173話 強力なモンスターたち
魔法陣から出現した岩猪の精霊ガルフ=ナザ。周囲に響く咆哮を上げながら、俺の指示を待っている。
サイズは、岩甲殻の大犀と変わらないくらいだろう。体高は2メートル程度だ。だが、その身から発せられる威圧感は、圧倒的にガルフ=ナザが勝っていた。存在の格が違うとでも言おうか?
改めてみると、凄まじく強そうだ。全身に纏う岩石の甲殻。前方へと突き出した鋭く長い牙。その四肢はドラム缶などよりも遥かに太い。
しかも特殊能力まで備えているはずなのだ。
一枚岩の精霊・ガルフ=ナザ 精霊
緑4 3/5 ★
緑1で再生。大地の中を移動できる
魔術や気功でしか倒せないという精霊でありながら、緑1で再生までする。はっきり言って、俺の魔力が尽きない限り倒されないのではなかろうか?
しかも、ガルフ=ナザの真価はそこではない。
「やれ!」
「ゴオオオオォオォ!」
「ぎゃあああ!」
「い、いきなり地面からっ……!」
俺たちも奇襲を許した、大地の中を移動する能力だ。
ガルフ=ナザは俺の目の前でその能力を発揮してみせていた。
地面の中から一気に伸びあがり、複数の敵兵をかち上げている。その姿を見ると懐かしささえ感じた。
精霊かどうかは分からずとも、ガルフ=ナザが尋常ならざる存在であるとは理解できるのだろう。
周辺の兵士たちの目が、一斉に岩猪へと向いた。
「よし、今の内だ」
どうせ、この戦いが終わったら勝利報酬を有効化して、魔力を補充できる! 村を守るため、魔力を使い切るつもりでカードを使ってしまおう。
まずはドローしたばかりの大地の魔力を使用し、緑魔力を生み出す。そして、俺は手札のカードを抜き放ち、使用した。
「群狼召喚!」
群狼 モンスター:獣
緑1+X 1/1 UC
召喚時、支払った緑魔力X分の1/1狼を召喚
ガルフ=ナザが個の強さであるならば、こいつらは数の強さだ。
奥の手用の魔力を残し、他は全部つぎ込んだ。その結果、大型犬サイズの狼が7体。俺の周囲に出現する。
「狼ども! 敵兵を倒し、村を護れ!」
「「「アオォォォン!」」」
1/1だが、狼たちは見事な連携で、兵士に襲いかかっている。混乱している敵兵相手には十分な戦力だ。
「ワフ! ガルフ=ナザと連携して、囲みを突破する!」
「了解でありますぞ!」
「ゴオオォォ!」
まずはゼド爺さんたちに合流しよう。
「このまま――む?」
走り出す直前、複数のカードが戻ってきたのが見えた。
バインダーを開いて確認すると、バルツビーストや、灰色狼だ。どうやら火炎王の結界石に囚われていたモンスターたちが解放され、傭兵団の本隊と戦闘になったらしい。
同時に、さらに試練が達成されているのも確認できた。この数分で条件を満たしたのだろう。
・モンスター50匹召喚:ポイント2
・試練達成110:ポイント1、万能魔力1
・モンスターを使い、大量の人間を殺傷する:ポイント2、万能魔力2
・戦場にて、一定数の敵を撃破する:ポイント2、万能魔力2
人間を殺す系の試練がここ数日で大量に達成できてしまったな。転生者同士、人間同士で殺し合いをさせたがっているのかと思ったが、単純に戦いに身を置かせたがっているのだろうか?
人、魔獣、生物を殺せば達成される試練が非常に多い。戦い、殺し、魔力を得てカードを使用し、その力で再び戦う。そんなサイクルを熟すことを、セルエノンがご希望ってことなのだろうか?
「えーっと、これでまた魔力が補充できたんだ。このカードも使えるな!」
より早く勝利を決定づけるため、俺は手札に溜めこんでいた切り札の1枚をここで使うことにした。
召喚したのは、青白い半透明のドラゴンだ。
幻影の竜 モンスター:幻想
白4 4/0 C
飛行、生命力が0以下でも破壊されない。
召喚されてから1時間後、生贄に捧げなくてはならない。
「ガオオオォッ!」
「ふ、不思議な姿だな」
まるで幽霊か蜃気楼のような姿をしたドラゴン。不思議なほどに存在感がない。プロジェクションマッピングで霧か何かにドラゴンを投影しているのかと思うほどだ。
それでいて、声はこのドラゴンが発していることが分かった。
この不可思議な竜が戦えるのか?
心配する俺の前で、ドラゴンが半透明の巨体をくねらせながら敵の兵士たちに向かって駆け出す。足音はしない。それどころか、その巨体が走っているにもかかわらず、一切の振動さえなかった。
やはり物理的な攻撃力はないのか? そう思ったのだが――。
「ぎゃあっ!」
「ぎいいいぃ!」
幻影の竜に突進された敵兵たちが、トラックに衝突されたかのようにぶっ飛んでいた。やはり物理的な攻撃力を持つらしい。
「ガアアアアアア!」
幻影の竜が目の前の兵士に噛みつく。
グチャリ。
生々しい音とともに、その体が噛み潰される。幻影の竜が半透明なせいで、その口の中で憐れな兵士がすり潰される様が見えてしまった。
それでいて、敵兵が無我夢中で突き出した槍が、半透明の体をすり抜ける。悪夢というほかないだろう。
幻影の竜の攻撃だけが相手を殺傷し、敵からの攻撃は全て素通りなのだ。
ガルフ=ナザの威容に腰が引けていた敵兵は、幻影の竜の登場で完全に戦意を失っていた。勝てないと悟り、背を見せて逃げ出し始めたのだ。
「主! 敵が逃げてしまいますぞ!」
「追わなくていい。むしろ、自分で村から出て行ってくれるなら好都合だ」
「そうでありますか? まあ、そうですな。死兵にでもなられては被害も増えますしな」
「そういうことだ」




