216話 塔の情報
「この紙、知りたいことがかなり書いてありますぞ!」
「書いてあることは正しいか?」
「そうですな。見た限り、正確であると思われますぞ。これで解析が捗るのであります!」
「そうか……」
つまり、紙に書いてあった水原伊織の身の上や、これから怪物に挑むという話も本当だったということだ。
「解析の結果が書いてあるんだろ? また解析する必要あるのか?」
「あえて、全てを記してはいないようでありますな」
「うん? なんでだ?」
「全てを書き記すには、紙が何枚も必要になりますからな」
膨大な結果を書き記すよりも、解析をスムーズに行うための重要な手がかりを残す方が効率的だと考えたらしい。
それ以外にも、この魔法陣で何ができるかという情報も書かれていた。
ワフが魔法陣にタッチして何やら魔力を流し始める。
「この紙には、魔法陣の使用方法が書いてありますが、その中には過去のアーカイブを開く方法も載っていたのであります」
なんと、この魔法陣には過去の記録も保存されており、大昔に何が起きたのかも分かるようになっていた。
「ふむふむ」
早速、ワフが情報を引き出し始める。
「この塔が地脈と天脈に干渉し、操るために建造されたということは覚えておりますな?」
「そこはさすがにな。インパクトあったし」
「地脈から魔力を吸い上げ、天脈を操る。その逆もしかり。世界を循環する魔力を掠め取り、利用する装置なのですよ。それ故に、制御には細心の注意を払わねばなりませぬ」
「まあ、素人でも、ヤバそうだなーってことはわかるからな」
人類が足を踏み入れるのが許されるのか。疑問になるレベルの話だと思う。
「装置の稼働には、非常に繊細なバランスが必要とされたようです。僅かな綻びも許されず、暴走の危険性が常に付きまとう」
「そんな物を、使おうとしたのか?」
「それ故に、傲慢と誹られるのでありますよ。自分たちのような選ばれし種族が失敗するはずがない。古代エルフは、そう思っていたのでしょう」
そして、古代エルフは失敗した。
地脈の中に混沌の王が巣食っていたのだ。
そのせいで吸い上げる魔力に混沌が混じってしまい、塔が機能不全を起こしてしまったのである。
「そして、そのことが異常気象の引き金となりました」
想定していた通りに装置は稼働せず、時には雪を降らせ、時には地震を起こし、あらゆる産業が大打撃を受けた。
「それが、古代エルフが衰退する原因となったわけか」
「そうであります」
「にしても、この塔って何千年も昔に建てられたんだよな?」
そんな昔から、混沌の王が存在していたのか?
「それが、今になって慌てて対策を練るなんて、神様悠長過ぎじゃね? それとも、対策ができない理由でもあったのか?」
「いえ、単純に気付かなかったのでは?」
「そんなこと、有り得るか?」
「この塔が制御不全に陥った理由も、我々ならば混沌の仕業だと分かります。しかし、当時のエルフたちには、なぜそうなったのか分かっていなかったはずであります。神々も、僅かな混沌の流入程度では、気付かなかった可能性はあると思いますぞ」
今も、混沌の王の居場所は分かっていないしな。それだけ混沌の王は隠れるのが上手いってことなんだろう。
「ふむ。なるほど」
「どうした?」
さらに塔の情報を読み込んでいたワフが、何やら唸り声を上げる。
「この塔の真下には地脈が走り、上空には天脈が流れております。この塔の機能でその地脈と天脈を走査することで、現在の混沌の王の位置を探査することができるようです」
「まじか!」
「ただ、その居場所は何故か記されておりませぬ。位置が同じとは限らぬ故に、自力で探せということなのでしょうかねぇ?」
「でも、混沌の王の場所を探せるんだろ?」
「それは間違いなく」
「おお! 頼んだ!」
「お任せあれ!」
その後、ワフが解析を続ける間、俺たちは最上階を隅々まで探索する。しかし、特に目ぼしい発見はなかった。
こうなると、ワフの解析を待つことしかできない。入り口付近に陣取り、休憩を取りながらワフを見守った。
食事はお預けだ。匂いでワフの気が散るかもしれんからね。
それから1時間後。
「ふぃー。終了しましたぞ」
「おお! そうか!」
「しかし……」
「どうした?」
ワフの表情が暗い。もしかして、上手くいかなかったのか?
「失敗か?」
「失敗と言いますか、邪魔されておりますな」
「え? 誰かに解析を妨害されているってことか?」
「そうであります」
ワフ曰く、混沌の王の居場所を発見できないように、妨害を受けているらしい。
「あの紙に混沌の王の居場所が書かれていなかったことも、水原殿が屋上へと向かった理由も、わかりました」
「もしかして、妨害しているのは……」
「屋上の怪物であります。奴は、塔に干渉する権限を持っているようでありますからな」
「だから、水原は怪物を倒そうと……」
考えてみれば、ここで解析を全て終えられるのであれば、危険を冒して屋上に向かう必要などないのだ。
つまり、彼女が屋上へと向かわねばならない理由があったのである。
「ワフ、あの怪物について何か分からないか? 能力とか、弱点は?」
「魔力を高レベルまで高めた、拠点防衛用の攻撃特化型のキメラであるとしか……」
「攻撃特化?」
メチャクチャ強力な障壁を使用していたが? もしかして、あれが大したことないと言われるほどに、凶悪な攻撃能力が?
「とにかく、奴を絶対に倒さなきゃいけなくなった事は確かだな」
「そうでありますな! 腕が鳴りますぞ!」
しかし、カード使いが一度敗れている相手だ。その強さは、俺たちも目の当たりにしている。
「奥の手の出番かな」
今月末に、コミカライズ1巻発売予定です。
原作4巻との連動キャンペーンなどもあるそうですので、よろしくお願いいたします。




