245話 古代戦艦内部
夜の森。
丘陵地帯で混沌憑きを倒した俺たちは、その後はトラブルもなく、ユイとの待ち合わせ場所に辿り着いていた。
待機させていたモンスターたちとも無事に合流できたし、あとはユイのクラウドローズを待つだけだ。
静寂の支配する夜闇の中、身を潜めること数十分。
上空で空気が動く気配があった。耳を澄ませると、ほんの僅かにボイラーのような重低音が聞こえる。
クラウドローズの巨体が、空気を割った音だろう。
空を見上げる。
星明りが一部遮られ、その巨大なシルエットが闇の中に浮かび上がっているのが分かった。
「何か近づいてきますぞ! 空からであります!」
「ユイの関係者だろう。攻撃はするなよ」
「了解であります」
一応、身構えながら待っていると、空から見覚えのある子どもが降りてきた。ユイの召喚した伝声の天使だ。
天使の持つ伝声管の口から、聞き覚えのある女性の声が発せられる。
「待たせちゃったかな?」
「いや、大丈夫だ」
「ならよかった。今、上に来てるんだけど、分かるかな?」
伝声の天使が可愛い指で空を差した。やっぱり、あれがクラウドローズか。夜じゃなかったら大騒ぎだろうな。
「ああ、見えてる」
「この先の平原に着陸するから!」
「了解した」
そこからは非常に速かった。
クラウドローズを追って俺たちも平原に移動し、ユイが開けてくれた後部ハッチから戦艦に乗り込む。
クラウドローズの中は、正にSFの世界だった。スペオペ作品に出てくる宇宙戦艦の内部とか、そんな見た目なのだ。
金属製の天井や壁を、むき出しの配管が血管のように伝っている。
だが、俺とイオリは驚くよりも先に、違和感が先行してしまっていた。ゼド爺さんたちのように、単純に驚くだけでは済まない。
SF風の戦艦の中で出迎えてくれたのが、魔術師や騎士、天使といったファンタジーの住人であったせいである。
特に、ユイだ。魔術師の着るようなローブを身に付け、樫の杖を持った彼女は、周囲の景色に絶望的に溶け込めていない。
彼女自身も、俺たちの気持ちが理解できるのだろう。僅かに苦笑している。
「昨日ぶり、トールさん。そして、あなたがイオリさんだよね?」
「は、はい。あなたが、ユイさんですね。よろしくおねがいします」
「こちらこそ! 頑張ろうね」
「はい」
距離が近いユイに、イオリが戸惑ったような表情を浮かべる。俺と出会った時のように最初は敬語で接するのかと思ったが、イオリに対してはフレンドリーだ。
どうやら、友人認定の俺の仲間=友だちという扱いになっているらしい。
「じゃあ、こっちに来て。あ、モンスターたちは、このままこの格納庫で待機してもらっていいかな? 小さい子なら連れて行ってもいいよ」
「了解」
それにしても、広いとは思ったがここは格納庫だったのか。
クラウドローズの設定としては、空母に近い役割を持っている。超古代人同士の戦争において、たくさんの小型艦載機を載せた状態で空を駆け巡っていた的なストーリーだったはずなのだ。
召喚されたクラウドローズも、その設定に準じて艦載機を乗せる為の格納庫がきっちり存在していたらしい。
当然、人よりも大きな機械をいくつも載せる為の場所だ。俺のモンスターたちが全員で乗り込んでも、余裕でスペースが余っていた。
とりあえず、フォル、虎人の大剣士(強化済み)、コボルトの狙撃弓兵を連れて行くことにする。他のモンスターたちはここで待機だ。
ユイに連れられて艦内を歩くと、その先にはやはり金属の通路が続く。エミルはそれだけで物珍しいらしく、感嘆の声を上げながらキョロキョロと見回していた。
ゼド爺さんも、珍しく落ち着きがない。機関部から響く重低音が何なのか分からず、警戒しているらしい。
そうして進んだ先にあったのは、20人ほどが腰かけられる大きめの部屋だ。
床は金属。そこに固定するように備え付けられた長テーブルは、明らかに樹脂や強化プラスチックで作られていた。椅子も同様だ。
ユイは他の者たちに部屋の外で待機するように伝えると、自分と伝声の天使、そして俺たちだけで部屋に入った。
俺たちは適当に座るように促され、それぞれ椅子に腰かける。
「ちょっと待ってね。私の部下がくるから。他の者たちには色々聞かせられないけど、その部下にだけは隠し事をしたくないんだ。トールさんたちも仲間を連れているし、いいよね?」
「ああ、構わない」
ゼド爺さんとエミルは俺にとって大切な仲間だ。だが、ユイにとっては俺の知人の現地人でしかないだろう。
彼女にとってのゼド爺さんやエミルみたいな存在だと言われては、断れなかった。
「イオリさんもいい?」
「はい。構いません。信頼できる仲間は必要ですから」
「ありがと」
ユイが軽く頭を下げた直後、部屋の扉がノックされた。そして、1人の男性が入ってくる。
俺はその顔を見て、思わず腰を浮かせていた。咄嗟に身構えてしまったとしても、仕方がないだろう。
「やははは、そんな怖い顔しないでくださいよ。前も言ったっすけど、俺は敵じゃないんで」
「アイオール……」
部屋に入ってきた男。その顔に見覚えはない。しかし、声だけは忘れるはずがなかった。軽薄でいながら、妙に迫力を感じさせる声。
間違いない。現れた男は、裏切りの特務騎士アイオールであった。俺の目の前で、上司であるはずの特務騎士長ルファスを殺した男である。
俺や仲間を助けてくれたかのようにも思えるが、実際はどうなのか分からなかった。ともかく、敵に回したくない相手なのは確かだ。
「お久しぶりっすね?」
最強の一角であるはずの男は、俺の前で相変わらずヘラヘラと笑っていた。




