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180話 追いつき、追いつかれ


 瘴気獣に乗ってエマたちの乗る馬を追いかける。だが、このままだとマズいことになりそうだった。


 追いつく前に村の外に出られてしまいそうなのだ。


 手持には攻撃魔術もない。いや、ツリーバインドのスペルはあるが、樹を生やすという性質上、疾駆する馬に当てられるかどうかは分からない。


 このままだと、本当にマズい。村の外には身を隠す場所も多いのだ。即座に追いつくことは難しいだろう。


 エマたちに逃げられてしまえば、後に残るのは凶悪極まりない堕天使だけだ。


 俺は殺され、村は滅ぼされる。


 背後を確認するが、その堕天使の姿がない。雷鳴の精霊が上手く足止めをしてくれているようだった。カード化して戻ってこないということは、まだ戦いが続いているということなんだろう。


 だが、雷鳴の精霊が堕天使に勝つことは難しいはずだ。遠からず、追いついてくる。


 やはり俺たちが生き残るには、エマを殺すか、堕天使に対抗できるカードを引き当てるしかなかった。


 しかし、カードを使い過ぎたおかげで、あれだけあったはずの魔力がもう心許ない。万能魔力5、白0、青1、黄1、赤0、緑0、黒0だ。


 カードを使いまくらなければ今頃堕天使に殴り殺されていただろうし仕方ないんだが、そのせいで選択肢が大幅に減ってしまっている。


 カードをたくさん使って、ドローに期待するのはもう難しいだろう。


 あとはこのまま追いついて、エマに止めを刺す選択肢だけだった。


 エマたちの逃走を、どうにか阻害できないか? 最善は、村の入り口をふさぐことなんだが……。


 いや、待てよ! 方法がある! 今なら間に合うはずだ!


 あとはこの距離で動いてくれるかどうかなんだが……。


「い、石の巨兵! 起動、しろ!」


 激しく揺れる瘴気獣の背で、舌を噛みそうになりながらも俺は命令を叫ぶ。すると、確かに俺の魔力が減り、遠くで巨大な石像が動き出すのが見えた。


 村の入り口に設置してあった、石の巨兵である。かなり離れているが、ここからでも起動できたらしい。


 オブジェクトから、4/5のモンスターへと変化した石の巨人は、滑らかな動きで立ち上がる。


 このまま攻撃させる? いや、万が一回避されたら最悪だ。ここはもっと確実に向こうの足を止める。


「巨兵! 村の入り口を塞げ! 誰も通れないように!」

「ゴオォ!」


 俺の命令に対して咆哮で答えた石の巨兵は、すぐさまその命令を実行するために行動を開始した。


 やることは至極単純だ。


 石の巨兵はそのまま村の入り口を塞ぐように、体を横たえたのである。


 それはつまり、数メートルの高さの石壁が突如出現したということであった。


 問題は何らかのカードでここを突破されてしまうことだったのだが――。


「エマ!」

「無理よ!」


 その会話により、エマにもどうしようもないのだということが分かった。


「よし! いけ、瘴気獣!」

「ギャロオオオォォォォ!」

「ちぃ!」


 男は騎首を返してなんとか避けようとするが、もう遅い。強化された瘴気獣とただの馬では、勝負にすらならないのだ。


 接近した瘴気獣の剛腕は、馬ごとエマたちを弾き飛ばした。


「ヒヒィィ……!」


 憐れみを誘う馬のか細い嘶きとともに、エマと団長が地面に叩きつけられる。瘴気獣の腕に馬と一緒に引っ掛けられたのか、団長はピクリとも動かない。


 足の骨が折れているのも分かるし、無力化できただろう。運が向いてきたかもしれない!


「瘴気獣! 女をやれ!」

「ギョロォォ!」

「くそくそくそ!」


 自らに迫る醜い獣を見て、エマが怨嗟の声を上げる。もう本当に打つ手がないようだった。


「やめろっ! エリオ君だけじゃなくて、私まで殺すのか!」

「……」


 俺はエマの言葉を完全に無視する。これから殺す相手と、どんな話をしろというのだ。それがどんな内容であれ、良い感情など残らないだろう。


「やれ!」

「助けてっ!」

「ギョォォォォ!」

「いあやあああああ――なんてなぁ!」



 俺がエマの死を確信した瞬間。それは空から降ってきた。


「オオオオォォォォ!」

「ギョロッ――」


 巨大な鉄の塊が、瘴気獣を叩き潰す。


 堕天使だった。


 背後ばかり気にしていたが、奴は上にいたのだ。そりゃあ、あれだけ立派な羽が生えているうえに、飛行能力も持っている。飛ばない訳がなかった。


 最初から飛ばずに地上戦を仕掛けてきたため、すっかり飛ばずに走って追いかけてきているのだとばかり思っていた。


 雷鳴の精霊がカード化していないのは、飛んだことで戦闘にならなかったのだろう。


「これで、追い詰められたのはあんたの方よ! 逃げ場はない!」

「オオオ!」

「ぐがっ!」


 遂にメイスの直撃を食らってしまった。


 横凪に振り払われた鉄の塊によって、ピンボールの球のように真横に弾き飛ばされた。10メートルほどを水平に飛んだあと、岩に激しくぶつかって弾き返される。


「は……今の1発で、これか……!」


 残りライフ1。残る魔力はほぼゼロ。


 そして、目の前に巨大な敵が立ちふさがっている。


「終わりよ! そいつを殺しなさい!」

「オォォォ!」


 もう何度目か分からない、攻守の交代だった。


今後の更新予定ですが、9日、14日に更新し、その後は4日に1回更新に戻せると思います。

今年もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カードゲームの設定が特に良い。昔マジギャザやってた頃を思い出します。 [気になる点] ガルフナザや群狼は今どこにいるのだろう?最後は村の中にいたので救援には来ないのだろうか? [一言]…
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