233話 ディシャル様との再会
樹海深部付近の拠点を出発し、一番最初に作った初期拠点へと戻ってきた俺たちは、そこで意外な人物と再会していた。
「トール!」
「え? ディシャル様?」
なんと、砦にはディシャル様がやってきていたのだ。ミノタウロスたちに歓待され、薬草茶を飲んでいる。
塩の採掘を監視するついでに、拠点の様子を見にきたらしい。
「そちらの少女はお初にお目にかかるね」
「あ!」
そこで気付いた!
ディシャル様、素顔を出しちゃってるじゃん!
いくら仲間になったとはいえ、ディシャル様の素性を明かすかどうかは別だ。そこは俺たちが決めていい事ではないのである。
俺たちの時と同じように、ディシャル様に審議してもらわねばならない。
だが、ここで顔を合わせることになってしまうとは……。完全に予想外だった。
水原が目をキラキラさせて、ディシャル様に近づいていく。
「エルフの方ですか? 初めて見ました」
無邪気に喜んでいた。地球人だったら、おかしくない反応だろう。
「水原伊織といいます。トールさんのお仲間ですか?」
「仲間というか、俺たちがメチャクチャお世話になってる人だね」
「世話になったのはお互い様だ。むしろこっちの方が大分借りてると思うよ? ディシャルという。初めまして」
「はい!」
ディシャル様は椅子から立ち上がると、水原に握手を求めた。
そして、質問をし始める。
「イオリはどうしてトールの仲間になったんだい?」
「イオリはダークエルフをどう思ってる?」
「イオリは――?」
これは覚心眼を使っているだろう。止めようかとも思ったが、ディシャル様としては当然の行動である。何せ、自身の命と、村の平穏がかかっているのだ。
水原には申し訳ないが、ディシャル様の心境を考えれば邪魔をする訳にもいかなかった。
それに、これで水原の心の内も分かる。
出会う前からあんなメモを残し、出会った時にはスフィンクスに取り込まれていた。俺たちを狙って陰謀を張り巡らせることも無理だろうし、奇跡が起きなければ死んでいたのだ。
水原の事はもうほとんど疑ってはない。ただ、ほとんどなのだ。
99%信用したとしても、どうしても1%の疑念が残った。
他のカード使いたちとの殺し合いの記憶がそうさせるのか? それとも、洗脳などの特殊なカードを多く有する青色の使い手に対し、無意識に警戒をしてしまっているのか?
口では仲間だなんて言っておきながら、心の奥底では完全に信頼しきれていない。自分の不誠実さが嫌になる。
だが、ディシャル様の能力があれば――。
俺が自分に対する言い訳をウダウダと考えている間に、ディシャル様の質問攻勢がようやく終わった。
水原はやや戸惑った様子だが、きっちり質問に答えたようだ。
ディシャル様が俺に振り向く。
「トール」
「は、はい」
「いい仲間を加えたね。彼女は、きっと頑張ってくれるだろう」
「そ、そうですか」
ディシャル様がニッと笑った。つまり、水原に悪意などはないってことなんだろう。心底ホッとした。
「色々質問をして悪かったね。これからもトールをよろしく頼むよ」
「はい」
「実は私は――」
ディシャル様が、自身の特殊性をイオリに語っている。村で認められた時に、俺たちが聞かされた話と同じだ。
水原はそれを真剣に聞いている。彼女にも、自分がディシャル様に認められたということが分かるのだろう。
眼の事は驚いたようだが、怒るようなことはなかった。むしろ自分の言葉に偽りがないと判明して、嬉しそうですらある。彼女もまた、自分が完全に信用されていないことは分かっていたらしかった。
2人の話が終わったところで、俺は改めてディシャル様に現在の様子を色々と尋ねてみた。これから向かうナール国の情報が欲しいのだ。
すると、驚きの言葉が返ってきた。
「ナールは現在内乱中だよ」
「え? 内乱って……。どこかが反乱を起こしたってことですか?」
「ああ。北部と南部で争っている」
ナール国では、豊かな南部と貧しい北部で仲が悪いっていう話だった。俺たちが樹海に潜っている短い間に、戦争まで発展したってことなのか?
俺たち以上に驚いているのが、ゼド爺さんだ。自分がかつては仕えていた国なのだ。気になるのは当然だろう。
「なんと……! ディシャル殿、詳しい事をお聞かせ願えまいか?」
「それは構わないが……。我らもそこまで詳しいことは分からないんだ」
最初、フーラに潜んでいる村の人間から、北部の領主が結託して反乱を起こしたという情報がもたらされたそうだ。
自分たちに被害が及ばぬよう、村では防備体制を敷いた。しかし、村の者たちが恐れていたような、反乱軍や暴徒による襲撃は起きなかったらしい。
それどころか、北部では今までとそう変わらない生活が続いており、樹海での塩の採掘などもそれまでと同様に続けられているという。
「反乱が起きたというのは、真の事なのでしょう?」
「ああ、そうだよ。でもゼドの疑問も尤もだと思う。私も色々と探らせてみたんだが、反乱軍は小規模でありながら、すでに王都近くまで進軍しているそうだよ」
「それは、凄まじいですな。ですが、北部の軍でそれ程の戦果を……?」
ゼド爺さんが混乱した様子で首を傾げる。北部は貧乏で、装備も食料も潤沢とは言い難い。それが少数で攻めたところでたかが知れていると思ったのだろう。
「私も最初は驚いたが……。ある情報を聞いて、納得したよ」
「それはどのような?」
「反乱軍のトップはカルセン侯爵。そして、リシュー子爵だ」
「え? それって……!」
俺も思わず声を上げてしまう。リシュー子爵と言えば、ユイの雇い主の名前だ。
なるほど、そりゃ強いはずだ。反乱軍には確実にユイが力を貸しているのだろう。
以前の彼女は、内乱を起こさせたくないような事を言っていなかったか? 岩塩も、北部の領主に配るという話だったはずだ。
いや、自分たちが蜂起する前に、暴発されたくなかっただけ? それとも、他の領主の不満を抑えきれずに、反乱が起きてしまった?
「トールと同じ、カードの力。それがあれば、この戦果も納得できる」
「ですね」
ユイのクラウドローズは、この世界では戦略兵器のようなものだ。上手く使えば、国の一つや二つ、簡単に滅ぼせるだろう。
ただ、俺たちにとって、重要な点はそこではない。
「これって、王都に行きやすくなったのか? それとも、行きにくくなったのか?」




