198話 再びのトロール
「何度見ても、あの子たちが並ぶと壮観ですねぇ」
「だなぁ」
樹海の上空を、俺とエミルを乗せたワイバーンが滑るように飛んで行く。横には、ゼド爺さんとワフを乗せたもう1匹のワイバーンだ。
その前方には、風読みの白鷹や森梟が先導するように飛び、後方には虎人の大剣士とコボルトの薬師を乗せたペガサスが追ってきている。
だが、エミルが壮観と言っているのは、この飛行編隊の事ではなかった。彼女が感嘆しているのは、樹海を群れで進んでいく、獣型のモンスターたちの事だ。
今朝呼び出したばかりのバルツの森の主や灰色狼を加えると、バルツ系だけでも11匹。灰色狼が3匹に、フォレストラプターに跨ったコボルトの薬師が群れの中央にいる。殿を走るのは巨体のガルフ=ナザ。盤石の布陣である。
あと、バルツビースト3体の上には、木偶の成る樹から生まれた木偶兵士を3体ずつ、合計9体乗せている。
木偶兵士は自分の体を蔦に変えて、敵を拘束する能力がある。奥の手として、連れてきていた。
この群れの凄いところは、凄まじい速度で駆けているにも拘らず、道中の魔獣を的確に避け、時には葬っていく連携の良さだろう。
レッサージャイアントのような巨獣さえ、四方八方から襲い掛かり瞬殺してしまうのだ。
「あれなら、少し離れても問題ないだろう!」
「わかった! 少し高度を取ろう!」
ゼド爺さんがこちらに聞こえるように、大声で提案してくる。樹海スレスレの高度は、実は危険が大きい。
空を飛ぶ鳥などを狙う魔獣から、狙われる恐れがあるのだ。鳥たちを先行させているのは、そういった魔獣に対する囮の意味もある。
だが、バルツビーストを主体とした獣軍団なら、特に指示を出さなくても進路を間違えることはなさそうだった。バルツの森の主が賢いことと、コボルトの薬師に持たせた地図のおかげだろう。
そうして先を進むこと1時間。
かなり樹海の奥地まで進んできた。話に聞いていた通り木々が高く太くなり、植生も変わってきている。
が、ここでようやく問題が発生した。いや、問題が起こるのを待っていた訳じゃないんだが、順調すぎても不安だったのだ。
「前方、何かいますよ!」
「え? あ! あの木の陰か!」
「はい!」
エミルが指差す方を見る。確かに、木々の合間に何かが見えた。エミルはカードの力で強化されたことで、感覚もかなり人間離れしてきているようだ。
数百メートルは先の木陰に混じった異物を、一瞬で見つけてしまった。
茶色い毛を全身に生やした、人型の生物。
「トロールだ! もう、生息域なのか?」
「いえ、もっと北のはずです。多分、群れからはぐれた個体かと……」
「そうか。だが、あれと正面から戦うのは厳し過ぎる。バルツビーストたちに迂回させよう」
「そうですね」
エミルとの相談でそう決めたんだが、事態が動くのはもっと早かった。なんと、トロールがバルツビーストたちを発見したらしく、その進路を明らかに変えたのだ。
それだけならともかく、バルツビーストたちもまた、微妙にその進路を修正していた。なんと、トロールに向かって。
「な! まじか! 倒せるって判断したのか?」
だが、あのトロールだぞ。以前戦った時はトラバサミで動きを封じたうえで、生物即死を使うことでなんとかなった相手だ。
ただ、今から進路を変えさせたところで、トロールとの接敵は避けられないかもしれなかった。
「ゼド爺さん! どうする!」
「我らも援護に向かうしかなかろう! 空からトロールに牽制をしかけ、その注意を引きつけるのだ!」
「わ、わかった!」
ワイバーンが頭上に居れば、さすがに無視はできないだろう。人間ならば、大きいカラスが自分に向かって威嚇しているようなものなのだ。
「ワフも行きますぞ!」
「あ! まて! 無茶するな!」
「大丈夫であります!」
「気分よく敬礼キメてんなって!」
あー、もう! ワフがひとりで突っ込んで行っちまった! 今のワフは、装備品である不死鳥の槍を装備している。そのせいで、一人でも空を飛ぶことができるのだ。
背中に生やした炎の翼から無数の火の粉を散らしながら、ワフが高速で飛ぶ。ああ、あの火の粉は幻影のような物らしく、熱は持たないので火種になることはない。
その速度はワイバーンよりも速かった。重さの関係だろう。
確かに、今のワフは強い。ツリーアーマーと森の精霊の加護の強化も併せたら、最低でも5/5、飛行、再生1、擬態という性能だ。
だが、自信満々のドヤ顔で飛び出していったワフを見ていたら、何かやらかすんじゃないかと心配になる。
「お、俺たちもいくぞ!」
「はいっ!」
ただ、戦闘は俺が心配するような死闘にはならなかった。
バルツビーストたちが、強すぎたのだ。ワフに気を取られるトロールの足に数頭で噛みつくと、その巨体をあっさり引きずり倒し、そのまま喉を噛み千切って止めを刺していた。
戦闘開始、1分もかからなかったのではなかろうか? なんともあっけなかった。
「そ、想像以上だったな」
「はい」
「うーん。ワフは物足りないですぞ!」
何を言ってるんだ! トロールに近づきすぎて、掴まれそうになったのに!
「ワフ、元の大剣に戻した方がいいか?」
「何故に!」
毎回、あんな鉄砲玉みたいに飛び出していかれたら、こっちの胃が持たないからだよ!
「とりあえず、次はステイだからな」
「わかりましたぞ!」
キリッとした顔しちゃって。表情と返事だけはいいんだよな。
「はぁ……」
セルエノンよ。ワフの能力をアップさせる前に、この無鉄砲さをどうにかしてくれないか?
風邪気味です。この時期ですので、休養を取ろうと思います。
次回の更新は8日後とさせてください。




