235話 反乱の詳細
急いだお陰か、俺たちは翌日には村へと到着することができていた。
俺たちよりも大分先に出発したはずのディシャル様たちと、途中で合流できてしまったほどの速度である。
道中の休憩も最小限に、急いできたのだ。時間は無駄にできないのである。
村に入ると、皆が温かく出迎えてくれた。笑顔で挨拶してくれる人や、手を振ってくれる人もいる。
やっぱ、この村はいいよな。
「ディシャル様、おかえりなさいませ。トール殿もご無事で何よりです。反乱の話を聞いて、案じておったのです」
「ありがとうございます村長。そのことで、少しお話を聞きたいんです。どうしても、ナール国の王都に行かなくてはならなくて……」
「……危険だと分かっていても、行かねばならぬ理由がおありということですな?」
「はい」
笑みを消し、真剣な顔で聞き返す村長に対し、俺も真面目な表情で頷きを返す。
「……では、後程詳しい者たちを集めておきましょう。反乱発生後に、ナール国から戻ってきた者たちがおりますので」
「ありがとうございます」
この村の情報収集力は中々のものだ。色々と詳しい話が期待できた。
村長とこの後の事を軽く打ち合わせして分かれると、よく見知った顔が現れる。
「トールさん!」
「ご無事でしたか!」
「ジェイド、マリティア! ああ、俺は大丈夫だ」
すっかりこの村の一員になった、ジェイドたち親子である。後ろにはトビアもいた。軽く手を上げて挨拶してくれる。
「俺たちはずっと樹海にいたから、大丈夫だ。というか、昨日知ったんだよ」
「そうなんですか? こっちは大騒ぎでしたよ」
「ああ、数日は厳戒態勢だったぜ?」
ジェイドとトビアが驚いた様子で、反乱が起きた時のことを語ってくれる。ソルベスの村でも戦士たちが緊急招集され、危機に備えたそうだ。
「それでも何も起きずに何日も経ちまして」
「結局、反乱軍がこの村に来ることはなかったんだよ」
リシュー子爵が中心にいるなら、この村は岩塩の関係で友好関係が結べている。
それが理由かは分からないが、反乱軍が姿を現すことはなかったらしい。
「それに、反乱に巻き込まれるのと同じくらい、樹海も危険ですよ! ワフちゃんもエミルさんも、大丈夫なんですか?」
「大丈夫でありますぞ! 樹海の魔物など、ワフの槍にかかれば、こうしてこうしてこうなのです!」
「すごい! ワフちゃんかっこいい!」
「ふふん。それにエミル殿も大活躍でしたぞ!」
「そうなんですか?」
「ワフちゃんに比べたら私なんて……」
「何を言われますか! 樹海で戦った巨大な魔獣から、主を守ってみせたのです! あれは大殊勲ではありませぬか!」
「えへへ、そうかな?」
「そうでありますぞ!」
「エミルさんもワフちゃんもすごい!」
樹海での話に目を輝かせるマリティア。大人しそうでいて、そういったことにも興味があるらしい。
「そう言えば、そちらの女性は……? 初めまして、ですよね?」
「あ、はい。わたしはイオリって言います。よろしくお願いします」
実は、道中で水原の呼び方を「イオリ」で統一することに決めていた。
ミズハラというのはこの辺では珍しく聞こえるそうなので、まだイオリの方がましであるということ。
それと、ワフやエミルから、いつまでも家名であるミズハラ呼びは距離を感じるという意見も出たのだ。
いや、仕方ないじゃん? 俺が自分から女性を名前で呼べるわけがないのだ。
ユイの場合は自分からユイと名乗ったし、かなりグイグイときたからいつの間にかって感じだった。水原――いや、イオリの場合は控えめな感じで、中々ね?
マリティアたちとイオリの自己紹介も済んだようなので、俺たちはとりあえず荷物を置きに移動することにした。
今日の寝床は、以前まで借りていた谷底の小屋ではない。
あそこはもう正式にマリティアたちの住処だからな。彼女たちはいつでも戻ってきて構わないと言ってくれたが、俺たちが村にくるたびに部屋を整理するのは面倒だろう。
それに、部屋がたくさん余っている場所もあるのだ。
俺がこの村の入り口に生み出した、ストーン・フォートレスである。自警団員たちに個室を与えたとしても、10近い部屋が未だに空き部屋になっているらしい。
今後は、行商人などの客人用の部屋として使う計画であるそうだ。
活用してくれていて、嬉しいね。
そして、その夜。
俺はゼド爺さんとともに、ディシャル様の庵を訪れていた。村長と、数人の自警団員たちも一緒だ。
そして、彼らの口からナール国の情報が語られることで、ようやく全体の状況も分かってきた。
「つまり、表向きには南部領の搾取に対する抵抗ってことになってるわけか」
「そのようですね。それ故、北部ではほとんど略奪などが起きておらぬようです」
カグートが、地図に軍の位置などを書き込みながら、色々教えてくれる。各地で食料を配ったりしているようだが、奪ったという話は聞かないらしい。
北部解放を旗印にしている以上、北部で無体な真似はできないってことなんだろう。
中には飢えから仕方なく反乱軍に参加した者たちも多いはずだが、そいつらが勝手な真似をする様子もないという。
盗賊まがいの奴らがお題目を手に入れた程度の存在ではなく、きっちりと統制の効いた軍隊であるようだった。
それと、重要な情報がもう一つ。
「で、もう一つの理由が、国王の解放だって?」
「はい」
なんと、第一王子が国王を幽閉し、無理やり王権を握ったという噂があるそうだ。いや、反乱軍の首魁であるカルセン侯爵が民に説明している以上、本当の事なんだろう。
第一王子は南部と手を組んでおり、彼が国を動かすようになってから北部の困窮が加速したらしい。
それもあって、北部のほとんどが反乱軍への参加を表明したのだろう。
反乱軍がただの無法者集団ではないうえに、俺たちはその首脳部に伝手がある。ならば、王都までは意外と安全に向かうことが可能かもしれない。
だが、そこから先が問題だった。王都はまだ墜ちてはおらず、激戦が続いているようだった。そこで混沌の王を探すというのは……。
「やっぱ、ユイの協力が欲しいところだな……」




