187話 トレード
ユイが、俺の前で深々と頭を下げている。聖霊を復活させる方法を教えてほしいと。
「俺が、聖霊を復活させることができるって、どうして思った?」
「……クラウドローズは、空の上からでも地上を監視できるカメラがあるんです」
「そうなのですか! すごいですな!」
「ええ。それで、村の様子を見ていました。そして、あなたを見付けた。正確には、あなたたちを」
どうやら、俺とエマの死闘をデバガメしていたらしい。ディシャル様が、こちらへの敵意はないと保証してくれているので、悪意を持って監視していたわけではないだろうが。
まあ、自分と同じカード使い同士が戦っていれば、当然偵察はするだろう。
「ワフちゃんは……堕天使と相打ちになって、一度、死にましたよね?」
「……それは」
「確かに、ワフちゃんが消えるのを見ました。でも、今ここにいる」
「わ、わう?」
ユイが潤んだ瞳で、ワフを見つめた。そこには、ワフが思わずたじろいでしまうほどの強さが込められていた。
「カードケースの聖霊を蘇らせる方法があるのなら、どうしても知りたいんです! あの子のために!」
「ユイ殿の聖霊は……」
「はい。私を守って……。もう1度会えるなら、どんな対価を払っても構いません。お願いします! 教えてください! できることなら何でもしますから!」
それまでは、良くも悪くも真面目で物静かな印象だったユイが、思わず俺がたじろいでしまう程の悲痛な表情で再び頭を下げた。目には薄らと涙が浮かんでいる。
その迫力を前にしては、「何でもって言ったな?」なんて茶化すことができない。
それに、彼女の気持ちは痛いほどに理解できた。ワフを失った時の喪失感は、今思い出すだけでも胸がギュッとなるからな。
「教えてくれるなら、それに対する対価を絶対にお支払いします! だから!」
「……分かった」
「いいんですか?」
「……ああ。気持ちは分かるからな。ただ、さっきの岩塩の対価の件、しっかりと頼む」
「勿論です!」
聖霊復活の方法自体は、別に教えてもいいだろう。即座に実行できないだろうし、ユイの信用を得られるなら安い対価だ。
「聖霊を復活させるには、魔力じゃなくて、ポイントが必要だ」
「もしかして、カードパックを買うためのポイントですか?」
「ああ、俺もついさっきその機能が解放されたんだが――」
100ポイント溜まった時点で、聖霊を復活させる方法がアナウンスされたこと。使用すれば、記憶を保持した状態で即座に蘇ること。
それらをユイに教えていった。さらに、ワフも自分の認識を語る。
「や、やられたー! と思った数秒後には、泣きじゃくる主の姿がありましたなぁ」
「な、泣いてねーし!」
どうやら、死に際に感じた痛みや恐怖は、都合よく忘れることができているらしい。神様の気遣いかね?
俺たちのやり取りの横で、ユイが呆然としていた。
「ひ、ひゃく……? そうですか」
どうやら、ユイはポイントを溜めこまず、ガンガン使っていくタイプだったらしい。うなだれる姿から見るに、先は長いのだろう。
しかし、すぐに顔を上げる。そこには決意の表情があった。
「教えて下さって、ありがとうございます。私、頑張りますね」
「……信じるのか?」
「え? 嘘なんですか?」
「いや、嘘じゃないが、随分とあっさり俺の言葉を信用すると思ってな。見てたなら分かると思うが、俺はすでに転生者を殺しているんだぞ? お前に襲いかかるとは思わないのか?」
ずっと疑われ続けても疲れると思うが、これだけ無防備でもやはり不気味に感じてしまうのだ。
「トールさんは、村の人のために戦ってましたから。体を張って、命かけて、戦ってました。そんな人が、悪い人なわけないです。善い人です」
「そ、そうか」
褒められているんだが、なんか据わりが悪いな。村のために戦ったことは確かだし、体も張った。でもそれは、自分の居場所を守るためだったのだ。全てが他人のためではない。
俺は、軽くディシャル様を見てみた。期待していた通り、こっちの様子もしっかりと魔眼で監視してくれていたようだ。ほんの微かに頷くのが分かった。
つまり、ユイの発言には嘘がないと言うことである。よくこっちの世界で生き延びてこれたな。本人が言う通り、良い出会いばかりだったのかもしれない。
まあ、こっちを信用しているというのであれば、それで構わないか。
「がんばれよ」
「はい! それで、この情報に対する対価ですが……」
「あー、それなぁ。どうすっかね」
仲間になってもらう? いや、ユイはともかく、他の人間はまだ信用できない。無難なところでは、この村の復興をカードの力で手伝ってもらうとかだろうか?
俺が軽く考え込んでいると、ユイから提案があった。
「じゃあ、トレードを行なってみませんか?」
「カードのトレードのことか?」
正直、俺は人見知りだから、地球でもトレードをしたことはほとんどなかった。それに、自分以外のカード使いは敵という印象が強すぎたのだ。そのせいで、トレードの存在を完全に忘れていた。
だが、カードのトレードは、カードゲームに置いてかなり重要なファクターだろう。アンティなんていうルールがあるんだから、トレードが可能であってもおかしくはなかった。
「その、私はパックを引くのが楽しくて、使用できないカードもたくさん持ってるんです。その中には、強い緑のカードもあります。それに、デッキに入ってるカードとかでも、欲しいカードがあればお譲りします。さすがにクラウドローズは無理ですけど……」
俺だって、クラウドローズを寄越せとは言わん。確実に悪い印象を持たれるし、最悪は敵対してしまうだろう。
「対価として、カードをいくつか差し上げるということでは、いかがでしょうか?」
「そりゃあ、こっちにとっては有り難いけど、いいのか?」
「勿論です!」
とは言え、トレードなんてどうすればいいのか……。とりあえず、互いにバインダーを出現させてみた。だが、特に変化はない。
「うーん、トレード」
「わ!」
俺がとりあえずトレードと呟いてみると、ユイが驚いたような悲鳴を上げた。
「ど、どうした?」
「私のバインダーに、トレードを開始しますかって、表示されました!」
やはりトレードシステムが存在していたようだ。さて、ユイはどんなカードを持っているのだろうか? 何か有用なカードを所持していればいいんだが。
風邪が悪化中……。次回、更新できそうになかったら活動報告でお伝えします。




