十二 生存者
俺と高杉は地下への階段を数歩降りたそこで足を止めた。
「やばい。宇津木さん。帰りましょう。俺は無理です。」
「言うなよ。俺も無理だ。」
中国の兵馬俑そのままに、死んだ人間がずらりとキノコのようにして階段にぎっしりとなって生えているのだ。
今までと違い感染していないように見える黒瘤ひとつ見えない外見だが、足元がキノコかカビの菌糸のようになって生えているという表現そのままなのだ。
肉のシチューから再構築している途中のようにも見える、全裸の生きている死体たち。
「別のルートを探そう。階段は別にあったよな。」
俺達が一階へと一歩上がると、先頭の女性の頭が破裂した。
「うわ!」
「やばっ。」
俺達は慌てて階段口から一階の廊下へと躍り出て、そこで、第二の敵と遭遇した。
白いシーツお化けだ。
防水加工のせいか光沢のある薄汚れたそれは、ぴたぴたという足音と共に俺達の方へと床の上を這いずっているのである。
あの下には確実に感染者がいる。
俺は銃をその白いシーツに向けて、しかし、高杉の方が早かった。
だが、日本の警察官を長くやっている俺や高杉が咄嗟にできる行為は、外国の警察官のように一発必中行為ではなく、まずは威嚇射撃である。
高杉は確実に感染者を殺せる白シーツの中心部ではなく、白シーツの進行方向に当たる床に銃を撃ち込んだのだ。
彼の弾丸は床をちゅんという音を立てて削った。
「きゃあ!」
「撃ち方止め!」
「撃ち方止めます!うそ!生存者?きゃあ、言いましたよ。きゃあって。」
俺達はマスクを被った顔を見合わせて、お互いに表情はわからなかったが、互いに頷き合うと大急ぎで前へと飛び出してシーツをベロンと剥がした。
「きゃあ!」
シーツを剥がされて転がった生き物は、俺が探していたはずの少女だった。
「生存者!発見!保護して搬出します!」
俺はインカムに叫んでいて、しかし、回答は三好美梨を処分して帰投せよ、だった。
俺の目の前で足が痛いからと座り込んだままの少女は、目を丸くして俺を見上げている少女は、俺から見ても可愛いままの弟の想い人そのままの彼女なのである。
「ふざけんな!バカ!俺は真っ当なマワリだからね。一般人は保護するよ!」
高杉のやっぱ惚れていたんだ、という嘆きなどどうでも良い。
俺にがなり立てるインカムだってどうでも良い。
俺は美梨をこの地獄から助け出し、さらに弟と面会させねばならない。




