理堅いように感じる。そして何より子どもを大切にしているようだ。そんな彼に任せれば、大丈夫だとマグナは安心する。
「さてと、俺達三人は魔錬機をどうにかしないとな。……あれケンジ、お前ガルと一緒に行かなかったのか?」
見れば「行くぞ」と走り出したガルについて行ったと思った前野ケンジが、いまだにこの場へ立っていた。マグナはてっきり、彼もセルマやクレアと同じように避難誘導の手伝いをすると思っていた。そう疑問を抱くマグナに、ケンジは「ちっちっち」よ指を振って答えた。
「ヘイヘイヘイ! YOUはオレを誰だと思ってんだーい。忘れたのかYO、オレだって勇者なんだZE?」
☆☆☆☆☆
「それじゃあ作戦通りに頼むぞ」
「わかりましたッ!」
「任せなさい」
「任せとけYO!」
魔錬機の通信は魔力を用いて行うもので、元の世界のそれとは違い距離的な制約が大きい。なので集中攻撃を受ける危険はあるが、ひとまず四機陣形を組んでサルディアの城外へと出る。
エメラルドグリーンに輝くのはヴィヴィの操る〈翠玉聖霊〉。両手が大きく翼のような佐々レイラの乗る〈凶鳥烈女〉。マグナが魔錬機〈レイド〉と融合した〈マグナレイド〉、そして前野ケンジがサルディアの魔錬機商に声をかけて一機分でっちあげた〈単眼鬼〉だ。
「攻撃、来ますッ! 《土壁城塞》!」
想定通り、サルディアを飛び出してすぐに敵の攻撃がくる。ヴィヴィが魔法で土の壁を造りだし攻撃を受け止めた。
攻城戦は守勢有利と言われる。しかしそれは後詰がくる前提での話しだ。それに敵と違いマグナ達は、遠距離攻撃に長けてはいない。レイラの刃には距離の制限があるし、せいぜいヴィヴィの魔法くらいだ。なので必然的に打って出ることとなった。
「よくやったわ王女サマ! 舞い踊れ刃! 松平!」
「おう、行くぞレイド!」
(心得た!)
壁の後ろからレイラの〈凶鳥烈女〉が放つ刃で敵を牽制。そして飛び出したマグナはレイドの刀使いを信じて〈雷切〉を振るい、一気に二機の敵魔錬機を斬り捨てる。
「他の敵は!?」
「上手く《陽炎》で分散できているみたいだYO!」
「さすがです! 次の地点に移動しましょうッ!!」
これがもう一つの勝算だ。前野ケンジが魔錬機によって高めた幻惑魔法《陽炎》によって、いくつかの囮を発生させる。敵がそちらに気をとられているうちに、少しでも数を減らそうという作戦だ。
(それにしても……)
マグナは先ほど斬り捨てた魔錬機の事を思い出す。形自体は何の変哲もない〈単眼鬼〉だ。――しかし、あの晩シュルティアで見た機体と同じく一部が赤く塗装されており、ガルが語った獣人種の領域への襲撃者と同じく感じの『災』のような文字が刻まれている。
ずっと目立つ機体色ばかりに気をとられていたが、イライジャの機体〈紅艶魔王〉にも同じようなマークがあったかもしれない。いや、ひっかき傷のように見えたマークがあったはずだ。つまり――。
(全て同一の黒幕という事か……!)
シュルティアの件、獣人種の領域の件、そして今回。全てが同じ組織によって行われている可能性は高い。だとすると鎧国が? いや、そう考えるのは早計だ。じゃあ――、
(マグナ、しゃがめ!)
「――ッ!?」
レイドからの警告を受け、反射的にしゃがんだ。
次の瞬間、頭上すれすれを弾丸のようなものが通過した。
「攻撃――どこから!?」
周囲に敵影はなかった。他の機体は幻影を追っているはずだった。その余裕があると思ったからマグナは移動しながらも先ほどの機体のことを考えていた。
「あちらです! 奥の機体!」
ヴィヴィに言われた方を見る。するとかなり遠くに見慣れない形の魔錬機がいた。あの距離からなんて通常魔法は届かないはずだ。
「佐々、あれが!」
「ええ、あれが“狙撃の勇者”鵜殿トクジ。やっぱりあいつが来ていたのね……!」




