十一 生きるために
私は完全にへたっていた。
足が痛くて四つん這いで移動もそうだが、血が巡り出した足は信じられない程の激痛を私に及ぼし、私はそこで動けなくなってしまったのだ。
一階のエントランスは亨君と見回った通りにバリケードで封鎖されていただけでなく、病院内の人間を出さないようにと外からも封がされていた。
ばしゅ、ばしゅっと紙袋をつぶしたような音が近くで何度も鳴ったが、あの聞きなれない音は新たな爆発をした感染者の音だろうか?
私が見た夢は現実と虚構が混ざっていると亨君が教えてくれたとおりであるが、希望的観測部分が全部虚構だったことにはがっかりどころではない。
痛みに負けてエントランスの床に転がっているのは、このがっかりで気力がわかない、という事もある。
「とおるくん。どうして、助けてくれないの?」
完全に死んでしまったなら、幽霊でもいいから私の傍に来て欲しいのに、私は物音がするたびに脅えながら物影に潜み、そして、のそのそと四つん這いで這いまわるだけだ。
「私も化け物になってしまっているのかな。」
建物の中には人間であったものはいるが、人間のままの状態の人達は死体だけだった。
死んでいた人達は全員が暴力の被害者のような状態で、私が出会った化け物は破裂するだけの所から、本当は化け物はそれほど怖くはないのでは無いのかと思い始めていた。
血を吸うわけでも無く、噛みついてくるわけでも無く、まるで飼い主を見つけた迷い犬のようにして近づいて来て、そして、破裂、だ。
私は亨君の力によって浄化された。
けれど、その浄化パワーが続いていると思い込む事など出来ず、私は化け物の血を被らないようにと一階の診察室で見つけた防水のシーツに包まっている。
これこそ汚染されているような気もするが、今まで偶然にも、運よく、彼等の血を浴びずに済んでいたとしても、これからはわからないではないか。
「でも、どうしよう。」
この先をどうしていいかわからなくなった時、エントランスの壁に設置されていた院内の案内板が目に入った。
「あ、地下があった。」
地下駐車場から逃げ出す事は出来ないだろうか。
とりあえず、この痛みが消えてからだが。




