215話 手紙
塔探索3日目。
早朝から出発した俺たちは、ついに149階へと到達していた。
この階層は、今までとは全く違う造りをしていた。
まず、円形のフロアの中心に、巨大で複雑な魔法陣が描かれている。様々な色が使い分けられ、描くだけでも非常に時間がかかりそうだ。直径は20メートル近いだろう。
さらに、その魔法陣を囲むように金属の円柱が10本。等間隔で配置されていた。円柱の表面にはこれまた複雑な文様がビッシリと刻み込まれ、ただの装飾目的ではなさそうだ。
「天井にも、何かありますよ」
「うむ、タダならぬ力を感じるな」
エミルたちが言う通り、天井にまで魔法陣が描かれていた。その中央には、綺麗に研磨され、形を整えられた長さ2メートルほどの六角形の水晶が埋め込まれている。
「部屋全体が、魔法装置としての役割をもっているのかもしれませぬな」
「これ、調べられるか?」
「ワフにお任せあれ! 少々時間はかかりますが、必ずや解析してみせましょう!」
おお、ワフが頼もしいぞ! おバカだけど、やっぱり頼りになる!
「俺たちは何をすればいい?」
「そうですなぁ。魔法陣には入らぬようにして、その周りの探索をお願いいたします。起動用の装置などがあるかもしれませぬからな」
「分かった」
この中で魔法陣を読み解けるのはワフだけだ。できるかぎり邪魔にならないようにサポートを行わねば。
そうして149階の調査を始めると、すぐに新たな発見があった。
「トールよ! これは何だと思う?」
上り階段の辺りを調べていたゼド爺さんに呼ばれる。急いで向かってみると、ゼド爺さんが階段横の床を睨みつけていた。
「どうした?」
「そこに、手紙のようなものが置かれているのだ」
「……本当だ」
ゼド爺さんが言う通り、階段入り口の脇には白い紙が置かれていた。何やら文字っぽいものが書かれている。
片側が少しギザギザになっており、ノートか何かを破ったのだと思われた。その紙に見覚えがある気がしたのは、なぜだろうか?
「罠か?」
「ここまできて、これほど稚拙で露骨な罠をしかけるか?」
「だよな」
拾おうとしたら罠が作動するというのは、よくあるブービートラップだろう。
これまでエルフの塔にその類の罠はなかったし、手紙が風化せずに残っているのもおかしい。
「いや、待てよ。この手紙……。絶対にブービートラップじゃないな」
「どうして分かる?」
「この文字だよ」
手紙に近寄ってみると、紙に書かれている文字が良く見えた。
「この、よく分からん文字を理解できるのか? 古代エルフの文字は、分かっていなかっただろう?」
「これは、古代エルフ文字じゃない。日本語だ」
そう。その手紙に書かれていた文字は、日本語であった。カッチリとした綺麗な文字で、長文が描かれている。
俺は思わずその手紙を拾い上げていた。
なるほど紙に見覚えがあるはずだ。これは、転生時にセルエノンから持たされていた野草事典の表紙を、破り取ったものだった。
裏返すと、見覚えのある表紙が印刷されている。
「何々……私の名前は水原伊織。ブラスログン様に転生させられた使徒です。この紙に、私の聖霊が分析した、魔法陣の情報を書き記します。もし、これを読める方がこの後にここにきたら、役立てて下さい……」
手紙には軽い自己紹介の後に、この階の魔法陣についての分析が書かれていた。
水原伊織は、俺の少し後にこの世界にきたようだが、その際に北にある国に送り込まれたらしい。
しかも、最初から塔や混沌の王の情報を与えられていたそうだ。ブラスログンはセルエノンと違って、必要な情報はしっかり与えてくれるタイプの神様なんだな。
北の国で情報を集めた後、水原はこの塔にやってきたという。飛行可能なモンスターの背に乗って塔に近づいたがスフィンクスに襲われ、スペルを使って壁を破壊して何とか塔に逃げ込んだと書かれている。
その後はカードの力を駆使して塔を登り、ここまで辿り着いたそうだ。
青のカードには姿を消すスペルや、空間跳躍というカードもあったはずだ。その辺を使えば、ゴーレムをやり過ごせる可能性はあるだろう。
ああ、魔獣調教というカードもあったな。対戦相手のコスト1以下のモンスターのコントロールを奪うカードだ。
青の初期デッキに入っているはずなので、グラディエータージャガーはまず間違いなくそのカードで配下に加えたのだろう。
「魔法陣の説明については、難し過ぎていまいち分からんな」
専門的な用語が多用され、難しい論文のような内容だ。水原伊織はかなり頭がいいのだろう。それとも、聖霊の語った言葉をただ書き写しただけか?
「とりあえず、この手紙をワフに見せよう」
調査の手助けになるかもしれないのだ。
「しかし、屋上の化け物ね……」
最後の部分に、手紙を残した理由が書かれていた。もし自分が屋上の化け物に負けた場合のことを考えて、後から来た他の使徒のために少しでも情報を残しておこうと考えたらしい。
屋上の化け物というのは、確実にスフィンクスの事だろう。奴がまだ生きているということは――。
「……くそ」
手紙には、僅か数日しか過ごしていないが、地球が地獄でしかなかった自分は、この世界で温かい人々と触れあい、救われた。後は託す。そんなことが書かれていた。
「……やってやるよ。俺だって、この世界が好きだからな」
だから、任せておけ。顔も知らぬ、青のカード使いよ。
私用で少し忙しく、次回の更新は24日とさせてください。




