229話 水原加入
「転生者を、3人殺してる……」
「ああ、そうだ」
固唾を呑んで水原の返事を待つ。だが、水原の反応は、俺の想像とは違っていた。
「すみません、先にお伝えしておけばよかったですね。それは、ブラスログン様から聞きました」
「え?」
「夢の中で教えてくださったんです」
夢の中でブラスログンと話したと言っていたが、俺についても軽く話があったらしい。
水原が生き返った時は、それは俺のおかげであるということ。俺は転移者3人の命を奪っているが、相手側の問題も大きく、神々としては仕方がないと考えていること。
そして、今後どう行動するかは水原の自由だが、できれば俺の手助けをしてほしい。最低でも、俺と敵対するような真似だけはするな。そう告げられたという。
「貴重なボーナスを捨ててまで、私を助けて下さったトールさんをお手伝いしたい。私はそう思いました」
水原がそう言って、自らの腹のあたりを撫でた。そこは、先程まで欠損していた部分だ。
「それに、本当は隠しておきたいことも、教えてくださいましたよね? カード使い同士の戦いに勝利した時に報酬がもらえることや、自分が転生者を殺してることも。そんなあなたを信じられないわけがないです」
「そ、そうか」
「はい」
水原が真面目な顔で頷く。そう、彼女はずっと真面目な印象だった。多分、地球でもそうだったんだろう。俺とは違った生きづらさがありそうだった。
「……それじゃあ、これからよろしく頼むな」
「はい!」
俺が差し出した手を、水原が勢いよく握る。心強い仲間が増えた瞬間だった。
「水原伊織と申します。皆さま、よろしくお願い致します」
水原が仲間たちを振り返ると、深々と頭を下げる。まだ堅いが、時間が立てばもうすこし打ち解けてくるだろう。
「うむ。儂はゼド・ガルトマン。よろしく頼む」
「私はエミルと言います。よろしくお願いしますね」
「ワフはワフでありますぞ!」
「ゼドさんに、エミルさんに、ワフちゃんですね」
一人ひとりと挨拶をしていく水原。そして、最後に握手したワフを、ジッと見つめている。この顔、前も見た記憶がある。
「水原、聖霊を復活させたいか?」
「! そんな方法があるんですか!」
やはり、亡き聖霊のことを考えていたらしい。
ワフを見る目が、ユイと同じであったのだ。
「俺も、一度ワフを喪ったことがあるんだ」
「堕天使と相打ちになってやったのでありますぞ!」
「胸を張るな! あの時は本当に肝が冷えたんだからな!」
「ご心配なく! もう主を泣かせるような真似はしませぬぞ!」
「だから泣いてねーし! それに、その言葉全く信用できん!」
「な、何故に!」
「ふふふ……」
「ほらぁ。主のせいで笑われたでありますよ」
「いや、お前のせいだろ! まあ、いいや。聖霊を蘇らせるためには――」
その後、水原に100ポイントをためると聖霊を復活させられると教えると、かなり落ち込んでいた。
彼女もユイと同じで、ポイントが溜まったらすぐにパックを購入してしまっていたらしい。
「でも、希望が見えただけでも……。ありがとうございます」
「もう仲間だからな。必要な情報は共有するのは当たり前だ」
「はい」
水原の聖霊は、ワフによく似たネズミ獣人の少年であるという。
セルエノンの犬と猫どちらが好きだという質問に対して、どちらも飼ったことがないから分からないと答えると、ネズミ獣人の聖霊になったそうだ。
「いつか、紹介しますから」
「期待しておりますぞ!」
さて、水原も救い、混沌の王の居場所も判明した。これ以上ここにいる意味はないだろう。
少し休憩した後に、俺たちの拠点へと戻ることにした。
休憩中、カードの召喚をしておく。勝利報酬で得た色魔力を消費せねば、勿体ないからな。
現在の手札は、生物即死、魔導砲台、大地の魔力、バルツの森の見張役、神鳴る獣、テンペストバードだ。
「まずはテンペストバード召喚!」
テンペストバード
黄色4 1/1 SR
飛行
このモンスターを生贄に捧げる、対象のプレイヤーがコントロールする全てのモンスターに2点ダメージを与える。
高コストだが、その外見は黄色い羽毛の猛禽類だ。ギリギリ肩に乗れるかといった程度のサイズでしかない。
「次は、バルツの森の見張役召喚!」
最早お馴染みと言ってもいいカードだな。バルツビースト2体が呼び出され、頼もしい咆哮を上げる。
さらに、ドローしたモンスターを立て続けに召喚した。
魔眼の蜥蜴鶏 モンスター:魔鳥
緑4 2/2 C
1時間に1度、対象を指定してもよい。指定された対象を10分間行動不能にする。
オラクルの光霊 モンスター:幻想
白2 0/1 UC
浮遊
このモンスターを生贄に捧げる。3分間、対象のモンスターはダメージを受けなくなる。
火吹きリス モンスター:獣
赤2 0/1 C
攻撃する代わりに、対象に1点のダメージを与える。
魔眼の蜥蜴鶏は、体長2メートル近い大きな鶏である。ただ、尾羽の部分がトカゲの尻尾になっており、足も鳥よりも蜥蜴に近い形状だ。コカトリスという奴である。
オラクルの光霊は、フワフワと浮くただの光の球にしか見えなかった。俺の言うことは分かるらしく、ちゃんと指示通りに動いてくれる。
火吹きリスは赤いリスにしか見えない。口から火を吐くことができるリスだ。
この3体に加え、バルツの森の主を1体召喚しておいた。これでバルツの森の主は2体だ。戦力は大分戻ったかな?
まあ、塔の中でこれ以上の戦闘が発生することはなかったけどね。
塔を下りるのは簡単だった。最上階の魔法陣を操作することで、転移の魔法陣を起動可能だったのだ。
「もう、来るときに使った飛行ルートは使えない。樹海を地道に進まないとダメだ」
ワイバーンもペガサスも、スフィンクスに倒されてしまったのである。
「歩いて帰るとなると、結構時間がかかるな」
「だが、仕方あるまい。出来るだけ急ぐとしよう」
エミルとワフは大丈夫だろう。俺よりも体力がある。問題は水原か?
「水原。因みに体力はどうだ?」
「あ、足手まといにならないように頑張ります!」
自信はないようだ。それに、今の水原はライフバリアも魔力もともに0である。回復するまでの数日は、面倒を見てやらねばならないだろう。
「エミル、ワフ。水原を見てやってくれ」
「任せて下さい」
「お任せあれですぞ!」
「……お手数をおかけします……」
お伝えしておりました通り、夏休みをとらせていただきます。
次回の更新は9/4予定ですので、よろしくお願いいたします。




