238話 ライアン爺さん
ライアン爺さんに案内され、俺たちは応接室へとやってきていた。
さすがこの豪邸の応接室。絨毯は踏んでいいのか心配になる豪華さだし、シャンデリアはキラッキラだ。
ソファなんかフッカフカすぎて、勢いよく尻から飛び乗ったワフが反発力によってボインと飛び跳ねている。
「ぬわぁぁ?」
「ワフ! あんま暴れるなって!」
「あ、暴れてなどおりませぬ! このソファが柔らかすぎるのが悪いのでありますよ~!」
「ちょ! まるで自分が悪くないみたいな言い方するな!」
「もが!」
ワフがソファに逆切れして、ソファをパシパシと叩く。
だが、ソファが悪いっていうことは、それを用意した相手が悪いって言ってるようなものだぞ?
慌ててワフの口を塞いだが、絶対聞かれたよね?
恐る恐るライアン爺さんを見ると、面白そうに爆笑していた。
「ふはははは! たしかに、儂も最初は座り慣れなくて苦労しましたぞ!」
怒ってはいないらしい。
「お連れの方々、どうぞ楽にしてください」
「は、はぁ」
「ふはは。トールよ、そう緊張せずとも大丈夫だ」
俺やエミル、イオリがガッチガチに緊張していることが伝わったのだろう。
爺さんたちが笑いながら、楽にするように言ってくる。両者の様子は俺から見ても和気藹々としていて、仲が良さそうだ。
それに、ライアン爺さんはいかにも豪放磊落そうな印象である。ソファを汚したくらいで怒ったりはしなそうだ。
まあ、部屋の隅に控えているメイドさんたちは笑って済ませてくれるか分からんけどね。
今のところアルカイックスマイルを浮かべながら、お茶を用意してくれている。
「いやー、それにしても、御無事で何よりでした。行方が知れずと聞き、商会の者たちに探させていたのです」
「心配かけたようだな」
「何があったのですか?」
ライアン爺さんの問いかけに、ゼド爺さんが自分の身に起ったことを話し出す。基本的には、以前に俺たちが教えてもらった話と同じことである。
新しい当主に疎まれてしまい、奴隷に落とされ、盗賊へと売り払われた。そして、俺たちに助けられ、何とか生き延びてきた。そんな話だ。
所々で出てくる聞きなれない人名は、ゼド爺さんを売り払った新当主やその側近の名前だろう。
話を聞く内にライアン爺さんの顔は真っ赤に染まり、全身がワナワナと震え出す。
その様子は、頭から湯気でも吹き出しそうなほどだ。それ以上血圧上がったら、頭の血管が大丈夫か心配になるんだけど?
「あやつらめぇ! ゼド殿を奴隷にして売り払っただとぉ! 許さんぞ!」
「落ち着けライアン。儂はもう恨んではおらん。奴らが儂を奴隷にしてくれたおかげで、トールたちに出会えたのだからな」
「ゼド爺さん……」
「あのまま領地で穏やかに死ぬのだと思っておったが、お主と出会ってからは驚きの連続よ。そして、此度の使命……。ふははは、若き頃のように血が滾っておるわ」
ゼド爺さんの言葉に嘘は感じられなかった。本気で、俺に出会えたことを喜んでくれている。
奴隷に落とされたことすら、俺との出会いでチャラ。それすらも本気だ。
そこまで言ってもらえるとは……。
いかん、ちょっとウルッときてしまったぞ。
「は、はは。爺さんにそんなこと言われてもなぁ。可愛い女の子に言われたかったぜ」
「ふはははは。そうだな! だが、エミルも同じ気持ちであると思うぞ? 奴隷ではなかったがな。のう、エミル?」
「え? え?」
「エミル殿! ここは素直に言ってしまうべきでありますぞ! さあ!」
「え? いや、でも……」
エミルが顔を真っ赤にして困惑している。爺さんもワフも悪乗りし過ぎだ。話を逸らしてやらんと。
「ほらほら、エミルが困ってるだろ。あまり調子に乗るな。それよりも、今はライアンさんとゼド爺さんの関係を聞きたいんだが?」
「そういえば、詳しくは伝えておらんかったか?」
「ああ。旧知の商人さんとだけしか」
「そうだったか。それは済まなかったな」
「ゼド殿は、儂の……そしてこの商会の恩人なのだよ」
ライアンはやはり元騎士であったらしい。ゼド爺さんの5つ年下で、見習いの頃から世話になっていたという。
剣の握り方や騎士の心得など、必要なことは全てゼド爺さんに教わったそうだ。
だが、任務中の怪我で後遺症を残してしまい、ライアンは騎士を続けることができなくなってしまう。騎士爵の身分も返上せねばならなかったそうだ。
憧れだった騎士としての道を断たれ、絶望していたライアンを救ったのも、ゼド爺さんであった。
まあ、当時はまだ30代だったそうだが。
「引きこもった儂を叱咤し、人を助ける道は他にもあると諭して下さったのですよ」
「落ち込んだこやつを見ていられなかっただけの事よ」
ライアンは寒村や農村を巡る行商人として再出発した。その時に、開業資金を貸してくれたのもゼド爺さんだったらしい。
その後、辺境で採取される薬草や魔獣素材の売買で、ライアンの商会は大成功を収める。
ただ、それも、騎士として尊敬を集めていたゼド爺さんが後見する商会ということで、絶大な信用を得ることができたからだった。
ライアン自身の、弱い人間を助けるという商会の方針も、その一助を担った。
初めのころは赤字続きだったが、信用を武器に少しずつ事業の手は広がり、いつしか大商会へと成長したのだ。
「騎士仲間たちも、色々と助けてくれましたなぁ。先代様にも……。その後継者が、あのようなボンクラであるというのは、残念でなりません」
ライアンが暗い表情で呟く。
「まあ、奴らにはその内思い知らせてやるとしましょう」
「あまり無茶はするなよ?」
「分かっておりますよ。領民に迷惑をかけるような真似は致しません」
「ならばいいが……」
領主相手にここまで言えるんだから、ライアン爺さんの商会は想像以上に大きいのだろう。
「それで、ライアンよ。此度は少々頼みがあってやってきたのだ」
「おお、何でも言って下され! まだまだ恩を返せておりませんからな!」
「そう言ってもらえると助かる」
ライアン爺さんは信用もできそうだし、確かにその力を借りることができればフーラでの活動もしやすそうだった。
BKブックス様のツイッターでリツイートキャンペーンが行われているそうです。
豪華景品があたるそうですので、よろしくお願いいたします。




