219話 スフィンクスの謎
「クアアォォォ!」
空へと舞い上がったスフィンクスが、屋上の上空を旋回しながら敵意の籠った咆哮をあげている。
奴はこう思っているだろう。空中にいる自分が圧倒的に有利であると。だが、それが思い上がりだと教えてやる!
「第二段階だ! レムリアス、打ち合わせ通り頼む!」
「了解いたしましたわ」
レムリアスが合掌するように手の平を合わせ、その特殊能力を発動させた。
ゼド爺さん、エミル、虎人の大剣士、オーク・グランドチャンピオンの体が宙に浮く。
レムリアスが、黄魔力の能力、『対象に1時間、飛行を付与する』能力を使用したのだ。
さらに、俺はゼド爺さんとエミル、ワフのツリーアーマー、に緑魔力2ずつ、虎人の大剣士の特殊能力に万能魔力1をつぎ込み、強化を行った。
「こっからは空中戦だ! みんな、頼むぞ! 奴の魔力だって、無尽蔵じゃないはずだ! いつか障壁が張れなくなる!」
「うむ! 任せておけ!」
「頑張ります!」
これは、正直賭けに近い。しかし、明確な打開策がない以上、正面から最強戦力をぶつける。それしかできなかった。
「ワフもやってやりますぞ!」
「ああ、頼む!」
今回は、ワフも前線に投入だ。持てる戦力を出し惜しみしている余裕はないのである。
「わっふー! 飛行少女ワフですぞ!」
「無理は……いや、ゼド爺さんたちの邪魔はするなよー!」
「分かっておりまーす!」
「分かってなさそうだから言ってるんだぞーっ!」
ダメだ。もう聞こえてない。
ワフは凄まじい速度で飛び出していってしまった。
わずか数秒で自身の眼前に到達したワフを見て、スフィンクスが思わずと言った様子で咆哮を上げる。どうやら、ただの威嚇ではなく、衝撃波を伴っているようだ。
しかし、最高速度に達したワフは、その程度ではびくともしなかった。速度を落とすこともなく、槍ごとスフィンクスにぶつかる。
「とりゃああ!」
一番槍はワフだった。他のみんなと違って、飛行に慣れているからだろう。
「クオオオオォォ!」
「ぬわぁぁぁ! 何故にぃぃ!」
一直線に突っ込んで行って、障壁に弾き返されている。ワフが大きく弾き飛ばされたのとは対照的に、スフィンクスに揺らいだ素振りは一切ない。
圧倒的過ぎる防御能力だ。
「今のワフは、9/8(推定)なんだぞ! その攻撃が、弾かれるなんてありえるか!」
思わず頭を掻き毟ってしまった。ただ、よく見ると、スフィンクスが戸惑っているような表情を浮かべていた。
小さな子供の外見にしては、攻撃力が高いからだろうか?
直後、虚空に視線を走らせる。なんだ? 前にもあったよな? その直後に逃げられてしまったが……。
「ぬおおおおお!」
「たぁぁ!」
そこにゼド爺さんとエミルが突撃していく。左右からの挟み撃ちである。やはり障壁で弾かれるか?
少しの諦めと、大きな期待を込めて、ゼド爺さんたちの攻撃を見守る。
スフィンクスが魔力切れを起こした様子はないし、まだ攻撃を続けなくては駄目だろうか?
しかし、スフィンクスの行動は俺たちの予想と違っていた。
「キュアァ!」
短い咆哮とともに、咄嗟にその巨体を下降させたのだ。明らかに回避を優先した。その顔に僅かな焦りの色があるように思えるのは、気のせいだろうか?
「攻撃を回避したってことは、つまり嫌がっているってことだよな?」
「そう思われますわ」
「よし、このまま押していけば……」
その後は、こちらが優勢に進んでいった。
やはり、スフィンクスは攻撃されることを相当に嫌がっている。なりふり構わず、飛行部隊の攻撃を回避し始めたのだ。
その動きには余裕はなく、ひたすらに逃げの一手だ。反撃さえこない。その余裕さえないのだろう。
しかし、こちらの攻撃も当たってはいなかった。スフィンクスはあの巨体で、凄まじい速度と驚異的な小回りを誇っていた。
飛行にまだ不慣れなゼド爺さんたちでは、その動きを追いきれていないのだ。
歯噛みしながら空中での追いかけっこを見つめていると、不意にスフィンクスの眼前に何かが出現した。小さい本のような――。
「馬鹿な……。あれは!」
見覚えがある、銀色の金属製の装丁。俺は思わず、自分のバインダーを見つめる。
全く同じ装丁の本がそこにはあった。
「あれは……カード使いのバインダーだっ!」
俺が叫び声を上げる前で、スフィンクスのバインダーから1枚のカードが浮かび上がり、弾けて消える。
「クオオオオオオオオオオオオオ!」
そして、スフィンクスの周囲に巨大な9つの水球が生み出されたかと思うと、超高速で空中部隊に襲い掛かっていた。
「ブモオオオオッ!」
ゼド爺さんたちは何とか防御が間に合ったらしいが、間近にいたオークが複数の直撃を受けてしまっていた。
意識を失ったのか、体を弛緩させて落下してくる。
「青のスペルカード。ナインボール……」
間違いなく、MMMのカードだ。つまり、あのスフィンクスが青のカード使い?
「どういう、ことなんだ……?」




