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247話 ディスカ


 ユイと情報を交換しあった俺たちは、クラウドローズによってあっという間にディスカへと到着していた。


 反乱軍の首脳陣が拠点として利用する、城砦都市である。


 首脳陣を暗殺して無血開城させたということで、周囲に戦闘の痕はほとんど見当たらなかった。


 さすがにクラウドローズで町へと直接乗り込むことはできないらしく、ディスカのそばにある小さな湖へと停泊するそうだ。本格的に投入するまでは、できるだけ秘匿しておきたいのだろう。


 湖の周囲に兵士の姿があるが、驚いている様子はさほどない。すでに、クラウドローズの姿を見慣れているらしかった。


 係留などを彼らに任せると、ユイは俺たちを伴って馬車に乗る。


 その際に、明らかに見慣れないはずの俺たちに対しても、兵士の対応は丁寧だった。ユイの客に接するように、敬礼&敬語である。


 しかも、誰とも聞かれない。それだけで、ユイの特別な立場が理解できた。


 クラウドローズとその主であるユイのために、様々な便宜が図られているのだろう。


 湖から移動すること30分。


 町へ入る際も、兵士たちから敬礼されまくりだ。馬車からユイが手を振ると、嬉しそうに笑っている。


 結構な人気者であるらしい。


 町に、兵士以外の人気が余りない。人々は家に閉じこもっているようだ。まあ、反乱軍に占領されているんだから、当然だろう。


 そんな静かな町を通り抜けてたどり着いたのは、町の中央にある屋敷である。ここの領主が使っていた館を、今は侯爵や子爵が利用しているそうだ。


 他の貴族たちも、徴発した屋敷で寝泊まりしているらしい。


「魔術師殿! お疲れさまです!」

「彼らは私の友人です。お部屋を準備してください」

「わかりました!」

「それと、侯爵様たちはどちらに?」

「屋敷の執務室におられると思います」


 ここでも兵士たちが最敬礼で迎えてくれた。あれよという間に屋敷へと通され、応接間のような場所に連れていかれた。


「侯爵様に面会のアポを取ってくるから、ここで待ってて。食べ物とかを用意させるから寛いでていいよ」


 ユイはそれだけ言って、部屋を出て行ってしまう。先ぶれ的なものとかなしに侯爵に会えるらしい。


「いや~、寛げって言われてもな……」

「ですよねぇ」


 エミルと向かい合って、苦笑いしてしまう。ここで寛げと言える辺り、ユイはお嬢様育ちなのかもしれん。ライアン爺さんの家でも緊張したが、ここはそれを遥かに超える。


 高級そうな布地が張られた真っ白なソファなんて、座って平気か? 水晶で作られたテーブルとか、下手に使って傷でも付けたらと思うと触れることさえできない。


 俺とエミルみたいな庶民がこんな豪華すぎる場所で寛げるわけないのだ。


 対して、元騎士爵のゼド爺さんと、空気を読まないワフはいつも通りだった。イオリも意外と落ち着いている。よくメイドさんにお茶のおかわりとか頼めるな。


 こういうところのメイドって、貴族の出だったりするんだろ? 所作が明らかに俺やエミルよりも洗練されてるんだけど。


 フォルは泰然とした様子で動かない。まあ、精霊である彼女にとって、人の世の身分なんて関係ないだろうしな。


 そうやって、落ち着かない状態で待つこと30分。


 ユイが俺たちを呼びに戻ってきた。


「侯爵様が今から会ってくれるって!」

「今からか?」

「はい」

「うむ。主を待たせぬとは、感心でありますな!」

「お前、侯爵の前で絶対に口を開くなよ」


 ゼド爺さんが驚いている。侯爵がこんなすぐに会ってくれるとは思っていなかったんだろう。


 ただ、時間がない俺たちにとっては有り難い。ワフに無礼な真似はするなと釘を刺し、侯爵の執務室へと向かった。


 道中、俺はフォルへと視線を向ける。それに気付いた大精霊は、自信満々に頷いた。分かっているという顔だ。


 実はユイにはまだ明かしていないが、今のフォルは特殊な力を持っていた。まあ、新たな力に目覚めたって言うわけじゃなくて、借り物みたいなものだけどね。


 そのきっかけとなったのが、ディシャル様との再会である。樹海から帰還したあの日、反乱の情報を聞かせてもらった後のことだった。



「それでトール。少し聞きたいことがあるんだが、いいかい?」


 反乱関係の話が終わると、ディシャル様が妙に真剣な、それでいてどこか不安そうな表情で口を開いた。


「彼女は……その……なんと言うか……」


 口籠るその様子は、いつもの歯切れのいい口調からは程遠いだろう。そんなディシャル様の目は、俺を向いていなかった。


 その視線が向けられているのは、大精霊のフォルである。釘付けだ。そして、意を決した表情でフォルの前に進み出た。


「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 ディシャル様がそう言って、フォルの前で片膝をついて頭を下げる。突然のことに皆が驚く中でも、フォルは動じることなく口を開いた。


「私は大精霊フォルタル=クルア。頭をお上げなさい美しい目を持った森の子よ」

「やはり! 大精霊様でしたか!」


 さすが精霊眼を持つダークエルフ。紹介する前に気付いていたらしい。興奮した様子でフォルの事を見上げている。その顔は、まるで幼い少女のようだ。


 しかし、すぐに小さな非難を浮かべた顔で、こちらを向いた。


「トール、紹介してくれないなんてひどいじゃないか!」

「いや、あとで紹介するつもりだったんですよ。反乱の情報の方が俺たちにとっては重要だったんで」

「それは分かるが……」


 本当はイオリと一緒に紹介しようと思っていたのである。だが、地脈を確認してくると言って、ちょうどその時にフォルが席をはずしていたのだ。


 戻ってきた時には反乱の情報を聞かされた後で、それどころではなかった。


 その後も、ディシャル様は俺に向かってブチブチと文句を言いつつ、フォルに対しては丁重に接しつつ質問をするという、なかなか珍しい姿を見せてくれていた。


 普段は大らかなディシャル様も、精霊の事になると目の色が変わるらしい。しかも、フォルはエルフにとっては崇拝対象である大精霊だ。余計に平常心ではいられないのだろう。


 ただ、ここでディシャル様とフォルが出会ったことで、面白い事実が判明した。ディシャル様の持つ精霊眼を用いることで、フォルと繋がりを得ることができたのだ。


 すでに俺の配下であるフォルと契約を結ぶことはできないが、他の精霊と同じようにフォルの目や耳を通して情報を得ることが可能だった。覚心眼とのコンボも問題ない。


 その情報をフォルも共有できるので、わざわざディシャル様と連絡を取る必要もなかった。


 しかも、フォルたち精霊がディシャル様に力を貸すことで、遠距離で繋がることができるのだ。地脈を利用し、距離を延ばしているらしい。


 これを利用すれば、ディシャル様が村にいる状態でも力を借りることが可能だった。


 フォルは地脈の制御に関しては世界有数レベルだ。大精霊だから当然だけどね。


 彼女の力があれば、ディスカとソルベス村ほど離れていても、問題ないらしい。


 ユイには悪いが、反乱を起こした貴族を全面的に信用などできない。ここで、カルセン侯爵を見極めさせてもらうつもりだった。


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