217話 屋上突入前の準備
塔に入る前に激戦を繰り広げたスフィンクス。奴を倒さねば、混沌の王の居場所を特定することはできないという。
こっちの攻撃を尽く防ぐ強力な障壁。強化されたバルツビーストたちを纏めて倒す凶悪な魔術。そして、巨大でありながら俊敏さも持ち合わせた強靭な肉体。
無策で挑んで、勝利できる相手ではない。
俺と同じカード使いであるはずの、水原伊織。彼女も、手紙を残した後にスフィンクスに挑んで敗れたと思われるのだ。
だが、俺は水原と違って1人じゃない。頼れる仲間たちがいるのだ。
俺はゼド爺さんやエミルと作戦を練り、様々な事態を想定し、万全の準備をしてから挑むことにした。
ポルターガイストメイドさんたちに偵察を頼んだ結果、スフィンクスは屋上にいるらしい。
スフィンクス用に用意されたと思われる、屋根の付いた祠のような場所で羽を休めているようだ。
狙いやすいと言えば、そうなのだろう。即座に飛び立つことはできまい。
「じゃあ、まずはこいつから使おう」
2枚ある大地の魔力を使用し、魔力を増加させる。
これで万能魔力19、緑10、黒2、黄2、赤1、青1となった。
「ドローは……おお! こいつは!」
「何かいいカードを引いたんですか?」
「ああ!」
1枚は赤のスペル、ファイア・ホイールだった。凄まじい威力の、範囲攻撃呪文である。
スフィンクスに効くかどうかは分からないが、選択肢の1つには良いだろう。
上手くいけば、全身を焼け焦がすことができるかもしれない。
だが、本命は次のカードだ。
「こいつの名前は生物即死。生き物であれば、確実に殺すことが可能という、恐ろしいカードだ」
「生物、即死……」
エミルがカードを見て少し怖がっている。
俺のカードの力を知っているからこそ、真実だと理解し、怯えたのだろう。自分にその力が向くことがないとは分かっていても、目の前に生き物を絶対に殺害する呪いのようなカードがあるんだからな。
対して、ゼド爺さんは生物即死に興味津々だ。不気味さや恐ろしさよりも、その強力な力に意識が向いているのだろう。
「それがあれば、あの怪物も殺せるのではないか?」
「ああ、多分な。以前、バルツの森の主も、このカードで瞬殺されたことがある。上手く当てさえすれば、キメラでも関係ないと思う」
問題は、あの障壁だ。ダメージ系だけではなく、こういった特殊な攻撃も防いでしまうのかどうか。
MMMには、呪文を防ぐような能力がいくつかあった。奴が、それに近い能力を発揮する可能性は、なくはないのだ。
「トールよ。それだけ強力であるのならば、積極的に狙っていくべきではないか?」
「うーん。上手く当たればいいんだが……。やっぱり、怖いのがあの障壁だ」
「ふむ。どちらにせよ、直接攻撃で障壁の破壊を狙うことには変わりはないか」
「ああ」
元々は、強化されたゼド爺さんたちで物理攻撃を加え、障壁を破壊できないか試すつもりだった。それが無理だった場合は、遠距離攻撃である。
生物即死を狙うとしても、初手に行うことは変わりないだろう。
「じゃあ、次はいよいよ奥の手を召喚するぞ」
「うむ」
「楽しみですね! 前の時は、お話しもできませんでしたから」
「そうでありますな!」
皆がワクワクした目で見ている。俺も、高揚感が抑えられない。彼女を召喚するのも久しぶりなのだ。
それに前回は、召喚直後に使い捨てるような運用しかできなかった。今回は、もう少し長く召喚していられるだろう。
「それじゃあ、万能2、緑4、黒2、黄2、赤1、青1を使用して、魔力を統べる者・レムリアスを召喚する!」
魔力を統べる者・レムリアス 妖精
XX 1/1 LR
飛行
召喚時に支払う魔力によって能力が付与される。
緑魔力を支払っていると、『対象を1時間、+2/+2修正する』能力を得る。
赤魔力を支払っていると、『対象に2点ダメージを与える』能力を得る。
青魔力を支払っていると、『対象は10分間、全ての行動が不能となる』能力を得る。
黄魔力を支払っていると、『対象に1時間、飛行を付与する』能力を得る。
白魔力を支払っていると、『対象のダメージを2点回復する』能力を得る。
黒魔力を支払っていると『対象のオブジェクトを1つ破壊する』能力を得る。
特殊能力は、1ターンにつき、X回使用可能。
レムリアスを生贄に捧げる:アタックする代わりに、指定した全ての対象に攻撃力分のダメージを与える。
召喚中は毎日零時に、X魔力を支払うか、Xダメージを受けることを選択しなければならない。
Xは6。つまり、能力を6回使用できるということだ。
以前と同じように、一際大きい魔法陣が展開された。
複雑な模様で構成された金色に輝く魔法陣から、七色の光が溢れ出し、繭のように混ざり合う。
1度見たはずの光景に、俺たちは再び見入っていた。何度見たって、毎回同じように感動するだろう。それ程までに、美しい光景だった。
虹色に輝く繭が内側から弾け跳び、淡い光を残しながら虚空へと消えていく。
そのあとには、1人の美しい妖精が静かに浮かんでいた。
以前と同じ、煌めくような金髪と、清らかな銀の衣装。ただ、全く同じ姿ではない。
以前とは違い、赤、青、黄、緑、黒の5色に加え、無色透明の翅を1枚持っていた。
召喚時に白以外の5属性を使用したからであろう。無色透明は万能魔力を示すのだと思われた。各色に輝くそれぞれの翅に照らされ、以前よりもさらに絢爛豪華な印象である。
「レムリアス、参上いたしましたわ。主様」
「よろしく頼む」
「ええ。此度は前回以上に力に満ち溢れておりますわ。必ずや、お役に立って見せましょう」
「え? 前回の記憶が、あるのか?」
「はい。勿論でございます」
レムリアスの言葉に、驚いた。他のカードたちには、記憶が残っているようなことはないはずなのだ。召喚時に、最低限の知識が与えられるだけだ。
「違いはレアリティ? レジェンドレア……LRのカードだからか?」
LRのカードには他のカードと違って、個体としての名前が存在し、場に1枚しか存在できない。それ故に、一個の独立した存在として、連続性が存在するのかもしれない。
「前回は、済まなかった。お前を使い捨てにした」
「ふふふ。気にしないでくださいませ。そもそも、私の使い方としてはあれが最適なのですわ」
「だ、だが……」
「それに、こうして主様がいる限り、幾度も呼び出していただくことが可能なのです。何も問題はありません。むしろ、何度もお役に立てて、光栄です」
レムリアスがそう言って微笑む。美しい笑顔だ。そこに、無理をしているような影はない。
「主。ワフには分かりますぞ。レムリアス殿は、本当にそう思っておりまする。ワフも同じだから、わかるのであります!」
「聖霊様の言う通りです。使い捨てではなく、主のためにその身を使う機会を与えて下さる。そう思ってくださいませ」
「そうでありますぞ!」
いや、さすがにそこまで傲慢なことは思えんが……。レムリアスが、生贄効果に対して誇りのようなものを抱いていることは確かなようだ。
「分かった。もし、その力を使わなきゃいけない事態になったら……。また、頼む」
「お任せくださいませ」
嫋やかに微笑むレムリアス。その内から発せられる存在感が、非常に頼もしい。
「よし! それじゃあ、屋上に行くぞ。絶対に、勝つ!」
「うむ! 腕がなるわい」
「ワフも頑張りますぞ!」
「わ、私も微力を尽くします!」
「ああ。皆の力を貸してくれ」
デッキひとつで異世界探訪のコミカライズが発売されます。
書籍版4巻との連動企画などもあるそうですので、ぜひよろしくお願いいたします。




