184話 まだ終わりではなかった
簡易的なバリケードを何とか完成させた俺たちだったが、それを喜んでいる暇はなかった。
傭兵団が戻ってきたわけではない。
いや、それ以上に厄介な相手が、姿を見せていた。
「ト、トールさん! ありゃあ、なんですかい?」
カグートが口をあんぐりと開けて指差すのは、空に浮かぶ白い船だ。まあ、あれが船だと分かっているのは俺だけで、カグートたちには流線型の金属物体にしか見えていないだろう。
それはゼニディアの町でも遭遇した、謎のカード使いの操るカードの産物。古代戦艦壱番艦・クラウドローズであった。
相変わらず静かに宙に佇んでいる。
「みんな! 散れ! あれは、あそこからでも爆撃ができる!」
「なっ! みな、トールさんの言う通りにしろ!」
俺とカグートの言葉を聞いた村人たちが、一斉に距離を取り始める。ゼニディアの領主館で見た砲撃能力があれば、密集した人間なんか良い的だろう。
俺は手札に視線を落とす。そこに、あの巨大な空中戦艦に対抗できる手段はない。
だが、まだ運は尽きていない。すでに召喚しているモンスターの中に、俺のデッキでも数少ないクラウドローズに対抗できるカードがあったのだ。
「幻影の竜!」
「ガアアア!」
こいつはどれだけダメージを食らっても、それでは破壊されない能力を持つ。クラウドローズのような高い攻撃力を持つ相手でも、問題はなかった。
あと10分ほどは活動していられるだろう。
せっかく敵を退けたのに、ここでやられてたまるかよ!
絶対に村を守る!
「あの艦を――」
「お待ちください!」
俺が幻影の竜に攻撃命令を下そうとした、その時であった。甲高い女性の声が、俺の言葉を遮った。
「……こいつは!」
「我々に敵対の意思はありません」
現れたのは、白鳥のような羽の生えた幼児だ。頭の上には光る輪っかが浮いている。どこからどうみても天使だった。武器は持っておらず、その手にはラッパのような形の金属の道具を握っている。
よく見れば、船などにある伝声管の通話口だと分かった。
見覚えがある。伝声の天使という、白のモンスターだろう。
伝声の天使 モンスター:天使
白1 0/1 C
飛行、このモンスターが場に出た時、あなたはデッキの上から2枚を見て、好きな順番で入れ替えてもよい。
そして、この小さな天使が持っている、どこにも繋がってないはずの伝声管の口から、女性の声が聞こえていた。
「この子を通じて、失礼いたします。私は、鳩村由依。あなたと同じ立場の者です」
どうやら、伝声の天使はその名前の通り、声を伝える能力があるようだ。
「……敵対の意思はないと?」
「はい。信じてはもらえませんか?」
当たり前だ。これまで出会ったカード使いたちは、まともな相手がいなかった。いや、俺だって自分だけはまともだなんて言わないぞ?
でも、俺から見ても黒のカード使い白井はクズだったし、赤のカード使いエリオも村人を殺して奴隷にするなどと言い放つ相手だった。エマもその仲間だったのだから、エリオの性格は分かっていたはずだ。
こう考えると、神様の選出基準が全然分からんな。少なくとも人間性ではなさそうだ。能力優先? いや、それだと俺が入っている意味が……。ああ、俺の場合はセルエノンを楽しませたからだったな。
ともかく、転生者を言葉だけで信じることなどできなかった。
そもそも、向こうはこっちを即座に攻撃できる。こっちにも幻影の竜がいるが、クラウドローズを破壊する前にその砲撃がこっちを飲み込むはずだ。
いわば、銃口をこっちにつきつけている状態だった。それで、信用できるはずもない。
だが、あまり刺激することも不安だった。逆上させれば、それこそ攻撃してくるかもしれない。
「……初めて会った同士なんだ……。すぐには信用できないのは、当然だろう?」
「それも、そうですね」
「敵対するつもりはないと言ったが、だったらなぜ接触してきた?」
「交渉をするためです。勿論、武力を持って脅すつもりはありません」
「……戦艦の主砲で狙っておいて?」
「ち、違います! そんなつもりは……!」
焦った声に、嘘をついている様子はない。演技ではなく、本当にこっちを脅しているつもりはなかったようだ。
その言葉を裏付けるように、次に驚きの言葉が聞こえた。
「い、今すぐそちらに伺います。それでも信用できないというのであれば、幻影の竜をクラウドローズの上に待機させていただいて構いません」
まじか? どう反応すればいいか迷っていると、クラウドローズが少しずつ動き始めた。
その動きがゆっくりなのは、こちらを刺激しないためだろうか?
艦首をかえすと、そのまま村から離れるように動き出した。同時に、その高度を徐々に下げ始める。
そして、クラウドローズが村の入り口から100メートルほど離れた場所に着地する。完全にこちらに横腹を見せる、無防備な状態だ。
敵意がないという証か? だが、向こうが時間稼ぎをしている可能性もある。幻影の竜のことを知っていれば、時間制限があることも分かるはずなのだ。
まだ油断はできない。
「おい、幻影の竜だけじゃなく、石の巨兵もクラウドローズの近くまで移動させてもいいか?」
「ご自由にどうぞ」
あっさりと了承したな。それだけ余裕ということか?
ならば、お言葉に甘えさせてもらおう。俺は石の巨兵を、着地したクラウドローズの真横で待機するように命令した。
これで向こうが不審な動きをすれば、巨兵をモンスター化させて攻撃することも可能だ。
そうして俺が石の巨兵や幻影の竜に命令を下していると、クラウドローズから何かが出てくる。
「あれは、魔法の絨毯か」
一枚の空飛ぶ絨毯。その上に、数人の男女が乗っているのが見えた。
「本当に、出てきやがったぞ……」




