246話 最前線へ
アイオールが、締まりのないヘラヘラとした笑みを浮かべてこちらを見ている。
ユルフワのプラチナブロンドに整った顔立ちの、王子様チックなイケメンだ。しかし、軽薄な笑みのせいで、台無しになっている。
なんというか、売れない新人ホストみたいなのだ。
相変わらず眼だけは笑っていないが、こちらに対する敵意は感じられない。
「ゼニドーの屋敷以来っすねぇ?」
「やっぱり、ユイの関係者だったんだな」
「やはは、そういうことっす」
カード使いの事を知っているようだったしな。そうじゃないかとは思っていた。
ただ、向こうの切り札的存在について、出会ったばかりで聞いていいのかどうか迷っていたのである。
「まあ、お互いに色々あったっすけど、今はそんな話をしてる場合じゃないっしょ? 過去は忘れて、手打ちってことにしませんか?」
「……まあ、いいけど」
アイオールは互いに色々と言ったが、元々責める気もなかった。というか、実は裏で助けられていたのはこちらなのだ。
ワフがゼニドーにリンチされそうになった時にさりげなく助けたり、ジェイドが死んでいると嘘を吐いて見逃してくれていた。
どう考えても、偶然ではなかっただろう。
それに、ルファスの自爆を止めてくれた恩もある。ルファスを殺す隙を窺っていたと話していたが、結果的に助けられたことに変わりはないのである。
ワフもその時の事を思い出したのか、アイオールに向かってシュタッと手を上げた。
「礼を言うでありますぞ! あの時は助かりましたからな! まあ、自力でもあのような愚か者、ぶっ飛ばしてやれましたがな!」
偉そうに「なーっはっはっは!」と笑うワフの頭を、ペチンと叩いておく。
「素直にお礼を言え!」
「ありがとうでありますぞ! 軽薄で気色悪いなどと思って悪かったであります!」
「……は、ははは、中々言うっすねぇ」
「礼になってない!」
「申し訳ありませぬ!」
「まったく」
俺への忠誠心が高すぎて、他人に対して上から目線なんだよな。
ただ、ワフのおバカな姿によって、場の空気が和んだことは確かである。若干1名へこんでいるが、ユイは無視することにしたらしい。俺たちに着席を促した。
まあ、今は時間が惜しいし、後で俺からも謝ればいいや。
「それじゃあ、この後の話をしましょうか」
「ああ、そうだな」
俺たちは椅子に座り、互いの持つ情報を交換し合う。
こちらはセルエノンから聞いた話と、精霊から聞いた話が中心だ。
「混沌の王と、混沌憑き……。つまり、このまま混沌の王を放置していると、樹海の魔獣や竜の混沌憑きがたくさん生まれて、ヤバいってことよね?」
「まあ、ザックリ言うとな」
「アイオール。特務騎士のあなたでも勝てないかしら?」
「無理言わんでください。魔王級の相手に、1人で勝てるわけないじゃないっすか。それが大量に生まれたら、まじで世界滅ぶっすよ」
「そっか、そんな強いんだ」
自分たちを危機に陥れるほどの強力な混沌憑きを見たことがないユイも、アイオールよりも強いと言われてその危険性を理解できたらしい。
顔色を変えて、地図を睨んでいる。
「その混沌の王が、王都の近くにいるのよね? 正確な場所は分からない?」
「今のところは分かっていない。だが、近づけば精霊が探してくれるはずだ。そうだろ? フォル」
「ええ。任せておきなさい」
「じゃあ、まずは最前線まで行くのが先決かしら? まだかなり激しい戦闘の最中だから、危険なんだけどね」
反乱軍に参加している領主たちの混成部隊が、王都を落とすために激戦を繰り広げているらしい。
戦線が王都周辺に広がっているせいで、突発的な戦闘が毎日のように発生しているそうだ。
しかし、疑問が一つ。どうも、戦っているのは人間の部隊ばかりで、ユイのモンスターは前線に出ていないらしい。
「ユイのモンスターは参加していないのか? 王都の手前までは、ユイの力で攻め上がってきたんだろ?」
「王都の攻略には参加するなって言われちゃって」
「ユイ様しか手柄を上げていない状況でしたからね。他の貴族共が、危機感を覚えたんすよ。で、王都攻略は自分たちでやるって言いだしたんす」
「私が働き過ぎだから、休んでいてくれとか言ってたけどね」
「また、ユイ様に手柄を独占されたくなかったんでしょ」
反乱軍の中でも権力争い的なことが起っているらしい。やっぱり、民を想う高潔な志で立ち上がったやつなんて、ほとんどいないのだろう。
反乱軍に参加した貴族の多くは、南部から略奪する目的のクズだったり、下剋上を狙うような野心家ばかりであるようだった。
そんな貴族たちによって、ユイは前線から離されてしまったらしい。
「とはいえ、混沌の王を放置はできないわ。もう大人しくはしていられない。とりあえず子爵様のいる町まで行きましょう」
ユイがそう言って、地図の一点を差す。そこはディスカという大きな都市だった。ここの領主や部隊指揮官を暗殺し、戦闘をほとんどせずに降伏させることに成功したらしい。
お陰で防衛施設も残っており、反乱軍が拠点として利用しているようだ。
「暗殺か」
「仲間の被害を抑える為には仕方がなかったって言い訳をしたら……軽蔑する?」
「いや、俺でも同じことをしたと思う」
「……うん」
口では仕方なかったといいつつ、ユイ自身は納得していないんだろう。しかし、恩義を感じているリシュー子爵に頼まれて、断れなかったらしい。
「子爵様と侯爵様がここにいるはずだから。そこで、協力を仰ごうと思うの」
「……大丈夫か? 正直、混沌の王だなんて言ったところで、信じてもらえると思えないんだが」
「そうだけど、私たちだけじゃ、王都を調べるのは難しいよ。そこら辺はぼかすし、トールさんたちの事は私の知人ってことにするから」
実際、戦場となっている地域でコソコソと活動するのはかなり難しいだろう。最悪、両軍から攻撃されるかもしれない。
だとしたら、どちらかに肩入れするのが正しいし、評判が良くない王国陣営は避けたいのは確かなんだが……。
妙に不安なのは何でだろうか?
「大丈夫! トールさんたちに戦争に参加しろなんて絶対に言わせないから! 混沌の王と戦う前に、消耗してられないしね」
「……分かった。ユイ、よろしく頼む」
重要な使命があると言っても、ユイがいきなり反乱軍を抜けることはできないし、抜けたいとも思っていないだろう。
だとしたら、反乱軍との接触は避けて通れない。それは分かるんだが……。
リシュー子爵とカルセン侯爵。本当に信用できるのだろうか?




