169話 赤のカード使い
高さ10メートル以上の巨大火柱が上がった村の入り口に急行すると、そこでは信じられないような光景が広がっていた。
門が爆発によって破壊され、周辺に残骸が撒き散らされる。門があった場所には、炭化した瓦礫だけが残っていた。
「す、凄まじい……。大魔術師でもそうそうあんな攻撃はできんぞ……」
ディシャル様が驚きの声を上げる。自身が高位の魔術師である彼女が驚くほどの威力ということなのだろう。
しかし、俺にディシャル様ほどの驚きはなかった。
赤のカードの中ならば、これくらいの威力を秘めているであろうカードにいくつも心当たりがあるからだ。
火炎王の結界石を見た時からそうだろうとは思っていたが、やはり赤をメインとしたカード使いであるらしい。
「ああ、なんてことだ……!」
ディシャル様が悲鳴を上げる。門から少し離れた場所に、人の形をした黒い物が転がっているのだ。門を守っていた自警団の男たちだろう。爆発の威力でここまで吹き飛ばされたのだ。その体は全身が炭化してしまっている。
「それに、もう村に敵兵が……!」
ディシャル様の言葉通り、村の入り口で敵兵と村人たちの戦いが繰り広げられていた。ワイバーンなどもいるおかげで、未だこちらが有利だ。
しかし、兵力で上回る傭兵勢は、後から後から兵が村へと突入していく。ゼド爺さんやワイバーンたちを迂回しようという動きも、上から見ていると分かった。
まだ突破されていないが、数の差は圧倒的だ。時間の問題だろう――いや、そうでもない?
ゼド爺さんが凄まじく強かった。虎人の大剣士もだ。その両者が無双状態で敵兵を蹴散らしている。
ゼド爺さんの一振りで敵兵が数メートル吹き飛び、逆に数人から攻められても全く相手にならない。
まあ、様々なカードで強化を施されたゼド爺さんは、5/5程度の能力はあるはずだからな。しかも今はツリーアーマーの強化能力を発動中なので、6/6だ。
特務騎士とガチンコで殴り合える能力である。
強化能力を発動中の虎人の大剣士も5/4相当なので、特務騎士並の戦士が2人もいる計算なのだ。
あのままなら、いつまででも持ちこたえるだろう。
だが、いくら強くても2人で戦場全域はカバーできないし、強化には制限時間もある。
やはり急いだほうがいいだろう。
「キュオオオオォォォッ!」
俺たちの眼下では、ワイバーンの1体が青い炎に包まれていた。
「ワイバーン殿!」
「ちっ! 術者はどこだ!」
赤のカード使いの仕業だろう。『青き火球』という、そのまんまな名前のスペルカードだ。
どうやらカード使いも傭兵と同じ黒づくめの格好をしているらしく、一見してどこにいるか分からない。多くの傭兵が覆面や兜を被っているせいで、判別できないのである。
だが、すぐにどいつなのか分かった。
「あいつだ! カードを持ってる!」
「どいつでありますか?」
「あの、少し後ろにいる傭兵! 横に護衛みたいなのがいるやつだよ!」
村の門を一歩跨いだくらいの位置に、明らかに雰囲気の違う兵士がいた。背も低いし、武器を持っていない。その横には、護衛のように付き従う兵士もいる。
最初は指揮官と思ったが、手にカードを持っているのが見えた。あいつがカード使いに間違いない。
「あの男……!」
「どうしましたディシャル様?」
「兵士は殺して、残った村人は奴隷にして売り払うと、笑いながら話している!」
なるほどね。つまり、白井タイプってことか。俺が遠慮する理由が完全になくなったということだった。
「狙うぞ」
「はいです!」
「だが、どうやって攻撃するんだい? 魔術でも撃つのかね? それとも、下りて奇襲をかけるかい?」
「そうですね……」
ここからの攻撃か……。無理だな。
俺の手札には遠距離攻撃ができるカードはないし、ワフも攻撃魔術は使えない。攻撃手段があるのはコボルトの狙撃弓兵とディシャル様だけだ。
相手がただの盗賊ならそれでもいいが、敵はカード使い。俺と同じようにライフバリアを持っている。一撃で仕留められなければ、攻撃呪文カードでの反撃があるに違いない。
赤はスペルが豊富な色だからな。
では、一旦下りて、奇襲をかけるか? それもまた、危険が高い。相手の場所が悪いのだ。左右は村の入り口にある崖で塞がれ、前は乱戦状態。
奇襲をするには背後からしかないが、そこには傭兵たちがウジャウジャいる。奇襲する前に発見されるだろう。
「では、どうするんだい?」
「……このまま奇襲を行ないます」
「このまま……?」
「はい、このまま、一気にペガサスで急降下して、あのカード使いに攻撃を仕掛けると言うことです」
前後左右がダメならば、上だ。急降下爆撃ならぬ、急降下奇襲で、あのカード使いを攻撃する。
意味が理解しきれず戸惑うディシャル様に、俺は作戦を説明した。
「――というわけです」
「や、やることは分かった。だが、できるのかい?」
「ライフバリアのある俺ならできます」
「……分かった。信じようじゃないか」
時間もあまりない。ここで問答することの無意味さを理解したのだろう。ディシャル様が、半信半疑ながらも頷いた。
「ワフも、頼むからな?」
「分かっております!」
「よし! それじゃあ、やるぞ! ペガサス! いけ!」
「ヒヒヒィィン!」
俺が首筋を軽く叩いてやると、ペガサスが大きく嘶いて翼を羽ばたかせた。
直後、首を真下に向けていたペガサスが、一気に急降下を始める。重力に引かれてとかいうレベルではない。凄まじい速さだ。
それもそのはずである。ペガサスは落下してるのではなく、下に向かって飛んでいるのだ。
そして、あっと言う間に地面との距離が近づき、残り10メートル程度のところで、俺はペガサスから飛び降りた。
「――!」
湧き上がりそうになる悲鳴。
それを懸命に堪えて、俺はその勢いのままに赤のカード使いに掴みかかるのだった。
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ワフが可愛いので、そちらもよろしくお願いいたします。




