204話 スフィンクス逃走
肉体強化の呪印で、バルツの森の主に強化を施した後、俺たちはさらにその援護を開始する。
「遠距離攻撃で気を引き付けろ!」
「わかりました!」
「オフ!」
エミルやコボルトの狙撃弓兵が矢を放ち、フォルが魔術を打ち込む。ガルフ=ナザも岩の弾丸を放っていた。
スフィンクスの障壁によって防がれてしまうが、その意識を逸らすことには成功したらしい。水晶玉から放つ魔術でこちらを攻撃してきた。
「クオァァ!」
「させぬ!」
「ガオ!」
だが、それはゼド爺さんと虎人の大剣士の気功剣によって斬り払われていた。
俺には反応すら難しい高速の魔術攻撃をああもあっさり防ぐとは……。もう達人とかそういうレベルを超えているな。
その間に、バルツの森の主がスフィンクスに迫っていた。まさに疾風の速さ。一瞬で15メートルほどの距離が詰まる。
スフィンクスも警戒していたが、想像以上にバルツの森の主が速かったのだろう。驚いたように前足を振るった。
だが、当たらない。バルツの森の主は空中で不自然な動きをして、スフィンクスの前足を搔い潜ったのだ。
見えない手か何かによって、真横にスライドさせられたかのような動きだった。どうやら、尻尾を振った反動を利用したらしい。
「ガアアアア!」
スフィンクスの真横に回り込んだバルツの森の主が、その胴体に鋭い爪を思い切り叩き込んだ。
9/8のモンスターの放った、全力の一撃だ。それこそ、ドラゴンであってもただでは済まないだろう。
しかし必殺であるはずの一撃は、スフィンクスの障壁によって完璧に受け止められていた。
まじでライフバリア並の強度だな!
「クオォアァ!」
「ガッ……!」
そしてスフィンクスの尾が、バルツの森の主を強かに打つ。大きくしなる爬虫類の尾は、まるで鞭のようであった。
かなりの威力があったようで、その巨体が大きく弾き飛ばされる。
「クウウウゥゥゥゥ」
なんだ? スフィンクスの視線が僅かに俺たちから外れた? 何もない虚空を一瞬見つめたかと思うと、今まで以上に憎々し気な顔でこちらを睨んでくる。
「クゥゥ……アアアアアアアアア!」
「うぉっ?」
数瞬の間こちらを睨みつけていたスフィンクスだったが、突如その全身にある目と水晶玉から閃光を放った。フラッシュのように瞬く光が連続して周囲を襲い、俺たちの目を焼く。
モンスターの中には閃光をまともに見てしまい、のたうち回る者たちもいた。
「目が! 目がぁぁ!」
ワフもやられてた!
だが、この光自体に直接的な破壊はなかった。閃光での目つぶしがメインの攻撃であるらしい。それでも、これはまずい。
「みんな身を守れ!」
見えない状況で攻撃されたらひとたまりもないのだ。
叫んだ直後、腹部に衝撃が走り、俺の体が飛んでいた。軽く体が浮き、背中から地面に落ちる。目蓋の裏からでも、強烈な青い光が感じられた。魔術で攻撃されたのだ。
ガサガサという、木々と何かが激しく擦れ合うような音が聞こえる。
みんなは大丈夫なのか?
光が収まり、俺は薄らと目を開く。すると、スフィンクスの姿が消えていた。
「逃げたのか……?」
「そうらしいの」
「ゼド爺さん、無事だったか」
どうやら俺たちの殲滅よりも、逃走を優先したらしい。
「不利だと感じたんだろうか?」
正直、俺たちの方が追い込まれていたと思う。向こうには一発も攻撃を当てられないまま、こっちの戦力はかなり減らされたのだ。
「あれだけの障壁を連続で使用したのだ。魔力が切れたのかもしれん」
「そうか……」
それは有り得た。つまり、無敵に思えたスフィンクスであっても、バルツの森の主は危険に思えたのだろう。
「みんな、無事か?」
「大丈夫です」
「うぐぅ……目がシパシパしますぞ」
最後の攻撃を受けたのは俺と、バルツビーストたちだったらしい。
「メー……」
「強い光のせいで、動けなかったと言っているわ」
フォルがメーの言葉を訳してくれる。闇の精霊であるメーは、あの光の中では動くことができなかったようだ。
「にしても、戦力がかなり減っちまったな……」
スフィンクスとの戦いだけで、森梟、風読みの白鷹、ワイバーン、灰色狼は全滅。
バルツの森の見張役と、その能力で生み出されるバルツビーストは1匹ずつ。蔦鼠は2匹しか残っていない。
さらに頭の痛い事に、最後の閃光に紛れての魔術攻撃により、強化されていないバルツの森の主が1体、バルツの森の号令役も倒されてしまっている。
蔦鼠のように最初の咆哮でやられた者もいれば、その後の攻撃で倒された者もいる。わずか10分ほどの戦闘で、戦力が半減してしまった。
「これからどうしたらいいと思う?」
「進むしかないじゃろう」
「……やっぱ、そうか?」
「うむ。戦力を整え直すのにどれだけの時間がかかる? それに、一度撤退したとて、またこの地にくれば、再びあの怪物と戦わねばならぬ。ならば、奴が退いたこの隙に、塔へと向かうのがよいだろう」
スフィンクスへの完璧な対処法が判らない以上、逃げて戦力を補充したとしても、また同じことにならないという保証はない。
だったら、行ける時に塔へと向かってしまう方がいい。中に入ればスフィンクスの巨体では追ってこれないだろうしな。
「わかった。進もう」
「ワフも賛成でありますぞ!」
俺たちはモンスターたちを集合させると、塔へと向かって再度進み始める。
上空を警戒しながらスフィンクスの再襲来に備えたが、再び襲い掛かってくることはなかった。
俺たちが気付かなかっただけで、ダメージがあったのか?
ともかく、またアレと戦うはめになるかもしれない……。
何か対策を考えておかないとならないだろう。対抗できるようなカードを引ければいいんだがな。




