218話 対象
レムリアスを引き連れた俺たちは、屋上へと続く階段を抜け、屋上へと突入していた。
広い円形の屋上の中央に、巨大な石造りの祠が設置してあり、スフィンクスはその中で休んでいる。
ポルターガイストメイドの偵察により、屋上の配置は既に理解していた。事前の打ち合わせにより、全員の動きもスムーズだ。
「まずは遠距離攻撃だ! やれ!」
「うむ!」
「はい!」
「オフ!」
ゼド爺さんにエミル、コボルトの狙撃弓兵の放つ矢に加え、メイドさんや精霊達の魔力弾が一斉にスフィンクスへと襲い掛かった。
奴は未だに祠の中におり、飛び立つこともできずにいる。これは全て直撃のはずだ。
だが、さすが古代エルフの生み出した化け物。そんな簡単な相手ではなかった。
「ガアアアアァァ!」
狭い祠の中でも器用に翼を羽ばたかせる。すると凄まじい風が派生し、矢は四方へと散っていった。
魔力弾は当たったが――。
「また障壁か!」
「ダメージはないな……。厄介な」
俺のライフバリアにそっくりな障壁が、魔力弾を防いでいた。その間にも、スフィンクスは祠から這い出ようとしている。
「ワフ! どうだ?」
「腰のベルトの宝石! あれが怪しいですぞ! 魔力の流れの中心であります!」
「そうか! レムリアス! 奴の魔道具を破壊しろ!」
「承りましたわ!」
事前の作戦で、俺たちはスフィンクスの障壁を破る方法をいくつか考えていた。その一つが、奴が身に付けている魔道具の破壊だ。
あれほど強力な障壁を連続使用するのは、いくらエルフに生み出されたキメラであっても、かなり難しいことは間違いない。
そこで思い至ったのが、障壁を張る魔道具を使用している。もしくは魔道具によって補助されているという可能性だ。
だとすれば、その魔道具さえ破壊してしまえば、厄介な障壁を消し去ることができるかもしれない。
レムリアスの能力であれば、それが可能かもしれなかった。
以前の戦いで、グラムスの使用していた死霊騎士の剣を破壊した、『対象のオブジェクトを1つ破壊する』能力である。
レムリアスは両手を握り合わせ、祈るように目を瞑った。
直後、スフィンクスに異変が訪れる。
「ルアァァ?」
「よし、成功だ!」
これも防がれてしまったらどうしようかと思っていたが、レムリアスの能力が勝ったらしい。
「全身の宝石たちの魔力も失われましたぞ! あれがメインで、他の宝石はその制御補助用だったようですな!」
「じゃあ、障壁は……フォル!」
「はいは~い。お任せあれ!」
フォルの放った魔力弾がスフィンクスに襲い掛かる。
「クオオオォォ!」
「ちぃっ! 消えてないか!」
俺たちの期待を乗せた魔力弾は、障壁の表面で虚しく弾けてしまっていた。相変わらずの鉄壁の防御だ。
「障壁を補助するような魔道具じゃなかったってことか!」
「少々お待ちを……。うーむ、確実ではありませぬが、体力や生命力を強化する効果があったようです!」
「つまり?」
「瀕死の状態で蘇ったりすることはなくなりましたぞ!」
「その瀕死に追い込むのに苦労してるんだがな!」
だが、明るい材料もある。レムリアスの特殊能力は通ったのだ。つまり、あの障壁はダメージを防ぐことしかできないってことか?
「だとすると……」
俺は手札からあのカードを取り出す。
「こいつも通るか?」
不吉な絵柄の黒のカード。生物即死のカードだ。
「生物即死を使用! ターゲットはスフィンクス……あれ?」
生物即死を使用としたんだが、魔力を支払うことができない。そもそも、スフィンクスをターゲットにできなかった。
キメラは生物扱いじゃない? それとも、攻撃系の術なら防げる?
「クアアアアアアア!」
「レムリアス! 青の能力!」
召喚時に青魔力を支払っている場合に使うことができる、『対象は10分間、全ての行動が不能となる』能力だ。しかし、レムリアスは申し訳なさそうに首を振った。
「申し訳ありません。あの怪物は、対象にすることができません」
「防がれるとかじゃなくて、対象にできない? なんでだ!」
「分かりません! 申し訳なく……」
なんなんだよあのスフィンクスは! 効く能力と効かない能力の差は? やはり、肉体に作用する能力は防ぐのか?
「チェシャ猫! 緑1能力だ!」
「ウナー……」
こっちも無理であるようだった。
「ならこっちだ!」
レムリアスの召喚時に引いたファイアーボールのカードだ。こちらは問題なくスフィンクスを対象にできる。
ファイアーボール 赤3 C スペル
対象に2点のダメージを与える。
「くらえ!」
ゼド爺さんたちが再度放った矢とともに、真っ赤な火球が飛んでいく。ゼド爺さんの強弓にも劣らぬ速度で突き進んだ一抱えほどもある火の球が、スフィンクスを直撃していた。
「クアアアア!」
「ちっ! あれでもダメか」
轟音とともに発生した真っ赤な爆炎がスフィンクスの姿を覆い隠したが、すぐに翼によって吹き飛ばされ、火傷一つない姿が現れる。
「もう一射いくぞ! エミルよ!」
「は、はい!」
弓部隊が再び矢を番えるが、スフィンクスはその前に飛び上がっていた。
翼だけではなく、魔術も併用しているからだろう。重力を無視するような不自然な動きで、地面から離れていく。
そして、ある程度の高さに到達すると、かなりの速度で宙を動き回り始めた。
「くっそ、飛ぶ前に決着は付けられなかったか!」
前話にて、レムリアスの召喚に魔力を6色使用したと書いてしまいましたが、白魔力を使用してませんでした。
5色に修正しています。話の展開に変更はありません。
コミカライズの1巻がもうすぐ発売ですね。
一部店舗にて、購入特典としてMMM風キャラクターカードがランダムで配布されます。
よろしくお願いいたします。




