178話 迫る堕天使
俺の目の前で、身の丈4メートルの堕天使が、巨大な棘付きメイスを振り上げていた。
「オォォォォォ!」
咆哮とも呻き声ともつかない重低音がその口から発せられ、メイスが俺に向かって降り下ろされる。
「くおおぉぉ!」
アドレナリンのおかげなのか、火事場の馬鹿力か。自分でも驚くほどの敏捷性が発揮されていた。咄嗟に横に飛んだお陰で、メイスの直撃を何とか回避できたのだ。
だが、凄まじい勢いで叩きつけられたメイスは、想像以上の威力である。発生した衝撃が俺の体を持ち上げ、吹き飛ばしていた。
飛び散る無数の礫を全身に浴びながら、10メートル程を自分の意思とは関係なくダイブさせられる。
これが普通の人間だったら、もうまともに動くことはできないかもしれない。しかし、ライフバリアによって守られている俺にとっては好都合だった。相手のおかげで距離を取ることができたのだ。
とは言え、ピンチであることに変わりはない。手札はダークアイズ、肉体強化の呪印、赤熱の魔弾、コボルトのゲテモノシェフ、蔦鼠、ツリーバインド。奴をどうにかできるカードはなかった。
「スペルが利かないのが痛いな……!」
せっかくドローしたツリーバインドも、あの巨大堕天使には通用しない。赤熱の魔弾もだ。
ダークアイズ、コボルトのゲテモノシェフ、蔦鼠では相手にならない。肉体強化の呪印を使っても、全く及ばないだろう。
俺はすぐに立ち上がって走って逃げるが、歩幅が違い過ぎた。あっと言う間に距離が縮まってくる。
「オオォォ!」
「くっそ!」
巨大メイスを振りかぶりながら、大股で駆けてくる堕天使。俺にはただ背を向けて逃げることしかできない。手持ちのどのカードを使っても、足止めにもならないとわかるからだ。
いや、待てよ。このまま堕天使を俺が引きつけて、エマを攻撃すればどうにかなるか?
「召喚ダークアイズ!」
ダークアイズ モンスター:デーモン
黒3 1/1 C
浮遊、毎日開始時、対戦相手の手札を1枚確認する
「肉体強化の呪印! エマを! カード使いを攻撃するんだ!」
「ギョオォォ!」
強化されたダークアイズが、俺の命令に従って飛んで行く。エマのライフバリアは最高でも10以下だ。4/3のダークアイズであれば何とかなるかもしれない。
まあ、それまで俺が生き残らなくてはならないが。
だが、天はまだ俺を見捨てていなかった。
「いいのを引いたぞ! 召喚! コボルトの水鉄砲師!」
「ワフン!」
コボルトの水鉄砲師 モンスター:コボルト
青1 1/1 C
青1:対象のモンスターのアタック対象を自分にする
ダックスフントのコボルトで、竹筒で作った昔ながらの水鉄砲を構えている。背負っている樽はタンクなのだろう。
俺は、召喚したばかりの水鉄砲師に早速能力を使用してもらう。
「頼んだ!」
「ワッフン!」
「オオオオォ?」
水鉄砲師が竹筒水鉄砲を使い、すぐ背後まで迫っていた堕天使の顔に水を撃ちこむ。正確なコントロールだ。
すると、俺を攻撃しようとしていた堕天使の視線が、水鉄砲師に向いた。能力の効果が発動したらしい。
「すまん! 俺とは反対側に逃げてくれ!」
「ワッフ!」
水鉄砲師が軽く自分の胸を叩くと、そのまま囮となって駆け出していった。
「頼んだ!」
俺はそのままエマに向かって駆ける。十数秒後、背後から凄まじい衝撃音が響いた。巨大メイスが地面を叩き割った音だ。
ほぼ同時に、カードが戻ってくる。
しかし、水鉄砲師の犠牲のおかげで、かなり距離が稼げた。エマも逃げようとしていたが、ダークアイズに邪魔されたせいでほとんど移動できていない。
ダークアイズの突進で大地に投げ出されたエマは、カードを取り出して掲げている。
「ウィング・スライサー!」
「ギギィ?!」
まだ魔力が残っていたか! エマが使ったのは、飛行を持ったモンスターを破壊するカードである。
敵の飛行モンスターをスペルで排除し、自分のモンスターで制空権を取るのがエマの基本戦術なのだろう。
しかし、おかげで十分時間が稼げた。起き上がって走り出すまでに、俺が追い付くだろう。
そう考えたんだが――。
「オオォォ!」
「もうかよ!」
俺が堕天使に追いつかれる方が早かった! 真後ろにいる!
姿は見えないが、凄まじい圧迫感が俺に鳥肌を立たせていた。
「くっそぉぉ!」
思わず、叫び声が口から迸る。地面に横たわったままのエマがそれを聞き、愉悦の籠った笑みを浮かべる。
「おおおぉぉぉ!」
不意に声が聞こえた。俺の叫び声とも、堕天使の咆哮とも違う、男の叫び声だ。
「はああぁぁ!」
「オオオォ!」
思わず振り返る。そんな俺の目に飛び込んできたのは、緑色のオーラを纏った剣を堕天使の足に突き立てる、ロイドの姿であった。
「その人は……やらせないっ!」
年末年始の更新予定ですが、普段通りの更新が維持できそうもありません。
次回は27日、来年は1/4の更新予定です。
よろしくお願いいたします。




