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228話 水原の過去


「あの、トールさんは混沌の王を倒しに向かわれるのですよね?」

「もちろんだ」

「では、私もお供させてください! お願いします!」


 水原がそう言って、俺に頭を下げた。


 寝ている間に見たお告げの中で、ブラスログンから俺に助力するように告げられたのだという。


「それに、混沌の王は絶対に倒さなきゃいけません。この世界のためにも。だから、お願いします!」

「……水原は、この世界を救いたいのか?」

「当然です。私のことは盾として使ってくださって構いませんから、連れて行ってください」

「なんで、そこまでするんだ? 北の国で救われたって、紙には書いてあったけど」

「そうです。私はこの世界に救われました」


 水原は、地球にいた頃は孤独な人間であったという。


 発端は小学校低学年時代に受けた陰湿なイジメだ。


 きっかけは些細なことで、クラスのリーダー的存在の少女の遊びの誘いを断ったことだった。


 その後、リーダー女子に扇動されたクラスの子たちに無視されるようになり、寂しい小学校生活を過ごすことになってしまう。


 ただ、本当に衝撃的だったのは、中学生になったときのある変化だった。


 彼女の小学校は、学区の関係でほぼ全員が同じ中学に入学することになっている。そこで、イジメが続くことを覚悟していたのだが……。


 中学に入った途端、イジメが綺麗さっぱりなくなったのだという。特に謝られたりすることもなく、自然と小学生時代の関係がリセットされたそうだ。


 中学生になったことを切っ掛けにして、多くの子供たちが下らない無視行為を止めたのだろう。


 皆、もう飽きていたのだが、止めるタイミングを逸してしまっていたのだ。そして、中学入学をいい機会と考え、自然とイジメをしなくなったのである。


 その状況に、彼女はホッとするよりも恐怖したらしい。


 通う学校が変わっただけで、手のひらを返したように態度を変えるクラスメートたち。自分をあれだけ苦しめたイジメをあっさりと止めて、笑っているクラスメートたち。


 それがきっかけで水原は人間不信となり、一切の友人のいない人生を過ごしてきた。高校、大学と、同級生と会話をすることさえ稀だったらしい。


 父親とは幼い頃に死別し、母親は金持ちの愛人をしていて家にはほとんど帰ってこない。


 金に困ることはなかったが、人との関わりは極度に少ない人生だった。


 ただ、人と関わり合いになりたくないと思ってたわけではない。人を信じられないせいで友人を作ることはできなかったが、常に他人との繋がりを求めてもいた。


 だからこそ、地獄だったのである。常に孤独が彼女を苛んでいた。


 そんな彼女が出会ったのが、TCGだ。カードで対戦し、互いのデッキの感想を言い合う間だけの、短い人間関係。それが、彼女にはちょうど良かった。


 しかし、彼女はある日殺されてしまう。犯人は母親だ。男に捨てられて錯乱した母親に、グサリとやられてしまったらしい。


「そんな私を転生させて下さったのが、ブラスログン様とセルエノン様です」


 第二の人生であれば、自分はやり直せるかもしれない。そう思って、彼女は転生を了承した。


 水原が送り込まれたのは、樹海の北にあるシーカー国だ。


 彼女はそこで勇気を出して、変わろうと頑張った。


 腹を空かせていた孤児院の子供に弁当を食べさせてやったら懐かれたり、貧民街のおばちゃんたちに気に入られたりと、転移者のお手本のような触れ合いをしてきたらしい。


 また、町の外で助けた女性冒険者数人とも親しくなり、生まれて初めてガールズトークを経験したという。


「きっと、普通の人たちには当たり前のことなのでしょうが……楽しかった」


 だから、彼女はこの世界を救いたいと強く願っていた。裏切られることを恐れずに、相手を信じるということを教えてくれたこの世界を。


「だから、お願いします! 私を連れて行ってください!」


 人を見る目なんかないけど、水原の言葉に嘘は感じられなかった。


 それに、あの紙に残された言葉や、死の間際の言葉を聞けば、水原は信用できると思う。


 俺は仲間に視線を向けた。ゼド爺さんも、エミルも、ワフも、大きく頷いてくれる。


「……分かった」

「いいのですか?」

「ああ、カード使いの力は有り難いし、水原が敵になるとは思えないからな」


 だが、だからこそ伝えておかないといけないことがある。


「俺は、これまでに他のカード使いと3回戦って勝利している。水原みたいに投了したんじゃない……。つまり、地球からの転生者を3人殺してる」


 これだけは絶対に教えておかないといけないだろう。黙ったまま、仲間面なんかできなかった。


 そのことを後悔はしていないが、水原はどう思うか……。


 たとえ、カードの力を好き勝手に使っていた奴らだったとしても、殺したことに変わりはない。


 それに、俺だって人の事は言えない。仲間を守るためとはいえ、転生者を殺し、この世界の町に侵入して貴族の館で暴れたりもした。


 好き勝手していると言われたら、その通りなのだ。


「転生者を、3人殺してる……」

「ああ、そうだ」


 これで、水原がどんな反応を見せるか。俺を信用できないと言って去るくらいならともかく、敵対するようなことになったら――。


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