第31話 クレアの修練、セルマの調査
佐々レイラの襲撃から数日が経った。
あれからマグナ達はサルディアを拠点に情報を集めているが、芳しい結果を出せているとは言えない。なにせ自治都市サルディアは広大であり、「セカンダで魔錬機の部品を調達した獣人」という情報があっても、魔錬機商も獣人も数多く、なかなか当たりを引けないのである。
「クレア、今日はケンジと南側の聞き込みしてくるから」
「わかった。マッケンジーさんとね」
「俺以外マッケンジーって名前に馴染んでんな……。じゃあレイド、皆の事よろしく頼むぜ」
「心得た」
川尻マサヤや稲葉イオの件があり最初は前野ケンジのことも警戒していたマグナだったが、今ではすっかり信用しきっていた。
見た目はまるで変わってしまったが、その心の奥底にある純朴なバスケ少年だった彼は変わっておらず、何よりよそ者を警戒する獣人たちに話を聞くためには、“思い出屋”として信用を集める彼の協力は不可欠だった。
「よし、私もっと」
セルマはセルマで、情報収集に出かけている。子どもには子どもの情報網があるし、セルマの元気な性格はすぐにこのサルディアの子どもたちに馴染むことに成功していた。
そんな皆の事を考えながら、クレアも自分に気合をいれる。
彼女の仕事はもっぱら料理などの家事だが、最近他にも頑張っている事がある。
それをするために、彼女はヴィヴィを連れ宿近くの空き地に行った。
「それじゃあヴィヴィさん、今日も魔法の授業をよろしくお願いします」
「お願いされましたッ!」
クレアがしていること。それは魔法の練習だ。
何度かの戦いを間近で経験して、彼女は自分自身や周囲を守るすべを欲した。
それを仲間に相談したところ、ヴィヴィが彼女には魔法の素養があると言い出した。
だからこうして練習しているわけだ。
「そう、集中して魔力を高めて! クレアちゃん、あなたには水魔法の素養があると思います! 水を! 流れる水をイメージするのですッ!」
魔法を習得するうえで、ヴィヴィは最高の先生だった。
なにせ魔法の扱いに長けた妖であり、しかも英才教育を施された王族だ。
そして魔錬機の仕組みを理解し、魔力の流れというものを技術的にも感覚的にも理解している彼女は、普段の言動に反して理論的で教え上手だった。
「クレアちゃんの魔力の高まりを感じます! まだ――まだ――よし、今ですッ!」
「はい! 《水流》!」
構えたクレアの右手へ魔力が集まり、それは空気中の水分を形にして放出する。激しい水が一本筋にのび、見事的として置いていた木片を直撃した。
「やった……! ヴィヴィさん、私できました!」
「はい! お見事花丸です! クレアちゃんの成長には目を見張るものがありますね!」
「ヴィヴィさんの教え方が上手いからですよ」
「いえいえ、あなたには才能がありますッ!」
教え上手なヴィヴィの助けもあり、クレアはわずか数日で実戦レベルの下級魔法を使いこなすまでになっていた。そしてその習得速度は一般的な平均からしたら恐るべき速さであり――、
「その才能は人種というくくりではなく、我々妖種の平均と比べても優れているということです! それは血筋なのかもしれません!」
――人種という枠組みどころか、魔法に長ける妖種の平均すら凌駕するものだった。それは威力や正確性といった、他の観点から見てもレベルが高いというほかない。
そんなヴィヴィの言葉に、クレアは顎に指をあてて少し考える。
自分のパパ――クレアとセルマの父親であるシミオン・セールも少しは魔法が使えたはずだ。けれど得意とすることは剣技であり、魔法は“一応使える”程度だったと記憶してる。物心つく前に死んだ母親のことはわからないが、魔法が得意だったという話は聞いたことない。
「えーっと、セルマはどうなんですか?」
「セルマちゃんも練習すれば中々の腕前になるかと思います! 彼女はマグナさんから剣術も学んでいるようなので、素晴らしい魔法剣士になるかと! けれど魔法という話になればクレアちゃんの方が一つ二つどころじゃなくレベルが違いますッ! ……むむ!? 二人は双子なのにどうしてでしょう……?」
ヴィヴィが幼い時分より叩き込まれた魔法の常識によると、基本的に双子は同程度の魔法の才能をもって産まれるとあった。
自身の見立てによれば、セルマの才能も大国の魔法騎士団に所属できるレベルだ。
しかしクレアの示す才能はというと、人種という枠組みの範囲で言えば原初の勇者の血統――つまり王族に匹敵するのではないかとヴィヴィは考える。
双子でこれほどの開きが起こりうるのだろうか?
単純にクレアだけが神に祝福された才能を持って産まれただけだろうか?
魔力の才能をもって産まれがちである王侯貴族ではないのに、これほどの才能を持つだろうか?
「ま、難しい事はさておき、練習しましょう! クレアちゃんならすぐに上級魔法も習得できるでしょうッ!」
「はい! がんばります!」
ヴィヴィはひとまず考え事を頭の片隅へと追いやると、キラキラした上品な笑顔でほほ笑むクレアの指導にもどった。
☆☆☆☆☆
「へえー、じゃあセルマは旅をしてんだ?」
「そうだよ」
セルマ・セールはここらの子どもたちが遊びに集まる空き地に訪れていた。
なにもただ遊ぶためではない。サルディアに住む子どもたちから情報を集めるためだ。
「パパやママと離れて寂しくないの?」
「全然! 仲間が一緒だからね! 最近ではマッケンジーさんっていう面白い人もよく一緒にいるし!」
「ああ、思い出屋さんだね!」
少し嘘をついた。マグナや姉のセルマ、そしてつい最近王族であることが判明したヴィヴィに喋る魔錬機のレイドとの旅はにぎやかで面白いが、パパ――シミオンに会えないのは辛い。おヒゲがじょりじょりして痛いのが玉に瑕だが、あの豪快で優しい父親が懐かしかった。
「この前の魔錬機戦もお前らだっけ? 正直俺、母ちゃんから『危ないからよそ者と関わっちゃダメ』だって言われているけど、セルマは良いやつだしな~」
「だよね~。思い出屋さんもあれは襲われただけだって言っていたし」
「あはは、みんなありがとね」
セルマが楽しく遊んでいると、人も獣人も問わず子どもたちが集まってくる。ラッセル村のみんなや父親の部下の大工たちを家族として過ごしてきたセルマには、集める才能があった。
「そう言えばセルマ、魔錬機を探しているんだって?」
「うんそうだよ。正確にはセカンダで魔錬機の部品を買った、獣人だね」
「魔錬機と獣人……。そう言えばガルの兄ちゃんも似たようなこと言っていたなあ……」
「ガルって? あ、もしかして紺色の毛をした獣人?」
セルマの脳内に、この街に来てすぐに出会った獣人の顔が思い浮かんだ。
正確な名前は長くて忘れてしまったけれど、確かハウ族のガルと名乗ったはずだ。
「そうそう。ガルの兄ちゃんも、じきぞくちょーとして最近獣人のりょーいきで出回っている魔錬機よーへーの出所ってのを探しに来たんだって!」
「ガルはサルディアの人じゃないの?」
「そうだよ! セルマより少し前に来たかな?」
「へー、そうなんだー」
きっとよーへーは傭兵の事だ。もしかしたら兄――のような存在であるマグナの探している相手につながるかもしれない。
「ありがと、みんなまた遊ぼうね!」
「またね~」
魔法の練習は誘われたけれど一日でやめた。やっぱり自分は身体を動かす方が性に合っている。そう思いながら、セルマは手に入れた情報を胸ににこやかに帰って行った。




