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勇者大戦マグナレイド  作者: 青木のう
第3章 Cat & Mouse
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第25話 Cat & Mouse

 光芒が瞬き、夜の荒野を真昼の様に照らす。

 それはだんだんと激しく、だんだんと数を増していく。


 この光景を始めて見た時、織田ハルトは綺麗だとも鮮やかだとも思わずに、儚いという感情が湧いた。あの光――激しく両陣から撃ちあっている魔法戦の光が一つ流れ星のように敵陣へと降り注ぐと、そこで人が死んでいる。知らぬ誰かが死んで悲しいという感傷を抱くほどのセンチメンタリズムをハルトは持ち合わせてはいないが、人の一生の儚さくらいは理解しているつもりだ。


 魔法戦がひと段落つくと、次は巨人達の格闘戦だ。

 戦場を舞い踊る両軍の勇者。それに蹴散らされる一般兵の乗った魔錬機(マギティファクト)

 もちろん勇者といえども無敵ではない。同じ勇者やエース格と相対すれば危険であるし、数の不利なんてものがなくても様々な要因により一般兵に敗北することはある。


 しかし指揮官であり最大戦力でもあるハルトは、まさに無双という言葉そのもののように圧倒的実力をもって敵を排除する。たとえ相手が勇者でも、彼の手にかかれば一般兵と五十歩百歩の羽虫扱いだ。


 絶対的強者の前に運なんて存在しない。

 ただ相手に絶対的な実力差を見せつけるだけだ。


 完璧な采配と絶対的な武力。織田ハルトの凄まじいまでの力によって、夜が明ける頃には敵軍は壊滅していた。多勢は敵方であったにも関わらずだ。


「ハルト、連れてきたぜ」

「ありがとう、滝川」


 本陣の天幕――そこに座す彼の元へ、元クラスメイトであり今は部下でもある【滝川タカトシ】が一組の男女を連れてやってきた。年は十五、六に見える先ほどの戦闘で生け捕った敵の勇者だ。


 アルクス雅国が崩壊した三年前のあの日、織田ハルトを班長とした班はバルディア武国に面した砦に配属されていた。武国はこのガルダナ大陸で最も精力的に領土拡張に勤しんでいる国家で、織田班はそれに対する防衛の要というわけだ。山脈を挟んだ南側にも稲葉イオらの別班を配置していたことからも、その警戒度がわかるだろう。


 あの晩、遠くの方で煙が上がるのが見え、国境線に今まで見たことが無いほどの大軍勢が押し寄せた時、ハルトはある決断をした。


 駐屯していた雅国騎士団の首脳陣を護衛ごと即座に始末し、自身がその後任に収まることを宣言すると、そっくりそのまま武国へと寝返ったのだ。


 もちろん「欠落者ごときに従えるか」「この反逆者め」といった言葉は山の様に浴びせられた。しかしそのような声はすぐに沈黙へと変わった。彼とその配下の勇者――滝川タカトシ、【九鬼タイヘイ】、【生駒イレーネ】、【林ハルカ】、【村井ミヤコ】らによって処分されたからだ。


 結果として織田ハルトは騎士団の半数を即座に殲滅する力を見せつつ、残りもう半数の騎士団という戦力を手土産に持って実力主義のバルディア武国へと鞍替えした。


「――ってえのが、ハルトがここにバルディア武国の軍団長としている大体のあらましだ。そしてなんでハルトが雅国を見限ったかってえとだな、雅国は国土が長かった。つまり防衛線を薄く長く引く必要があったんだ。軍事大国の武国が考えなしに攻めるわけがない、これは多方面同時進行作戦だと看破したハルトがだな――」

「滝川、もういい」


 いささか以上にお喋りが過ぎたタカトシをハルトが制止すると、ビッと姿勢を正して「すまねえ」と詫びた。ハルト自身はそこまで厳しい上下関係を要求した憶えはないが、元クラスメイト達は自然と彼を敬うようになっていた。


「俺が聞きたいことはシンプルだ。お前たちが俺に従うか、それともお前たちを召喚した【ルミナス心国(しんこく)】に殉じるかだ」

「そ、そんなの決まっている! 命あっての物種だ。僕達は貴方に――貴方に……アガガガッ!?」


 それまでハルトの問いかけにブンブンと首を縦に振っていた二人だったが、突如不気味な叫び声をあげだした。白目をむいて、痛むのか頭を押さえる。まさしく異常事態以外の何物でもないのだが、ハルトは予想していたのか冷静に指示を出す。


「生駒、頼む」

「ええ、《解呪(かいじゅ)》!」


 母親はフィンランド人の生駒イレーネが呪文を唱えると、暖かい光が狂う二人を包み込んだ。やがて光がおさまると、二人は肩で息をしているが表情は正常へと戻っていた。


「僕達に何が起こって……?」

「反乱防止のための服従因子というやつだ。心国の勇者は洗脳が強い、お前たちを召喚した奴はよほど腕が良いんだな。……で、話は途中だったが答えはどちらだ?」

「し、従うよ! 今日から貴方が僕のボスだ!」

「も、もちろん私も!」

「そうか、了解した。詳しいことはそこにいる滝川に聞け」


 ハルトはそれだけ言うと、とくに二人には興味なさそうに視線を彼方へと移した。まだ二人の名前も能力も聞いていないのにだ。


 タカトシはそれを見て新入りとなった元心国の勇者二人について来いと示し、天幕から出ようとする。その新入りの背中に「そういえば」とハルトは声をかけた。


「は、はいなんでしょうか! えっと、名前は――」

「名前なんてどうでもいい。お前たちはいつこっちに召喚された?」

「三か月程前です!」

「じゃあ生年月日はいつだ?」


 それまでしゃきしゃきと質問に答えていた少年が「へ?」と固まる。そして相棒の少女から小突かれて慌てて我に返る。


「しょ、昭和43年7月11日です!」

「私は記憶がぼやけているけど、昭和43年生まれは確かです」


 二人の答えにハルトは「ほう」と興味深そうに答え、タカトシは「嘘だろ!?」と驚きの声をあげる。静かに控えていたイレーネの顔でさえ驚きに満ち溢れていた。


「しょ、昭和ってこいつら爺さん婆さんじゃねえか!? ってか昭和43年って何年だ?」

「西暦1968年だ」

「川端康成が日本人初のノーベル文学賞を受賞した年よ。と言っても、無教養な滝川にはわからないでしょうけど」

「うるせえなイレーネ! 俺はだな、明らかに年下に見えるこいつらが、なんで昭和生まれなんて言ってんのか聞いてんだよ!」

「それは……」


 滝川タカトシの言っている事は正論だ。もし彼らの言が真実なら著しい時間的な齟齬が生じることになる。二人がさらに言い合いを続ける前に、ハルトは立ち上がった。


「待て。この件に関しては、俺の中に推論がある――が、いずれも推論の域を出ない。だからお前たちは、今は忘れていて構わない」

「……わかったよ。お前がそう言うのなら」


 タカトシは引き下がり、イレーネも首肯して再びハルトの後ろへと控える。

 ハルトはいつも彼らに答えを示す。その彼が「今は忘れていい」と言うのなら、彼らにとってそれが正解なのだ。しかるべき時がくればこの天才は必要な答えを示す、そう信じているからだ。


 それは思考の放棄なのかもしれない。しかし、この異常事態に放り込まれてからの三年間でハルトが示してきた回答という実績を考えると、紛れもない真理なのだ。


(今はまだ、な)


 ただし一つだけ付け加えるならば、滝川タカトシや生駒イレーネといった班員たち――いや、前世で織田ハルトと出会ったどの人物も、彼の行動原理の根本を知らなかったのだが。



 ☆☆☆☆☆



「――でよう、それだけのパーツを買い込むのに金が大丈夫か心配だろう? 特に――ここだけの話し、そいつら獣人だったからさあ」

「へー、そうなのですね!」


 もうかれこれ一時間、セカンダの街の魔錬機部品店店主(推定42歳)は、「ここだけの話し」や「お嬢ちゃんには特別」といった言葉を連発しながら、ペラペラと金魔鋼を買った客についてしゃべっている。禿頭の店主の目線はもっぱらヴィヴィの無防備な胸元や太ももに注がれており、「どの世界でもおっさんは若い女の子に弱いんだなあ」などと後ろにいるマグナは思うところだ。


「それが驚いたことに、連中金貨の山を先払いしやがったんだ! なあ、驚くだろ嬢ちゃん」

「ええ、驚きです! で、その方たちの名前は? 所属は?」

「名前や所属は言ってなかったなあ……?」

「でしたら荷の運び先が気になるところですッ!!」


 もしかしたらいちいち叫ぶ勢いでリアクションをとるヴィヴィの聞き方も良かったのかもしれない。日頃一緒のマグナからすれば少しうるさいくらいだが、その勢いのままぐいぐい寄っていく彼女に、店主は見事に鼻の下を伸ばしている。


「へへ、確か連中……おっといけねえ! さすがにそれは言えねえよ(エルフ)の嬢ちゃん、勘弁してくれ!」

「……わかりました! お話しありがとうございます、楽しかったですッ!!」

「おう、また来なよ嬢ちゃん。サービスするよ、へへ」


 最後まで下心全開の店主の店を出、マグナは問いかけた。


「なんで運び先を聞かなかったんだ? あの調子なら教えてくれたかもしれないだろう?」

「しつこく聞いて怪しまれれば危険ですからッ!」

「まあそりゃそうだな……じゃあどうするんだ?」

「心配ご無用ッ! 正確な日付、時間、そしておおよその馬車の台数は把握できましたからッ!!」


 ヴィヴィはそう言うと道端で片膝をつき、右手を地面に押し当てた。そして――


「《大地網羅(だいちもうら)》ッ!」


 ――一瞬だけ、道路に残る轍の後が光った気がした。


「……今のは?」

「大地の変化を感知する地属性魔法ですッ! 馬車の通行による轍の変化を読み、行き先を調べました! なにせかなりの重量のはずですからねッ!!」

「――! それで行き先は!?」

「どうやら【サルディア】へと向かったようですッ!」


 サルディアは獣人族の領域とも近く、彼らが多く住む街だ。店主の言葉とも合致する。


「すごいなヴィヴィ!」

「えっへん! そうでしょう、そうでしょう!」

「よし、向かうはサルディアだ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 文学賞はどうにも政治的な意図が強くて素直に「凄い」とは言い難いのがなぁ
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