175話 黄のカード使い
「エリオ君をよくも殺したなっ! 許さないぃっ!」
突如、空飛ぶモンスターに乗って現れた少女の金切り声が、戦場へと響き渡った。
ワフがその姿を見て、尻尾を足の間に挟んで震えている。
半狂乱で叫ぶ女の姿は、ジャパニーズホラー映画に登場する怨霊のような迫力があった。
少し遠いが、間違いない。カード使いだ。まだ少女がカードを手にする姿を見たわけではないが、俺には確信があった。
乗っているのはモンスターだし、顔立ちも髪の色も日本人。それに、俺はあの少女に見覚えがあった。
MMMの有名プレイヤーであったのだ。WEBの大会レポートなどに頻繁に登場していた、エマというプレイヤーネームの女性である。MMMプレイヤーの中では珍しい女性プレイヤーで、しかも若くて強いとなれば、注目されるのは当然だろう。
黄色デッキを多く使っていたことで、鳥使いや羽使いのエマなどと呼ばれていた。
「マジかよ……」
相手は俺のような一般人ではなく、全国大会で入賞を果たすような強豪だ。一体どんなカードを使ってくるのか……。
いや、違う。弱気になるな! ここはゲームの盤上ではなく、リアルな世界なんだ! だからこそ、赤のカード使いも倒せた。
このクレナクレムであれば、俺だってトッププレイヤーと戦える!
「幻影の竜は……」
軽く振り返ると、半透明の竜がディシャル様たちを乗せて下りてくるところであった。
「ワフ! ディシャル様を頼む!」
「了解であります!」
今、魔力はほとんどない。それでも、幻影の竜がいれば勝てる可能性はあるはずだ。迅速にディシャル様たちを竜の背から降ろし、攻撃に回ってもらわなければ。
そう思っていたんだが――。
「反動の烈風!」
エマが叫ぶと、白い風の弾丸が幻影の竜に向かって撃ち出された。そして、風が当たって竜の体が僅かに傾いだように見えた直後、その体が微かに光に包まれる。
「くっそ! やられた!」
「わ、わう? 幻影の竜殿が!」
さすがプレイヤー! 幻影の竜の厄介さに気付いて、早々に対処してきたか!
激昂していても、暴走しているわけではないらしい。
黄のカード使いであるエマの使用したスペルは、敵のモンスターを手札に戻すカードだ。しかもそれだけではなく、その後に手札を捨てさせる効果まで付いている。
反動の烈風 黄3 UC スペル
対象のモンスターを、プレイヤーの手札に戻す。その後、そのプレイヤーは手札を一枚ランダムで捨てる。
幻影の竜はダメージでは倒されないものの、スペルの効果を受けない訳ではない。こういった、ダメージを与えるのではなく、特殊効果を発揮するタイプのスペルには弱かった。
カード化した幻影の竜が手札に戻ってくる。
「ああ! 落ちますぞ!」
幻影の竜が消えてしまったせいで、その背に乗っていたディシャル様が空中に投げ出されてしまっていた。ワフが落下地点に走るが、間に合わない。
「ガルアアァァ――!」
「コボルト殿―!」
コボルトの狙撃弓兵が、宙でディシャル様を抱き寄せるのが見えた。自らの体をクッションとして、ディシャル様を救おうというのだ。
激しく落下し、地面に叩きつけられるコボルトたち。
「ガウ……」
「立派ですぞ! コボルト殿!」
背中から落下したコボルトは、衝撃のダメージによってカードに戻っていた。
ディシャル様はどうなんだ? 全然動かないが……。
今すぐ駆け寄って状態を確認したいが、俺にそんな余裕はなかった。
「お前か……? エリオ君を殺したのは……」
エマが再びカードを取り出したのだ。上空でホバリングする虹色のハチドリの上から、俺をずっと睨んでいる。あのハチドリは、ケツァールの王という、SRのモンスターだ。
ケツァールの王
黄4 0/1 SR
飛行、破呪、増殖1
場から墓地に送られた場合、このカードを手札に戻す
モンスターを1体生贄に捧げる:ターン終了時まで+1/+1強化される。
破呪は、自分を対象にしたスペルを打ち消す効果がある。そのせいで、俺がスペルを撃ったとしても効かない可能性が高かった。
プレイヤーを狙ったとしても、騎乗しているケツァールの王の破呪がエマを守ってしまうだろう。ケツァールの王には当たらず、エマにだけ当たるようにピンポイントで狙撃しないといけないのだ。
だが、高速で飛ぶ飛行モンスターの背に乗っている相手だけを狙うなど、不可能だった。
それに、厄介なのは飛行、破呪だけではない。もうひとつの能力、増殖が一番厄介である。
増殖は、コストを消費することでそのモンスターのコピートークンを生み出す能力だ。つまり、奴の魔力が続く限りケツァールの王のコピーを増やし、それを餌にケツァールの王自身の強化ができるということだった。
「エアスライサー!」
「ぐあぅ!」
エマが黄色の攻撃スペルを使ってくる。黄1で1点ダメージを与えるスペルだ。ライフバリアが防いでくれたが、そのせいで完全に俺の正体が相手にばれた。
「やっぱりお前が敵かっ! お前がエリオ君を……殺してやる!」
エマの視線が俺を捉えた。ロックオンされたらしい。
ただ、そのおかげで今すぐワフたちにエマの敵意が向く可能性が減った。向こうは、かなり危険状態であるようだからな。
「酷い火傷であります……!」
ディシャル様を診察していたワフの呻きが、俺の耳に入ってくる。先程の爆炎によって、半身を焼かれているらしい。
コボルトの狙撃弓兵が無事だったことを考えると、もしかしたらディシャル様が庇ったのかもしれないな。
俺は手札を確認した。
先程のスペルの効果で捨てられたのは、マグマ山の火炎獣だった。最悪、自爆覚悟で相手にも攻撃できるカードだったので、かなり嫌な結果になったと言えるだろう。
しかも、戻ってきた幻影の竜も魔力不足で召喚することができない。
これで、一気に形勢が向こうへと傾いてしまった。何せこの場にいる俺のモンスターは、全てが地上タイプだ。相手に攻撃を仕掛けられるモンスターがいない。
ワフの装備している電撃の大剣の能力なら届くかもしれないが、今はディシャル様の救護は優先だ。
飛行戦力であるワイバーンは、すでに2体とも倒されている。離れた場所だったので正確には分からないが、弓などで集中攻撃されればさすがに耐えられないのだろう。
「殺す!」
「くっ……。どうする……!」




