210話 侵入者の痕跡
巨大な穴が空いていた場所からさらに上ること5階。45階に到達した時、俺たちは新たな発見をしていた。
「これは、どう見ても焚火の後でありますな」
ワフが言う通り、階段を上ったすぐの床に、焦げた跡があった。炭化した木材も放置されている。
まるで地球のビジネスホテルのような雰囲気の建物の床に、原始的な焚火の痕跡。違和感が凄まじかった。
「この周辺にも人の足跡に、獣の足跡がありますぞ。毛もかなり落ちているであります」
「ということは、侵入者と獣は別口ではなく、行動を共にしているということか?」
「間違いなく。そうでなくては、これほど綺麗に獣の痕跡が並んでいるわけはありませぬから。明らかに、人と一緒に焚火を囲んだのでしょう」
何者かが塔に穴を開け、その穴から人や獣が別々に侵入した可能性も考えていた。しかし、この焚火跡のおかげで、少なくとも人と獣は行動を共にしていると分かったな。
「食べカスなども落ちておりますし、ここで野営をしたのではないでしょうか?」
「ここ、戦闘の形跡はないよな?」
「ありませぬな」
誰かがここで煮炊きをして襲われなかったってことは、安全地帯と考えて良さそうだ。
「もう夜になるし、俺たちもここで野営をするか」
場合によっては、1つの階に1時間近くかけて探索したりもしたし、予想よりも時間が過ぎてしまっていた。
昼は歩きながら干し肉なんかを齧ったが、夜はしっかり休まないと体が保たないだろう。
「賛成であります」
「儂もだ」
「ご飯はどうしますか? お昼みたいに簡単に済ませます?」
「いや、夜くらいはちゃんと食べたいな。前の奴がここで火を熾してるし、俺たちも大丈夫じゃないか? どう思う?」
俺としては、温かい食事が欲しいが、ワフやゼド爺さんに反対されたら諦めるつもりだった。だが、2人とも積極的に賛成してくれる。
「美味しいご飯は正義であります!」
「道中、松明をつけたからといって敵が現れるようなことはなかったしの。大丈夫なのではないか?」
「オフ!」
「ガオ!」
どうやら、モンスターたちも腹が減ったようだ。
周辺に落ちている食べカスの匂いに腹が刺激されたんだろう。今日は朝から大変だったからね。
本来はそこまで大量の食事は必要ないモンスターたちが空腹を訴える程度には疲労が溜まっているらしい。
「じゃあ、エミルとワフは食事の準備を。俺たちはこのフロアの探索だ」
「うむ」
このフロアを調べて行くと、焚火跡とは別に大きな発見があった。
次の階へと向かう階段の前に防火扉が降りていたんだが、これが破壊されていたのだ。
俺たちでも破壊できなかった扉に、大きな穴が空いている。
「どんな馬鹿力で……。いや、これ、溶かしたのか?」
「そうだな。単純に力で壊したわけではなさそうだ」
近づいて確認してみると、防火扉の穴は、酸か何かで溶かされてできたものであるようだった。縁は1度泡立って、再度固まったような形状に変化している。
「40階の穴から侵入したやつがやったんだろうな……」
「うむ。そうだろう」
魔術なのか、能力なのか、薬品なのか。何を使えばこんなことが可能なんだ?
バルツの森の主たちでさえ完全には破壊できなかった防火扉を、ここまで無残な姿に変えるとは……。
侵入者たちへの警戒度をさらに上げないといけないだろう。
「しかし、これは……」
ゼド爺さんと穴の開いた防火扉を調べながら、俺はどこか既視感のようなものを感じていた。何となく、この穴と同じものを見たことがある気がしたのだ。
大きな防火扉に穿たれた、直径1.5メートルほどの穴。縁はドロドロに溶けている。やや赤く変色しているのは、酸と金属が反応したせいか? まるで赤錆みたいだ。
「!」
そうだ、この赤い色。この穴の大きさ。泡立ったような縁。見たことがあるはずだ! なにせ、MMMのカードの1つに、これとよく似たイラストのカードがあったのだ。
青のスペル、金属溶解である。
金属溶解 青3 UC スペル
対象のコスト4以下のオブジェクト1つを破壊する。
コスト4以下という条件はあるものの、オブジェクト1つを破壊することができるスペルカードである。防火扉に空いた穴は、あのカードのイラストによく似ていた。
カードの場合は砦の鉄扉を溶かしていたはずだが、溶けた部分の錆色といい、穴の大きさといい、溶け方といい、そっくりだ。
コスト4以下がこの扉に当てはまるのかどうかというのも分からないが、こんな真似ができる相手だ。カード使いである可能性は高い。
「やっぱりユイが? それとも、もう1人いるのか?」
俺は神様の数から、召喚されたカード使いは最大で5人と思い込んでいた。セルエノンが俺と、追加でもう1人。他の3柱が1人ずつ。
だが、それは俺の推測でしかない。何らかの理由で、もう1人いてもおかしくはないのだ。そして、その人物が最初から混沌の王や、塔の知識を与えられている可能性もある。
青のカード使い。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
「うーん……」
「どうしたのだトール? 思い悩んだ顔をしているが」
「ああ、実は――」
俺は自分の想像を語って聞かせる。すると、ゼド爺さんの表情が引き締まった。
「こう言っては何だが、お主の同郷人とは敵対する可能性が高い。最悪の場合も想定しておかねばならぬな」
白井光樹、呉井衿緒、山吹絵馬。ユイ以外の3人とは殺し合っている。敵対率75%なのだ。今回は仲良くできるなんて考えるほど、頭の中がお花畑ではない。
「できれば、俺の考え過ぎであってほしいんだがな……」




