213話 カード使いの影
寝落ちしてしまい、いつもの時間に書き上げられませんでした! 申し訳ありません。
70階まで続いたゴーレム階をようやく抜けた俺たちは、その後順調に階段を上り続けていた。あと少しで100階である。
無論、本来であればもっと厳しい戦いが続いていただろう。
80階から90階は銀色の円筒が立ち並ぶキメラ階だったのだ。しかし、全てが死滅していたおかげで素通りできていた。
戦場になる予定のフロアは壁などがないぶち抜きフロアが多く、探索の手間がかからないことも大きいだろう。
戦闘よりも、たくさんある部屋を1つ1つ調べる方が遥かに時間がかかるからな。
結果、夕方前には100階へと到達することができていた。
だが、「やった! 100階だね!」と素直に喜ぶことはできない。
階段を上りながら、すでに違和感が感じられた。上を向いている視線の先にあるはずの天井が、何故か遠くに感じたのだ。
「主、これは……」
「開放感が凄いな」
階段を登り切ると、その違和感の正体がハッキリする。
他の階に比べて、天井が倍以上高かったのだ。他の階が5メートル弱なのに対して、ここの階は3倍くらいはあると思う。
そうして天井の高さに驚いた後、次に目に入るのが床に転がっている巨大な鉄塊だ。
「ゴーレム、なのか?」
その形状に見覚えがある。これまで散々戦ってきた、古代エルフの作ったガーディアンゴーレムだろう。
しかし、そのサイズがおかしかった。
「デカくないか?」
「そうでありますな」
破壊されて床にうち捨てられたそのゴーレムは、どう見ても通常の数倍のサイズがあった。
背の高さは、目測だが12、3メートルくらいはありそうだ。
パーツのサイズも桁違い。体積で言えば17~18倍はあるに違いない
この階に合わせて作られたのだろう。いや、こいつを配備するために、あえてこの階を特別仕様にしているのか?
「特別製の巨大ゴーレムか」
「うむ。これほどの鉄の塊が動くとは、信じ難いな」
「きっと、凄く強いんでしょうね……」
大きいというのは、それだけで脅威だ。しかも、それが金属でできた超重量のゴーレムだとすれば、突進だけでも十分に必殺技となる。
どの程度動けるのか、見ていないから分からないが、もし小型のゴーレムと同じ程度に動けるのであれば相当強いだろう。
「まあ、もう動かないけどな」
「このデカブツをこうも破壊するとは……。何をすれば可能なのだ?」
ゼド爺さんが唸る通り、ゴーレムには派手な破損が至る所に残っている。
右腕は千切れ、左腕は手首から先がない。右膝も、まるで万力で潰されたかのようにぺちゃんこだ。
さらに、胸の部分に大きな穴が空いている。人が悠々と通り抜けられそうなサイズの、大きな穴だ。中を見ると、魔法陣が刻まれた金属片や、文字の描かれた宝石のようなものが顔を覗かせている。
外から見ると完全にロボットだが、中を見るとやはりファンタジー的な存在なのだと思い知らされるな。
「これ、侵入者がやったと思うか?」
「そこは間違いないと思われますぞ。これを見て下され」
ワフが指し示したのは、ゴーレムの右足だ。そこには、獣の爪の痕がはっきりと残っている。下の階で見たものと、同じ傷に見えた。
「つまり、こんな化け物ゴーレムを倒せるくらいには強いってことか……」
「そうなりますな」
俺がワフと一緒に巨大ゴーレムを検分していると、フロアを探索していたエミルの声が聞こえた。
「トールさん! ワフちゃん! きてください!」
かなり真剣な声色だ。何か発見があったらしい。
慌ててエミルの下に向かう。すると、そこには確かに真剣にならざるを得ない、驚きのものが存在していた。
「こ、これを見てください」
エミルの横には、こんもりと膨らんだ黒い布が敷かれている。天幕用の、ターフか何かだろう。結構大きい。
塔の中に備え付けられていたリネン類は、全て風化して消滅してしまっていた。これは、明かに、外から持ち込まれた物だろう。
そして、エミルがその布を捲ると、布の下からは1匹の獣が姿を現す。鋭い牙を備えた、サーベルタイガーに似た生物だ。牛並みの巨体である。
ただ、危険はない。すでに事切れているからだ。
脇腹の肉がゴッソリと抉られており、その傷が致命傷になったようだった。その目はすでに光を失い、口からダラリと垂れ下がった舌が床を舐めている。
「黒い布があったので、めくって見たらこれが……」
「どういうことだと思う?」
「埋葬する暇がないので、せめて布をかけていったというところでありましょうか?」
「まだ、そこまで腐ってないよな?」
「腐敗臭は微かにありますが、それほど酷くはありませぬな。死後10日程度と思われますぞ」
つまりここで戦闘が行われたのがそのくらい前ってことか?
「こいつは侵入者の仲間だと思うか?」
「ふむ……」
ワフがおもむろにしゃがみ込み、獣の前足を軽く調べる。
「足跡の主は、こいつで間違いないでしょう」
「つまり、侵入者……カード使いじゃなかった?」
死体が残るということは、カードのモンスターではない。
ワフに調べてもらうと、こいつはこの樹海に生息する生物で間違いなかった。グラディエータージャガーというらしい。
「いや、そうとも限らないか?」
精神完全支配のような、相手を支配するカードを使っている可能性もある。黒と青にはその手のカードがいくつかあったはずだ。
それに、青色には透明化や認識誤認という、姿を隠すためのカードもある。相手のブロッカーを無視して、本体を攻撃できるカードだ。それがあれば、下の階のゴーレム素通りも説明ができた。
「あの巨大ゴーレムの足の傷とも、サイズが一致しますが……。この魔獣は、それほど強くはないはずなのです。強化していない状態のバルツビーストと同じ程度でありましょう」
それも、カードで強化すればどうとでもなる。逆に、侵入者がカード使いである可能性が高まったかもしれない。
「まあ、死んだ配下を弔う程度の理性がある相手だということは分かったな」
「そうでありますな。この遺体はそっとしておきましょう」
「そうですね」
俺たちは布をそっと戻すと、静かに手を合わせた。




