202話 塔の守護者?
樹海を進む俺たちは、塔まで残り200メートル程度の距離まで近づいていた。
もう直ぐ到着だ。そう思って、僅かに気を抜いた、その時であった。
「塔の上! 何かくるぞ!」
ゼド爺さんの警告が耳に入る。かなり切羽詰まった声に聞こえた。
「え?」
慌てて視線を塔に向ける。すると、巨大な翼を持った何かが塔の頂上から飛びたち、こちらに向かってくるのが見えた。
「クオォアアアァァァァァァ!」
猛禽類のような甲高い咆哮。だが、相手は鳥ではなかった。
「スフィンクスって奴か……?」
それは人と獣の姿が入り混じった、異形の獣だったのだ。エジプトのスフィンクスなどに近い姿である。まあ、厳密には違うが、他にいい呼び名も浮かばない。
まず足。いや、下半身と言った方がいいかもしれない。その下半身は、四足歩行の獣の形状をしていた。たぶん、獅子に近いだろう。赤茶けた毛皮に、不思議な文様が彫り込まれている。
カードのモンスターである霧豹などとは違い、その足が空を蹴っている様子はない。飛ぶのは翼で行っているのだろう。
ただ、下半身の中で尾だけは獅子とも違っている。鱗に覆われた、太く長い尾が生えていたのだ。蜥蜴――いや、サイズからいうとドラゴンの尾だろうか?
そして上半身となるわけだが、これが最も驚かされる。何せ、美しい女性の形を模していたのだ。
短髪のオレンジ髪に、こちらを睨みつける金色の瞳。頭部からは猫科の動物の物と思われる耳が生えている。
それだけなら獣人かとも思えるが、それ以外にも特徴があった。それが、全身にある瞳だ。
最も目立つのは、額にある目だろう。青いチークのような物で縁取られた真っ赤な眼球が、他の2つの目と同じようにこちらを見つめている。
他にも、各足の太腿や、獅子の体の両脇。翼の付け根など、至る所に目が存在している。あれなら全方位が見えているだろう。死角は存在しないと考えていいかもしれない。
最後に翼だが、腕の代わりに生えていた。これはハーピーに近い特徴だろう。奴らに比べて圧倒的に美しいが。へそから顔まで、その造形は完璧と言えた。
まあ、サイズを考えなければ、だけどね。
このスフィンクスは、全長で5メートル以上あった。翼を広げれば10メートルを超えるだろう。
それでいて、水着のような胸当てや、腰布。さらに口元を覆うヴェールに、全身を飾る宝飾品など、文化的な要素も見受けられる。
以前戦ったコボルトのような、冒険者の装備品を奪ったわけではない。明かにこのスフィンクスのために用意された専用の衣服である。
つまり、それを行なえるだけの伝手や知性があるということであった。
「クオォァアアァァ!」
「言葉が喋れないのか? でも、明らかにこっちを敵視してるよな!」
「怒りの感情を感じます!」
「メー!」
精霊達が身構える。やはり、敵か。
「ゼド爺さん! 気を付けろ!」
「うむ!」
ワイバーンたちに、回避優先の指示を出す。あの巨体相手では、空中戦は無謀だろう。
飛行速度はそれ程でもないし、逃げに徹すればどうとでもなる。
「フォル! 攻撃できるか?」
「任せておきなさい!」
だが、俺の作戦はすぐに破綻する。
「クアォォ!」
「な! 遠距離攻撃もあるのか!」
スフィンクスから青い光が放たれ、風読みの白鷹が撃ち落とされていた。よく見ると、スフィンクスの周囲に、水晶玉のようなものがいくつか浮遊している。人の頭部ほどのサイズだ。それが光線を放ったらしい。
「魔術か?」
これは非常にマズいかもしれない。射線を遮るものがない空中で、超高速の魔術攻撃。はっきり言って、逃げ切ることは難しいだろう。
しかも、厄介なものはそれだけではなかった。
「はぁぁ! 退きなさい! 歪なるケモノよ!」
「クアアア!」
「くっ。私の力を防ぐなんて……」
フォルが放った魔力の弾丸が、スフィンクスに直撃した。だが、一切のダメージがない。一瞬出現した障壁のような物で防がれたようだ。
俺のライフバリアにそっくりだったが、この世界の魔獣がその力を持つわけがないし、よく似た違う能力なのだろう。
「森へ逃げ込め! 鳥たちは奴を牽制しろ!」
飛行モンスターたちを嗾けつつ、俺たちはワイバーンを樹海へと下降させる。遮蔽物の多い森の中の方が、安全だと考えたのだ。
「クオアァァ!」
スフィンクスの魔術によって、鳥たちが撃ち落とされていくのが見える。
「主! ここはワフが!」
「分かった! だが、無茶はするなよ!」
「了解でありますぞ!」
俺はワフの援護をするため、配下に命令を下す。
「テンペストバード! お前の力を見せてくれ!」
生贄に捧げることで、敵の飛行モンスターに2点ダメージを与えることが可能なモンスターだ。
「キュイイィィ!」
黄色の羽根を持った猛禽類が、その身を一瞬で竜巻へと変化させる。そして、その竜巻がスフィンクスへと襲い掛かった。
「クァオ!」
「あれも防ぎやがった!」
やはり、ダメージが全く見られない。連続で障壁を張ることが可能なのだろう。だが、足止めには成功したぞ!
「ちょりゃあああ! 食らうであります!」
スフィンクスの隙を突き、ワフがその頭部目がけて吶喊した。凄まじい速度のワフが、弾丸のような速度でスフィンクスに激突する。
防御なんか考えていない、全力攻撃だ。無茶するなって言ったのに!
「なあぁぁ! これも効かないとはぁ!」
「クアォォォォォォ!」
「ぎゃん!」
なんと、ワフの攻撃ですら、スフィンクスの障壁を破ることはできなかった。そして、振り上げたスフィンクスの前足が、ワフを樹海に向かって叩き落とす。
飛行能力のおかげか、落下速度は緩やかであるが、どうやら意識を失っているようだ。手足がダラリと垂れて動かない。
「フォル! スフィンクスを牽制してくれ! 俺はワフを助けに向かう!」
「わかったわ!」
もう少しで塔だっていうのに!
次回は5月1日更新です。その後は通常通りに戻す予定です。




