174話 ロイドの変化
召喚したモンスターたちを使って村の中の敵を掃討していく。
そうして村の中を進んでいると、前から鎧を着込んだ男たちが歩いてきた。だが、敵ではない。
「カグート! 血だらけじゃないか!」
「トールさんか……。ちょいとヘマしちまってなぁ」
「今止血しますぞ!」
「ロイド、こっちに寝かせてくれ」
「ああ」
血塗れのカグートに肩を貸していたのは、ロイドであった。自分が血に濡れるのにも構わず、カグートの傷を抑えて何とか血を止めようとしている。
俺はそんな風に他者を気遣うロイドを見て、軽く驚きを覚えていた。
ロイドは黒のカード使いである白井の配下だったが、今はソルベスの村に身を寄せている元盗賊である。
特殊な少年兵として育てられた経緯から、感情や自我が希薄に育ってしまっていた。
しかし、今のロイドがカグートを見る目には、不安や心配の色がハッキリとあるように思える。
「ロイドが、こんなに強いとは思ってなかったぜ……。助かった……」
「違う。俺が助けられたんだ」
話を聞くと、囲まれていたロイドを助けるために、カグートが身を呈したらしい。そのお陰で敵の囲みが崩れ、逃げ出すことができたそうだ。
ロイドは元々気功が使える。しかも、幼いころから戦闘訓練に明け暮れていたのだ。自分の意思で戦えるようになれば、この村でも上位の力はあるのだろう。
「むぅ。なかなか傷が深いですな」
「カグートさんは、助かるのか……?」
そう尋ねるロイドの顔に浮かぶのは、仲間を心配する青年の表情だ。本当に、変わったらしい。俺たちがこの村に来た頃は、まだそんなそぶりはなかったと思うが……。
いや、俺たちもロイドの兄を殺してしまったという負い目があるせいで、そこまで深くは関わらずにきてしまった。そのために、ロイドの変化に気付かなかっただけかもしれないな。
本当は、少しずつ人として大事な物を取り戻しつつあったのだろう。
「傷口はポーションで何とか塞ぎました。このまま安静にしていれば、命に別状はないのですぞ!」
「そ、そうか」
「ただ、ここでは安静とはいきませぬ。早々に安全な場所に移さねば!」
周囲は敵だらけな上に、未だに戦いが続いている。確かにここでは安静に体を休めることなど不可能だろう。
「村の外の方がいいか?」
「そうですな。どこか隠れる場所が――」
「キョオオオオオオオオォォォォォ!」
「うわっ!」
「わう!」
カグートをどこで休ませるか相談していると、耳障りな金切り声のような音が辺り一帯に響き渡った。背筋がゾッとするような感覚に、俺たちは思わず身を竦ませる。
「な、何の音だ……?」
「主っ! あそこですぞ!」
ワフが上空を指差している。釣られて空を見上げると、その先には不思議なモノが浮かんでいるのが見えた。
まるで蛸だ。それも空を飛ぶ玩具のタコではなく、足が八本の気味の悪い方の蛸である。黄色の肌に赤い斑点が浮かんだ不気味な姿の蛸が、羽ばたきもせずに宙に浮かんでいた。
「馬鹿な……。何でアレが……」
「ぶ、不気味ですな! 主はご存じなのですか?」
「ああ。間違いない。カードのモンスターだ!」
MMMのモンスター、黄色い風の奴隷で間違いなかった。
黄色い風の奴隷 モンスター:幻想
黄3 1/2 R
浮遊、黄2:ターン終了時まで挑発を得る
確かこんな能力だったはずである。だが、問題は能力ではなく、その存在そのものだった。
「カード使いは倒したはずだ! なんでアレがまだ召喚されたままになってるんだよ!」
「ああ! ペガサス殿が!」
「さっきの絶叫は挑発能力か?」
挑発は、敵の攻撃を惹きつける効果がある。その能力に影響されたのか、ディシャル様たちを乗せたペガサスが、黄色い風の奴隷に突っ込んでいくのが見えた。
ただ、能力的に見れば問題ない。ディシャル様の魔術に加え、遠距離攻撃もできるコボルトの狙撃弓兵も乗せているのだ。
それでも心配が勝ってしまうのは、相手が何故存在するのか理解できないという不気味さのせいだろう。
見守る俺たちの前で、ディシャル様たちの攻撃が放たれる。その一撃は黄色い風の奴隷に見事に命中し、そして大爆発を起こしていた。
ドゴオオオォォォオ!
「うわぅ!」
周囲に散った爆炎が、暗い村を花火のように明るく染める。ワフが耳を抑えてうずくまってしまうのも仕方ないだろう。それ程の大爆発だった。
何が起きた? 黄色い風の奴隷にあんな能力はないはずだが……。魔術のせいなのか? いや、ひとつだけ思い至った可能性がある。スペルの効果だ。
挑発能力をもったモンスターに、死に際に発動する能力を付与し、あえて敵に殺させるという戦術がある。それではなかろうか?
「幻影の竜! ディシャル様たちを助けろ!」
「ガオオオオ!」
離れていたのに、ペガサスがカード化したのが見えた。それ程の爆炎が周囲にまき散らされたのだろう。
ディシャル様たちは無事なのか? 幻影の竜が落下してくる人影を受け止めるのが見えた。だが、まだ無事かは確認できない。
本当ならすぐにでも駆け寄りたいんだが……。
「主!」
「ああ、見えてるよ!」
新たに現れた影を警戒せねばならなかった。
それは、虹色の翼を持った、馬ほどのサイズの巨大なハチドリだ。外見は可愛いが、それに騙されていはいけない。凶悪な能力を持ったモンスターなのだ。
そして、その上には1人の少女が跨っていた。黒い髪をポニーテールにした、10代半ばほどのやや地味目な印象の少女である。
だが、その顔を見て俺は再び背筋が凍りつく想いを味わっていた。まるで般若のように、憤怒に歪んでいたのだ。
「エリオ君をよくも殺したなっ! 許さないぃっ!」
風邪気味で、執筆に遅れが……。次回は12/7更新予定です。




