189話 ユイの素
「情報ありがとうございました。ポイント、頑張って溜めます」
「ああ、こっちこそ、カードは助かった」
今後の流れとしては、ユイが主の下に戻って報告した後、塩の採掘隊が派遣される。
俺はそれまでに樹海のモンスターたちに、塩の採掘場が他人の管理下に入ることを通達。ミノタウロス・ワーカー数体が、ユイたちの案内としてしばらく岩塩洞窟付近に残る。
ユイたちは樹海の北部は俺の縄張りと黙認し、岩塩洞窟より北には踏み込まない。
金銭や食料は、岩塩洞窟が確認された後に村へと運ばれてくる。
基本はそんな形になるようだ。俺たちは村を再建しつつ、様子見となるだろう。あとは、傭兵を派遣してきたフィーナン伯爵を監視する必要もある。
「トールさん、1つお願いがあるんですけど、いいでしょうか……」
「お願い?」
「はい。私と友達になって下さい」
「はぁ?」
友達って……。あの友達か?
「……ダメですか?」
「あ、いや、ダメって訳じゃ……」
ダメというか、友達などという存在、もう何年もまともにいない。むしろ、友達ってなんだったっけって、一瞬考えてしまった。
友達になる? いやいや、急にどうした? だいたい、友達なんて――。
色々と否定的な思考が頭の中を占める。そうしてフリーズしていると、俺の手を取って、ユイがニッコリと笑った。
「ありがとうございます!」
了承した訳じゃなかったんだが、否定しなかったことを、肯定したという意味に取ったらしい。
お人好しで、人との距離近め。俺とは違い過ぎて、どう対応していいか分からん。
「よろしくね! トールさん。もう友達だし、普通に喋っていいわよね?」
「あ……え?」
どうやら、今までの丁寧な口調は外向けの、いわゆる外面をよくしていた状態であるらしい。急に砕けた口調になったが、こっちが素の喋り方なのだろう。
「どうしたの?」
「いや、その……」
ヤバい。俺の許容量を超えそうだ。ともかく、友達になったのは悪い事じゃないんだ。とりあえず笑っておけ、俺。
「は、はは……」
その後、ユイと軽く話をする。まあ、向こうに王国の情勢を軽く教えてもらった程度だが。
そして、交渉終わりの別れ際。
「ねえ、トールさん。私の主に仕えない? 素晴らしい方よ?」
ユイがそんなことを言ってきた。まあ、カード使いは凄まじい戦力だし、予想してなかったわけじゃない。
「あー、済まないが、俺は貴族とかに仕えるのはちょっと……」
「そう……。残念。でも、同じ日本人だから、気持ちは分かるわ。私もあの方に出会うまでそう思ってたから。作法とか分からないし、それで怒られたらどうしようって思ってたもの。お仕事だって上手くできるか分からないし、私のせいで迷惑かけちゃうかもしれないしね」
いや、俺が貴族に仕えるのが嫌なのは、相手に迷惑がかかるとか、そんな殊勝な理由からではない。単純に誰かに仕えたりするのが性に合わないからだ。
特に封建社会の貴族なんて、どんな目にあわされるかわからんし。日本の会社員でさえまともにこなすことができなかった俺には、貴族の部下なんて荷が重すぎる。
それに、貴族にいいイメージも持っていない。
中には善い貴族もいるのだろうが、ゼニドー男爵にフィーナン伯爵と、こっちにきて関わり合う貴族が最低なのばかりだった。そのせいで、どうしても貴族にいい印象を抱けないのだ。
「残念。気が変わったら、ぜひ来てね」
「あ、ああ」
急に馴れ馴れしくなりすぎて、全然上手く喋れん。丁寧口調の時は仕事モードだったから、俺も仕事スイッチが入って何とか喋れたんだろう。
だが、普通の女子と化したユイには、どうしても苦手意識が先行してしまうのだ。
「それと、1つ忠告。ナール国はこれから荒れると思う。あまり関わらない方がいいわよ」
「……荒れる? せ、戦争でも……?」
「どうなるかは分からないけど……。何の後ろ盾もなく、深入りしないほうがいい」
貴族に仕えているんだ。俺達なんかじゃ知ることができないような裏の情報も持っているんだろう。その忠告は、無視できない重みがある。
「分かった。心に留めておく」
「うん。それじゃ、またね」
去っていくユイを見送ったあと、俺はディシャル様と話し合う。
「鳩村由依、どうでした?」
「やはり、悪意や邪心は感じなかったね。口調が変わっても、変わらない。勧誘を断られた時に、哀しみを帯びたくらいだ。まあ、悪意がないからと言って、危険がないわけではないが」
世の中、正義の心で虐殺を行う人間も存在する。それは俺にも分かった。
「とは言え、彼女はそこまで狂っているようにも見えないし、問題あるまい」
「ですか。護衛は?」
「そちらは……。まあ、普通だな。疑心と見下し。だが、明確な悪意はない」
とりあえず、こっちを陥れようとしている様子はないってことだろう。ならば、このまま交渉を進めてよさそうだ。
「樹海での案内などは、任せていいんだね?」
「はい。ミノタウロスたちもいますし、俺の砦の周辺は、俺の縄張り扱いってことにしてもらえるようですから」
最初は俺のことを黙っていてもらおうかとも思ったが、ここまできて俺の存在を完全に隠すのは不可能だろう。ユイ以外の人間にもみられている。だったら、逆に認めさせてしまえと思ったのだ。
ただ、縄張りというのは微妙な扱いだ。国に正式に領有を認められたわけではない。樹海はそもそも、どこの国のものでもないのだ。
ただ、ユイの主とその派閥の貴族は、俺の砦周辺には踏み込まず、俺の占有を黙認する。また、他の貴族と諍いがあった場合、俺に便宜を図る。まあ、そんな感じだ。
それでも、俺にとったら大分嬉しい。今までは完全に不法占拠だったのが、一応貴族に話が通るわけだからな。非公式だけど。
「あと、フィーナン伯爵領に偵察の人員を送りたい。何か、役に立ちそうなモンスターはいないものかね?」
「そうですね……。蔦鼠なんかは、隠して持ち込めるから便利だと思いますよ。頭もいいですし。他は……少し考えてみます」
「君にばかり負担をかけてすまない。ただ、現状では頼らざるを得ない」
「いえ、この村の人たちになら、頼まれて悪い気はしませんから。というか、嬉しいです」
「ありがとう」
樹海のミノタウロスへの連絡。フィーナン伯爵領への偵察。それと村の立て直し。まだまだやることが山積みだな。
「頑張るしかないな」
「そうですぞ! 主! ワフもお手伝いいたします!」
「おう」
前話、カラフルツリーの能力を修正しました。強化に1日という期限を追加
カラフルフルーツツリー
緑3 0/3 C
不動、赤のスペルの対象になった場合、このモンスターを破壊する。
毎日、七色の果実を1つ生み出す。
※七色の果実 オブジェクト 使用すると対象のモンスターを1日の間+0/+1強化




