237話 領都フーラ
「そ、それは魔獣か?」
「はい。私の従魔です」
領都フーラの入り口。
流れ作業であっさり入場とはいかなかった。巨大な岩甲殻の大犀を見て、兵士が集まってきたのだ。
反乱の最中だし、敵対勢力の間者などが紛れている可能性もある。さすがに素通りはさせられないのだろう。
「このような魔獣を使役できるとは……」
「ナリは怖いですけど、大人しいもんですよ」
「お、おい!」
俺は、大犀の頭をコンコンと叩いて見せた。それを見た兵士たちは、及び腰である。大犀が暴れ出したらとでも考えたのだろう。
当然のことながら、そんなことはあり得ないが。
大人しく俺にされるがままになっている大犀を見て、見た目とは裏腹に穏やかなのだと理解したようだ。
しばらくすると兵士たちも落ち着きを取り戻し、大犀に関して色々と質問してきた。
とりあえず大犀に関しては、樹海で捕まえた草食の魔獣だと言っておく。この辺の人間からすると樹海というのはどんな魔獣がいてもおかしくはないらしく、あっさりと納得されてしまった。
むしろ、樹海以外にこんな魔獣がいる方が問題なんだろう。
「町中で暴れれば、お前の責任になる。気を付けるように」
「はい」
ただ、大犀が目立ってくれたおかげで、俺たちへの追及はあまり厳しくなかった。軽く名前などを名乗って終わりだ。
後ろに並んでいる商人の舌打ちが良い援護になってくれたんだろう。
ダークアイズが発見された場合、樹海で捕まえた珍しい魔獣で、ギルドに売りに行くと説明するつもりだったが、そこまでは確認されなかった。
他の袋に樹海表層産の魔獣の素材が詰まっており、それを見せたことで疑いが晴れたようだった。最近まで樹海で狩りをしていた、無謀な冒険者たちと思われたらしい。
「何とか町に入れたでありますな!」
「とりあえず宿へ向かおう。その後は、ゼド爺さんの知り合いのところだな」
「私は冒険者ギルドが気になります」
イオリがそう言って目を輝かせている。どうやら、まだ冒険者ギルドに行ったことがないらしい。
だが、ゼド爺さんには違う意見があるようだった。
「いや、宿の前に知り合いのところに行こう。上手くいけば、泊めてもらえるかもしれん」
「この人数でも平気なのか?」
「多分だがな」
ゼド爺さんがそっちを推すなら、まずは知り合いのところに行くとしよう。
俺たちはゼド爺さんの先導で、フーラの中を進んでいった。何度かきたことがあると言うだけあり、その足取りには迷いがない。
しかし、商店街や住宅街は抜けてしまったぞ? この先には、貴族の屋敷なんかが集まっている貴族街なんだが……。
いや、さすがにそこまではいかなかった。ゼド爺さんが俺たちを案内した先は、一般住宅街と貴族街の間くらいにある、高級住宅地だったのである。
豪商や医師などの、裕福な平民が住んでいる区画だ。その一角にある屋敷が、爺さんの目的地であった。
「爺さん。本当にここか?」
「す、凄い場所でありますな!」
ワフの言う通り、そこは色々な意味で凄かった。あのワフが軽く引いてしまうほどに。
「間違いない。以前と外観は変わっておらぬしな」
「まじか」
「うむ」
ゼド爺さんは自信満々に頷くが……。
簡単に言えば、その屋敷はデカかった。そして、目に見えて歴史があった。
派手であるとか、成金趣味であるとか、そういうことではない。
ただ、風格が段違いであった。
木材や石材は長い年月を経て重厚感を増し、周囲とは違う建築様式が唯一感をもたらしている。
庭も広い。周囲のそこそこの大きさの屋敷と比べても、段違いの規模だ。
「相変わらずなようだな」
知り合いの商人とだけ聞いていたから、もっと小さい邸宅を想像していたんだが……。ちょっと羽振りがいいとか、そういうレベルじゃないぞ?
屋敷を見てポカーンとする俺たちを余所に、ゼド爺さんが門番に近づいて行った。
「すまぬが、儂は元騎士のゼドというものだ。ライアン・ディーン殿は御在宅かな?」
「会長のお知り合いでしょうか?」
こちらの身なりは明らかに冒険者だ。門番たちは不審そうに見ているが、いきなり追い返されるようなことはなかった。
教育が行き届いているのだろう。
とりあえず取り次いでくれた門番の1人が慌てて戻ってくる。その顔には強い焦りの色があった。
「お、お待たせいたしましたっ! ど、どうぞお入りください!」
お貴族様かっていうくらい、丁重な対応に変化していた。ゼド爺さんが余程歓迎されているってことだろうか?
「あのー、荷車はどうすれば?」
「えーっと、その大きさの魔獣ですと厩舎には入らないので……」
「庭に止めさせて貰えたりできませんかね? こいつはちゃんと躾けてあるので、ご迷惑かけませんから」
「わ、わかりました! ご案内いたします! 荷台のお荷物は警備の物がしっかりと見張っておきますので、ご安心を!」
魔獣を庭に入れるなんてとんでもないと言われるかと思ったら、普通に許可が下りてしまった。
ゼド爺さん、どんだけ影響力があるんだ?
大犀を中庭で待機させると、そのまま屋敷の中へと通される。屋敷の中も非常に洗練された作りだった。
ワフを攫った馬鹿貴族の、成金趣味全開の屋敷とは大違いだ。エントランスを見回していると、すぐにゼド爺さんと同じくらいの年齢の老人がやってくるのが見えた。
廊下の向こうから、全力で走ってくる。
「ぜ、ゼド殿~!」
「ライアン、久しぶりだな!」
「おおぉぉ! 生きておられたかぁ!」
あれだけ走って息を乱していない。それに、身体つきがかなりがっしりしている。もしかして、ゼド爺さんと同じような元騎士? いや、警備兵は会長と言っていたはずだ。
うーん、どんな関係なんだろうか?
ただ、ゼド爺さんの手を握って涙ながらに喜んでいるライアン爺さんの姿を見れば、2人の仲が良好であることは一目瞭然であった。
「よくぞご無事でぇぇ!」
「はっはっは!」




