第27話 思い出屋
前野ケンジ。マグナと同じく元三年二組の生徒の一人であり、この世界に召喚された勇者の一人である。元の世界では出席番号が一つ違いということもあり、マグナとはそれなりに話をする仲だった。遊びに出かけたこともあったはずだ。
そんな彼に対するイメージと言えば、長身でそれを活かしたバスケ部に所属する、坊主頭の純朴なスポーツ少年。だいたいそんなところだ。が――。
「ヘイブラザー! 元気にしてたかYO!?」
「いやお前……、YOって……」
――いくら勇者召喚によって元の世界の記憶が薄れているとはいえ、とりあえずこんなパーリーピーポーじゃなかったのは確かだ。純朴丸刈りバスケ少年はどこへやら、今の前野ケンジは大道芸人かファッションショーかと言うようなド派手な衣装に身を包み、クネクネした奇妙な動きをする完全無欠の不審者だ。
「オレはこの世界に来て目覚めたのSA~♪ これこそが真の姿だって~♪ アイムノットケンジ、アイムマッケンジー! ラブアンドピースアワーワールド!」
「誰だよマッケンジー……」
「エーケーエー! エーケーエー!」
「お前エーケーエー言いたいだけだろ」
少なくとも召喚直後、班分けをされて各地に配属されるまではこんな状態ではなかったはずだとマグナは記憶を探る。確か純朴な坊主顔に笑顔を浮かべながら、「マグナも落ち込むなよ」と慰めの言葉をかけてくれたはずだ。
「ところでマッケンジー……さん? 思い出屋ってなんなの?」
「ああそうだ、思い出屋ってなんなんだケンジ」
そう言えばこいつ英語の点数悪かったな、などとニョキニョキと動くケンジの過去にふけっていたマグナだったが、横から声をかけたセルマの言葉で思い出した。そう言えば先ほどガルはケンジの事を“思い出屋”と言っていた。
「オーケーオーケー。案ずるより産むがイージー、実際に見せてやるYO!」
☆☆☆☆☆
「それでは思い出屋さん、よろしくお願いします」
「ああ、任せておけYO!」
ケンジに案内されたのは、ある獣人の家だった。
彼はその家の一室、ベッドに寝かされた老婆らしき獣人の元へ赴くと上着をめくった。
「蝋燭……?」
その上着の内側には、無数の蝋燭がびっしりと差し込まれていた。ケンジはその中の一本を引き抜くと、パチンと指を鳴らして火をつけた。魔法だ。そしてその蝋燭をベッドに寝る老婆の横に立てる。
「ブラザーマグナ、オレのギフトは知っているかYO?」
「ケンジのギフト? えーっと、確か……」
「正解はこれSA。――《陽炎》」
ふわっと周囲が暖かくなった気がした。すると老婆の顔から意識を感じなくなる。
「……お前何を?」
「素敵な幻想を見ているのSA。これがオレのギフト、火属性魔法相当の幻惑能力。俺はこの能力で幻想を――過去を見せているだYO」
「過去を?」
「ああそうSA、マグナは獣人の寿命がどれくらいか知っているか?」
「いいや。人間と同じくらいか?」
「ノンノン。そっちのお嬢ちゃんは知っているかい?」
ケンジに指名されたクレアはあごに手を当て少し考えてから、「確か……」と前置きをしてから答えた。
「せいぜい五十歳くらいだと聞いています。平均だともっと低いかと」
「五十!?」
「正解だYO。獣人は四十にもなれば年寄り、五十まで生きれば大年寄りなのSA。このご婦人だってまだ五十にもなっていないんだZE? 多産で肉体は強いが魔力が低く寿命は短い。ちょうどそっちの妖さんと真逆だNE」
マグナがヴィヴィの方を見ると、彼女はケンジの話を肯定するように頷いた。
「そんな寿命の短い彼らだけど、いやだからこそご先祖様を尊んでいるのSA。でも実際に自分の祖父母を見たのは物心つくかつかない頃。だからオレの能力で幻想を見せ、記憶の底に眠る先祖の顔を呼び起こしてやるんだYO」
「それが思い出屋……」
「そうSA。戦いなんてごめんだNE、オレは人々に蝋燭一本分の幻想を見せる。ベリーリーズナブルな思い出屋さん、それがこのオレ前野ケンジエーケーエーマッケンジー!」
そう言ってみせた前野ケンジの顔は輝いて見えた。奇妙ないでたちになってしまったと思ったが、彼は彼なりに色々あってこうなったのだろう。こういう温かな道を選んだのも、彼の生来の純朴さがあってのことかもしれないとマグナは思った。
「ありがとう、思い出屋さん。おかげでご先祖様と話しができました」
「いいってことYO! またよろしくNE」
眠りから覚めた老婆の顔は、実に晴れやかなものだった。
☆☆☆☆☆
「……そうか。瀬名たちは死んだのかYO……」
老婆の家を後にして、マグナ達はストリートに面した飲食店に腰を落ち着けた。オープンカフェなんて洒落たものでもないが、味はこのサルディアに住むケンジがオススメするだけ美味しかった。ヴィヴィなんてラーメンのような料理を、もう五杯は胃袋に収めている。
「ケンジは他のやつらの行方は知らないのか?」
「知らないNE。雅国崩壊の混乱でバラバラになって以来、ずっと一人SA」
「そう言えばお前、稲葉さんと同じ班だったな……」
稲葉イオも同じようなことを言っていた。そう考えるとレイドと一緒なだけマグナも少しは幸運――いや、かなりの幸運だと実感する。
「バルディア武国は急速に領土を拡大している。その陣営には元雅国の勇者がいるって話しSA。オレ達の知る誰かしらかもNA」
「戦いか……」
「オレはさっきも言った通り、戦いなんてごめんだYO! でもブラザーマグナはどうするんだ? さっきの話の流れなら仇討の為にイライジャを狙っているのかYO?」
「確かにイライジャを狙っているが、それは仇討じゃなくて弔いのためだ。お前の商売を否定するわけではないけど、死んだ人間は何も言わない。何も感じない。だからこれは俺がしたいからしていることなんだ」
マグナは“真の勇者”になれるかもしれないと瀬名セイラは言った。だからそうしているわけでもない。色々考えたうえで、マグナ自身がそうしたいと思ったから歩んでいる道だ。
「そうなんだNA。じゃあもしオレが瀬名セイラの幻想を見せてやれると言っても……?」
「悪いが断る。俺が成すべきことは過去のセイラにすがることじゃなくて、この先どうするかなんだ」
「そういうことだよNA。ま、ブラザーが理想に押しつぶされそうというわけじゃなくて安心したYO」
川尻マサヤや稲葉イオの件があったマグナは、正直元クラスメイトであるケンジを警戒していた。けれど姿は変われど、彼の心の奥底にある他人を思いやる心は変わっていなかった。久方ぶり――いいや数年ぶりに、マグナは心の底から友との再会を喜ぶことができた。
――そんな時だった。一人の女が、ずいずいと店に入って来た。
「やっと見つけたわ」
声だけでわかる。気の強そうな女だ。
しかしこの声、マグナの中にはどうにも心当りがあった。それはケンジも同様だった。
「お前――」
「YOUは――」
二人同時に驚いて立ち上がる。
「「佐々レイラ!」」




