203話 咆哮
スフィンクスに叩き落とされたワフを救助するため、俺たちは樹海へと降り立った。
ペガサスやワイバーンには少し無理をさせて、木々の合間の狭い場所に降下させている。
「ワイバーンたちはフォルの援護に向かえ! ペガサスは俺たちとこい!」
「クォォ!」
「ヒヒン!」
直後、近寄ってくる気配があった。ガサガサと繁みが揺れる。だが、敵ではないはずだ。
「ガウ!」
「バルツの森の主! こんな早くきてくれて偉いぞ! ワフはどこにいるか分かるか?」
「ガウ!」
10秒もせずに、獣組が集まってくる。彼らに先導され、俺やゼド爺さんたちは樹海を走った。
上空ではときおり青い光が走り、フォルや飛行モンスターたちがスフィンクスと戦い続けているのが分かる。
「いたぞトール! あそこだ!」
「ワフちゃん!」
ゼド爺さんとエミルがワフを発見したらしい。俺にはまだ見えないが――いや、いた! 樹の上に引っかかっている。
「ワフ! 大丈夫か!」
樹の下から声をかけるが、反応はない。やはり意識を失っているのだろう。
「狙撃弓兵! ワフを降ろせるか?」
「オフ!」
コボルトの狙撃弓兵は、綺麗な敬礼を決めると、そのままスルスルと木に登っていった。そして、ワフを抱きかかえると、自分とワフをロープで結び付ける。
後は、ゆっくりと降りてくればそれでよかった。さすがの手際と身のこなしだ。
「ワフちゃん! だめです。意識が……」
「ワフ! これを飲めるか?」
俺は、エミルに膝枕されるワフの口に、高品質のポーションを軽く含ませる。
しかし、中々飲み込まない。もう1本のポーションを体に振りかけてみると、ようやくワフが目を覚ました。
「うーん……。何がどうなっておるのでありますか?」
「ワフちゃん、あの怪物に叩き落とされたのよ? 覚えていない?」
「えーっと……あいたた……。痛いでありますぞ!」
「どこだ?」
「こう、全身が……」
スフィンクスの一撃はかなりの威力があったらしい。結局、もう1本飲ませることで、ようやく痛みが取れたようだった。
単純な点数換算だと、高品質ポーション2本で4点。そこにコボルトポーションで1点と考えると、5点のダメージだ。
やはり、あの巨体は侮れないのだろう。
「どうするんじゃトール?」
「まだ戦いは続いているが……」
スフィンクスを倒せるか? ワフの突撃も防いでみせたということは、かなりの強度の障壁を張れるということだ。
回数制限や、詠唱が必要なのであれば隙を突けるかもしれないが、それが本当にあるのかも分からない。
戦いながら隙を見つけるには、相手が強すぎるだろう。
手札にある肉体強化の呪印を使って、今一度ワフに攻撃を仕掛けさせたとして、それで障壁を貫ける保証もない。
「本来だったら、逃げるのが一番なんだが……」
「奴は塔からきた。ここで退散したとしても、また塔に近づけば襲ってくるだろう」
「そうなんだよな……」
塔から離れれば、見逃してくれるかもしれないが、俺たちは塔の調査を行わなければならないのだ。
今逃げたとしても、意味があるだろうか?
「ゼド爺さんは、あいつを倒す作戦とか、思いつかないか?」
「すまんな。情報が少なすぎる。儂に思いつくのは、お主の強化術で精霊様を支援する程度のことだけじゃよ」
「俺もだ……」
だが、とりあえず威力の強い攻撃を叩き込むというのは、やってみた方がいいだろう。
そんなことを考えていると、突如俺の背嚢から黒い塊が溢れ出した。そして、俺たちを覆うように、ドーム状に形を変える。
「メー!」
直後、その黒い傘の上で、青い光が弾けた。
「スフィンクスの魔法か!」
「クォォアアア!」
樹海の木々を薙ぎ倒しながらスフィンクスが降ってくる。その距離は20メートルもないだろう。
「ごめんなさい! あのケモノは、私よりもあなた達を狙っているみたい!」
フォルが俺の側へと降りてきた。先程から数度にわたってカードが戻って来るのが見えていたが、遂にフォル以外の飛行戦力が全てやられてしまったらしい。
「いや、地上に下りてきてくれたのは好都合だ! みんな! やれ!」
「「「ガアアア!」」」
即座に反応したバルツビーストたちが、スフィンクスに襲い掛かった。バルツの森の主たちはまだ俺たちの横で控えているが、他の獣たちが全方位から一斉に飛び掛かっている。
いくらやつでも、これだけの数に同時に襲い掛かられれば――。
「クオォアアアァァァァァァ!」
スフィンクスは地上でも強敵であった。
全身から青い光が立ち昇らせると、口を大きく開く。顔の下半分を覆うベールのせいで分からなかったが、薄布越しに見えるその口は耳元まで大きく裂けているようだった。美しい女性の顔であんな口だと、余計に不気味さが際立つな。
スフィンクスの胸部が数倍に膨れ上がる。それほどに息を吸い込んでいるのだろう。
「ギョオオオアァァァァァァァァァァ!」
そして、凄まじい咆哮を放った。まるで爆弾でも爆発したかのような轟音が鳴り響き、発生した衝撃波が広範囲に吹き荒れる。
「ぐぬあああ!」
「きゃあぁ!」
「にょわー!」
ライフバリアに守られている俺は尻餅をつく程度で済んだが、仲間たちが数メートルも吹き飛ばされていた。
特にゼド爺さんはエミルを庇ったことで、彼女と木の間に挟まれてかなりのダメージを受けているように見えた。ワフは繁みに突っ込んだようだ。
さらに近くにいたバルツビーストたちの被害は深刻だ。
耳から血を流して、もがき苦しんでいる。衝撃だけではなく、音でもダメージを受けたのだろう。いくら体力が高くとも、三半規管を魔術で攻撃されては抗いようがなかった。
この程度の距離の差で俺たちの耳には大した影響がないということは、範囲魔術の類なのだろう。
そして、動きが鈍った獣たちは、スフィンクスの前足の一振りにより倒されていった。このままでは、折角揃えたバルツビーストたちが全滅してしまう。
「肉体強化の呪印!」
俺は、最強戦力であるバルツの森の主に肉体強化の呪印を使用した。
元々4/4だったが、現在は他のバルツの森の主の効果に、肉体強化の呪印の強化が加わり、9/8である。文句なく、ドラゴン以上の戦力だった。
「やれ!」
「ガアアアア!」




