192話 ハーピー襲来
ストーンフォートレスの内部を皆で見回り、最後は屋上に出てみる。谷の入り口に橋をかけたような形になっているので、崖の上に作った畑に行き来しやすくなるだろう。
「主、あれを!」
「どうした?」
「敵ですぞ!」
村長と砦の活用方法を話し合っていると、ワフが緊迫した声を上げた。さらに、上空の方角を指差している。
そうして顔を上げると、空を舞う無数の巨大な影が目に入ってきた。
確かに敵だが、人ではなく魔獣だ。なんと、無数のハーピーであった。
「ええ? なんでハーピーが……」
「ち、血の匂いに引かれたに違いありません!」
「な、なるほど。ていうか、いつもは何で村にこないんだ?」
「塩のおかげです。奴らは塩の匂いを嫌うので、岩塩の埋まっているこの辺りには近づかんのです。ですが、血の匂いで他の匂いが消えてしまったのでしょう」
「そんなことが……」
だから、この村では岩塩の採掘に積極的ではないのだろう。むしろ、普段は外から塩を買っているほどだ。
不作などでどうしてもお金が必要になった際にのみ、岩塩を採掘して高級品として売り払っているらしい。この村の生命線なのだから、当然だろう。
つまり、岩塩をよこせという各国の要求は、実はこの村にとっては死活問題だったのだ。岩塩が掘り尽くされれば、ハーピーにあっという間に滅ぼされてしまうのは間違いないからな。
ともかく、このままではマズい。あっと言う間に村の上空にハーピーたちが集まってきてしまったのだ。
だが、今の俺たちには飛行戦力が欠如していた。霧豹くらいだろう。
幸い、まだ警戒をしていたので弓を手にしている男が多い。その牽制により、村への被害は出ていないようだ。
「カグート、どうすればいい!」
「トールさん! 奴らを統率してる個体がいるはずだ! そいつを落とせば、逃げていく!」
「ハーピーの親玉か!」
俺は唯一の飛行戦力である霧豹に、ドローしたばかりの森の精霊の加護を使う。これで、4/3だ。
「ハーピーたちの親玉を探してくれ!」
「ガオ!」
あとは、村人たちを避難させ、俺達は一塊になってハーピーを迎え撃つ。屋上に設置してある背の高い柵が、ハーピーの動きを阻害してくれていた。砦が早速役に立ったな。
「岩塩をばら撒いたら、逃げて行かないか?」
「無理でしょう。それで血の匂いが消えるとは思えません」
家の中に逃げ込むだけではダメなのかと思ったが、ハーピーは簡単な風魔術を使うらしく、家の入り口などを攻撃して破壊できるらしい。
戦士なら狭いところに入り込んだハーピーを倒せるが、普通の村人たちは無理だ。
今はこっちに集中しているが、俺たちが目立つ屋上で奴らを引き付けていなければ、他の村人たちにその矛先が向くだろう。
となると、ここで耐えながら戦うしかないか?
手札を確認するが、ハーピー全体を追い払うようなカードはない。ツリーバインド、魔導時限爆弾、盗み見る影、精神完全支配、群狼、黒き力の源泉。
群狼は飛べんからな。ハーピーには分が悪いだろう。ツリーバインド、精神完全支配は、個体にしか作用しない。
いや、待てよ。精神完全支配をハーピーのリーダーに使ったらどうだ? もしかして、他のハーピーにも言うこと聞かせられるんじゃ?
俺はハーピーたちの群れを見上げた。そして、霧豹がある一ヶ所でハーピーたちに群がられている姿が目に入る。
間違いない。そのあたりにハーピーのリーダーがいる。だが、精神完全支配を使うには、相手の姿が見えていなくてはならないらしい。ここで使おうとしても、魔力を込めることさえできないのだ。
「ちょっと畑の方に行く! 離れていいか?」
「何か思いついたんで? 護衛いりますか?」
「いや、うちの奴らだけで平気だ! ワフ、エミル、ゼド爺さん、大剣士! 一緒にきてくれ」
「わかりました!」
「は、はい! がんばります!」
「うむ! では儂が先頭をいこう!」
俺たちはハーピーのリーダーに少しでも近づくため、崖の上の畑目指して駆け出す。
「霧豹、もう少しそこでハーピーたちの目を引き付けててくれよ!」
エミルやゼド爺さんに守られながら、俺は走っていた。
「やあああ!」
「クケェェェ!」
「ぜやぁ!」
「ギャァァ!」
目指すは畑の端である。できるだけハーピーリーダーに近づき、狙う。
「ちょりゃぁ!」
ワフの電撃の大剣も、大活躍だ。エミルやゼド爺さんの死角から飛び掛かってきたハーピーが、電撃に打たれて落ちていく。
まだ寄ってくるハーピーの数が少ないおかげで助かっていた。大多数のハーピーは、陽動役の霧豹に釘付けなのだろう。
俺達に襲いかかってくるのは、この近辺にいた個体だけなのだ。
「あっち行って!」
「ギャアァ!」
ワフも大活躍だが、俺が驚いたのはエミルの強さだ。鍛錬を続けたうえに、天兵の守護槍などで強化されたエミルは、想像以上の成長を遂げていた。
硬いハーピーの首の骨を一撃で切断する姿は、歴戦の女戦士かと思う迫力だ。
目にも留まらぬ速さで繰り出される槍からは、風切り音さえしない。空中に残る気功のオーラの残滓。それを見て、ようやく攻撃が繰り出されたのだと気付けるほどだった。
「凄いなエミル!」
「いえ、トールさんのカードのおかげです! この力で、絶対にトールさんは守って見せますから!」
た、頼もしい! 真っ白な天兵の守護槍を構えて微笑むエミルは、メチャクチャ頼もしかった。
女の子に守られる自分に思うことないでもないが、俺よりも強いんだから仕方がない。仲間なんだし、できることで助け合えばいいのだ。
崖の上の畑に到着した俺は、ハーピーたちを観察する。
「……あれか!」
ハーピーの群れの中に一際巨大な個体がいた。
黒い体毛の目立つ、大型の女性体だ。その個体を守護するように、他のハーピーが周囲をホバリングしている。
あれがリーダーに間違いないだろう。
未だにハーピーたちの視線は、暴れる霧豹と、地上で弓を放つ自警団に向いている。今がカードを使う絶好のチャンスだ。
俺は精神完全支配を取り出すと、ハーピーリーダーを睨みつける。カードに魔力を込めることが可能だ。ここであれば届くらしい。
精神完全支配 黒6 R スペル
詠唱
対象のモンスターの支配を永続的に得る。
「どうでありますか!」
「ここからならいける!」
俺は精神完全支配を掲げ、詠唱を口にする。そして、青のカードから溢れ出した黒い光がハーピーリーダーを包み込んだ。




