249話 暗殺者
カルセン侯爵の屋敷に轟く、不吉な爆発音。
本当は様子を見にいきたいが、ここでの俺たちは部外者だ。勝手に歩き回るわけにはいかなかった。
客間で、ユイが戻ってくるのを待つしかない。
ドオオォォオォン!
「またでありますか!」
「何が起きているんでしょう」
再び聞こえた爆発音に、ワフが眉根を寄せ、エミルがギュッとイオリと手を繋ぐ。
この館が襲撃を受けているのは確かだろうが、どんな規模の攻撃なのか……。魔術師がいるのは確かだと思うんだけどな。
しばらく警戒していると、ふいにメーが反応した。俺の背負う背嚢がバスンと一揺れしたのだ。
「メ!」
「あら?」
次いで、フォルが天井を見上げる。
「どうした?」
「侵入者は捕らえていいのですよね?」
俺たちがその言葉の意味を聞き返す前に、フォルとメーはすでに動き出してしまっていた。
背嚢からメーが飛び出し、僅かな天板の隙間から屋根裏へと入り込んでいく。フォルも、手を天井にかざして何かをしているようだ。
「メメメ!」
「ぐぁ! なんだこれは……? 俺が見つかるなぐぼおおぉぉ……!」
焦ったような男性の声が聞こえたと思ったら、まるで溺れているかのような悲鳴が響く。直後、何かが天井裏で倒れる、ドサリという音が聞こえていた。
身構えたままで待っていると、天板がズリズリとずらされ、そこから黒い塊が顔を出す。体積が妙に増したメーだ。
そのまま床へと降りてくる。
「メー!」
「きゃっ! 中から人が!」
イオリが驚くのも無理はない。メーがその形を僅かに変形させると、意識のない男性の顔が出てきたのだ。
メーに包まれ、寝袋状態である。
「こいつが屋根裏にいたのか?」
「メー!」
「かなりうまく隠れていたけど、精霊の目は誤魔化せないわ」
「ぬぬ。気付きませんでしたぞ」
「儂もだ」
今のワフたちが全く気付けないとなると、その隠密能力は異常だ。簡単に捕らえたように思えるが、その実力はこの世界でもトップクラスなのではなかろうか?
フォルが天板に使われている木材を操って足を封じ、メーが巻き付いて窒息させたらしい。
しかも、どちらの攻撃にも相手の魔力を吸い取る効果があったため、ろくな抵抗もできなかったらしい。
「戦闘状態であれば、もっと抵抗されたでしょうね」
隠密行動をするために、魔力などを抑えていたことが仇になったんだろう。
それでも、こうも簡単に曲者を捕まえてしまうとは、さすが精霊だな。
男性を拘束するため、メーに退いてもらう。すると、それだけで相手の正体が判明した。
着ている鎧に見覚えがあったのだ。それは、特務騎士の魔導鎧であった。ついさっき、アイオールの鎧を見たばかりだ。見間違える方が難しかった。
「まじかよ……」
「いや、ここは反乱軍の首魁の屋敷なのだ。最高戦力の襲撃があってもおかしくはない」
「た、確かにそうか」
精霊コンビがいなかったらと考えると、冷や汗が出た。特務騎士に奇襲を受けていたかもしれないのだ。
いくら強くなったとはいえ、特務騎士相手に急所を狙われたら、ゼド爺さんたちだってひとたまりもないはずだ。
「な、なあ。ここにいたってことは……俺たちが標的ってことか?」
だとしたら、俺たちの存在が国王側に漏れているってことになる。下手したら、国全体が敵に回るんだが……。
「いや、それはなかろう。カルセン侯爵の下へと向かう途中で、我らに捕まっただけだ」
「そ、そうか……。それなら良かった。いや、よくはないけどさ」
「表の爆発は陽動でありましょうか?」
「だろうな」
派手な騒ぎを起こしている間に、隠密行動が得意な特務騎士でカルセン侯爵を暗殺する。使い古された手ではあるが、非常に有効だろう。
実際、俺たちがいなければ、成功していたかもしれない。
まあ、ユイが何らかの守りを施しているかもしれないが、どうなったかは分からないのである。
「さて、こやつの処遇はどうしてやりましょうか? あの偉そうな貴族に引き渡すのでありますか?」
「そうだ。ただ、その前に情報を引き出したい。俺たちの情報が相手に知られているのかどうか。それと、混沌の王について何か知らないかどうか」
「そうだな。特務騎士と言えば、王直属の最高戦力。何らかの情報を持っている可能性はあるであろう」
問題は、どうやって話を聞くかだ。拘束するだけならメーたちがいれば何とかなるが、多少の拷問で口を割るか分からない。
そもそも、悠長にしていたらこの屋敷の人間に勘付かれて、引き渡さねばならなくなるだろう。その前に、出来るだけ情報を搾り取りたいんだが……。
ワフとゼド爺さんが拷問する気満々で「さあ、どうしてくれよう」と腕まくりしている中、イオリが控えめに口を開いた。
「わ、私のスペルを使えば、何とかなると思います」
「おお、確かにそうだな」
イオリの手札には、自白のスペルがある。あれなら、情報を聞き出せるかもしれない。
「頼んでいいか?」
「はい!」
俺の言葉に勢いよく頷いたイオリが、喜々としてカードを取り出す。
仕事が割り振られて嬉しいんだろう。まあ、気持ちは分からないでもない。皆が働いている中で、自分だけが何もしていないとなると身の置き場もないだろうからな。
「では、行きます! 自白!」
イオリがカードを使用すると、白い霧のような物が発生し、特務騎士の顔を覆い尽くした。数秒もすると、白い霧が綺麗に消え去る。
鼻や口から男の中に入り込んだようだ。
「……ぁ」
特務騎士が目を覚ましたが、軽く身じろぎするだけだ。その目はトロンと蕩け、今にも眠ってしまいそうな状態である。
「効きました。どんな質問をしますか?」
どうやら成功したらしい。よし、まずはどんなことから質問しようか。
風邪をひいてしまいました。申し訳ありません。
更新を一度飛ばし、次回更新は29日とさせてください。




