212話 65階の怪
無数のゴーレムが配備された61階を抜けても、戦いは終わらなかった。
61階から64階まではゴーレムパーティ状態であったのだ。
見取り図の61階に描かれていたゴーレムマークは、あの階から上にゴーレムを大量配備するという意味であったようだ。
その配備の仕方もかなり厭らしい。
1体が起動してしまうと、それをトリガーにして他のゴーレムも動き出してしまうのだ。
そのせいで、必ず大量のゴーレムを相手にせねばならなかった。
しかし、本当に驚いたのは65階に足を踏み入れた時である。
「なんだと?」
「およ?」
先頭を歩いていたゼド爺さんとワフが足を止めて、何やら驚きの声を上げた。この2人にしては珍しい反応だ。
「どうしたんだ?」
「見てみよ」
「うわっ。これは……」
「凄いですね」
その階の入り口付近には、ゴーレムの残骸が大量に散乱していた。
俺たちがゴーレムと戦った後の光景にそっくりだ。
勿論、俺たちがやったのではない。俺たち以外の侵入者がやったと思われた。
しかし、それでも疑問は残る。
そもそも、どうやってここまで来たのかだ。この下層のゴーレムは無傷だった。それどころか、戦闘の形跡もなかったのである。
それが一転して、この階から急に激戦の痕跡が残っている。
「まるで、侵入者がこの階にいきなり現れたみたいだ」
「そうでありますな……」
「例えば、慎重に気配を殺して行動すれば、ゴーレムをやり過ごせると思うか?」
何らかの方法でゴーレムのセンサーを誤魔化し、通り抜けてきたとすれば、ここまで戦闘をせずに上がってくることはできるだろう。
そして、この階で何かヘマをして、ゴーレムに発見され、戦闘になった。
「どうだ?」
「うーむ。そうでありますなぁ……。まず隠密の技術を駆使してというのは、無理ではないかと思われます」
「なんでだ? こっちの世界には気功とかあるんだし、達人になれば気配を完全に断つこともできるんだろ?」
バルツの森の主なんかは、森で真後ろに立たれても気付けない時があるのだ。
「それは、本当の達人になればという話であります。しかし、件の侵入者は1人ではありませぬ。最低でも獣を2匹連れている状態で、それだけの隠密能力を全員が持つというのは……」
「ありえないか?」
「獣は元来気配を断つのが得意であります故、絶対有り得ないとは言いませぬ。気配断ちを習得した獣2匹と、達人1人。そういう構成も考えられますからな」
「だろ?」
「しかし、それでもゴーレムを欺けるとは思いませぬ。ゴーレムに備えられた知覚機能は、相当高性能でありましょう。配置的に死角もほぼなく、ゴーレムを騙すことはまず無理かと」
ワフが言うならそうなんだろうな。
「じゃあ、魔術ならどうだ?」
「それなら可能性はあるとは思います。しかし、相手は魔術を知り尽くし、その力によって隆盛を誇った古代エルフであります。その特別製ゴーレムともなれば、生半可な魔術では欺くことはできぬでしょう」
「うーん、そうか……」
ワフがゴーレムのセンサーについて軽く説明してくれる。このゴーレムは古代エルフの特別製なだけあり、その知覚機能も高性能であるという。
音、赤外線、温度、振動、魔力。ありとあらゆる異常を感知し、動き出すそうだ。地球の重要施設の防犯装置みたいなレベルであるらしい。
なるほど、それを突破するのは無理だ。
「ですが、主並みの力があれば、不可能ではないかと。カードの力は、常識を軽く超えますからな」
「つまり、侵入者がカード使いかもしれないって?」
「少なくとも、それ級の能力は必要でありましょう」
そんな話をしながらゴーレムの残骸を調べていると、虎人の大剣士が何かを発見していた。
「ガオ!」
「どうした?」
ホットプレートサイズの破片を持ってくると、
その表面を鋭い爪で指し示す。大剣士の毛深い指の先には、鋭利な何かで抉られたような傷が3本、綺麗に並んで刻まれていた。
それはどう見ても獣の爪によってできた傷である。サイズはそこまで大きくはなさそうだ。
「オフ!」
「狙撃弓兵もか!」
大剣士に続いて、ビーグル頭の狙撃弓兵も同じような破片を掲げている。それにも同じように獣の爪痕が刻まれていた。
「爪のサイズはあまり大きくはないな」
「ふむ。多分、足跡の主で間違いないと思われますぞ。サイズがほぼ同じでありますからな」
「つまり、大穴からの侵入者がここで戦闘をしたってことで間違いなさそうか」
マジで61階から64階まで、どうやってやり過ごしたんだ?
これはいよいよ、カード使い説が濃厚かもしれない。
その後、上へと登っていくと、再びゴーレムたちとの激戦が待っていた。ゴーレムが破壊されていたのは65階だけで、66階以降は無傷で残されていたのだ。
「ブモモモモオオォォォォ!」
「さ、さすがだオーク!」
「ブモ!」
俺の護衛役として残ったオーク・グランドチャンピオンが、ゴーレムの攻撃を正面から受け止め、押し返す。
こいつは昨晩の内に召喚していたんだが、ここまではあまり活躍がなかった。まあ、バルツの森の主たちが心強過ぎたからね。
しかし、さらに数が増えたゴーレムを捌くには戦力を分散させざるを得ず、ようやく出番がきたと言うわけだ。
オーク・グランドチャンピオン モンスター:オーク
緑6 3/4 SR
あなたがコントロールするモンスター3体につき、+1/+1強化される。最大で10/10まで。
今は大所帯だ。すでにオーク・グランドチャンピオンの能力は10/10になっている。
ただ、そのサイズはそこまで巨大ではない。身長は3メートル弱ほど。しかも、オークと聞いて想像するような、贅肉ダルダルの体ではない。ムキムキマッチョの、筋肉ブリブリなヘラクレス体型である。猪似の精悍な顔は、ちょっと格好良く見えるから不思議だ。
武器は背中に背負った巨大戦槌であるが、素手でも達人クラスであるらしい。伊達にグランドチャンピオンの名前を冠してはいないのだ。
「ニャ」
「前に出るなよ?」
「ウニャ」
俺の言葉に、これまた昨晩召喚したてのチェシャ猫が「わかってるよ」という感じで返事をする。
「ブモモオオオォォォ!」
「ゴゴゴ!」
重量級の殴り合いは見応えがあるな! しかもオークはゴーレムの攻撃を的確に回避し、一方的に殴っている。
結局、バルツビーストたちが援護に戻ってくる前に、オークが勝負を決めていた。さすがのゴーレムも、10/10には及ばないらしい。
最後は関節技で手足を捥がれて、破壊されたのであった。
「ブモオオオオォォォ!」
「分かったから! なんでいちいちボディビルみたいなポーズつけるんだよ! 戦闘中も妙にアピールしてくるし!」
これがなければ、心の底から褒めてやったのに。
「ブモオオオ!」
「ふおおおぉぉ! カッチョいいですぞ! オーク殿!」
「ブモッ!」
「こうでありますか?」
「ブモー!」
「ぬおー!」
ワフに悪い影響が!
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