168話 火炎王の結界石
「これは……魔術なのか?」
ペガサスの背から見下ろす敵陣では、異様な光景を目にすることができた。
「あれはバルツの森の主殿ではありませぬか! 他のバルツビースト殿たちもおりますぞ!」
「ああ、全員、あの変な光で捕まっちまったらしい」
バルツビーストたちが参戦できない理由が分かった。
バルツビーストたちが、半透明の赤いドームの中に捕らえられていたのだ。
バルツビーストや狼の姿も見えるが、全員がその体の大きさにあったサイズのドームに閉じ込められている。
「ディシャル様。あんなことを魔術で可能ですか?」
「さて……。できる者もいるのかもしれないが、炎の魔術は専門外だからねぇ」
「炎?」
「ああ。あの赤い光からは炎の魔力が感じられるね。薄く伸ばした火なのだろうよ」
炎のドームってことか。
しかし、10近い獣たちを、閉じ込め続けるような魔術、普通の人間に可能なのか? それこそ、特務騎士クラスの大魔術師か、カード使いでもなければ不可能なんじゃ?
最初はそう思ったが、俺はこの世界の魔術については素人だ。俺の目には大魔術に見えていても、実は難しくないのかもしれない。もしくは、複数人の魔術師が協力しているかもしれない。
ただ、それにしてはバルツの森の主が捕らえられたままだ。見たところ、炎のドームは薄い。少し厚いくらいなら、獣たちは簡単に突破できるだろう。
つまり、バルツの森の主でさえ、内側から破壊することができない程に強固であるということだ。そんな強度の結界的な物、そうホイホイとは作れないはずだ。というか、そうであってほしい。
何せ、あの炎のドームが魔術的にはさして難しくないとなると、俺の持つカードの優位性が大分下がることになるからな。
「どうするかい? トール」
「バルツビーストたちは、とりあえずこのままで。先に敵の指揮官を襲撃しましょう」
「いいのかい? 助け出して、戦力を充実させなくて?」
「あれをやった相手の実力が不明です。まだ俺たちの存在がばれていない内に、指揮官だけでも仕留めないと」
「わかった。それで――」
「主! アレを見て下され!」
俺たちが相談している中、ワフが突如声を上げた。
「アレですぞ! アレ! なにやら不審なものが置いてありますぞ!」
「不審なアレって――ええ?」
ワフが指さす場所に目を凝らすと、そこには驚きの存在が鎮座していた。
燃えるように赤い石で作られた、高さ2メートルほどの石碑である。炎の形を象っているのだろう。
傭兵たちの間に埋もれて見えていなかったが、俺たちが移動したことで隙間からその姿が見えるようになったのだ。
「なんだろうね? 何か魔術的な道具?」
「強い魔力を感じるのですぞ!」
ディシャル様とワフが赤い石碑を見て首を捻っているが、俺にはそれが何なのかハッキリと分かっていた。
「火炎王の結界石か!」
「主! 分かるのですか? もしや、カードの?」
「ああ、間違いない! 赤のレアカードだ!」
火炎王の結界石 赤4XX R オブジェクト
フィールド上の赤以外のモンスターを好きなだけ選ぶ。そのモンスターはXターンの間、行動することができない。Xターン終了時に、選択したモンスター全てにX点ダメージを与え、このカードを破壊する。
魔力を相当使用するが、相手の攻撃を封じることが可能な強力なカードである。
かなり遠目からでも、その特徴的な形は確認することができた。間違いなく、MMMのカードだろう。
「敵にカード使いがいる!」
「な、なんですとぉ? つまり、白井のような主の敵ですか?」
「白井のようなクズかどうかは分からない」
だが、敵であることは間違いないだろう。
「ディシャル様! 標的を変更したいんですが!」
「カード使いと言ったね? つまり、君の同輩ということかな?」
「同じ力を持っていることは確かですね」
「だとしたら確かに、その人間を倒さなくては安心できないな……」
指揮官を倒したところで、カード使いが残っていては意味がない。一発逆転が考えられるのだ。むしろ、カード使いを倒せば、敵の戦意を挫くことができるかもしれない。
「でも、いいのかい? 仲間なのだろう?」
「仲間……ではないですね。まあ、広く言えば仲間と言えるのかもしれないですが、今は敵ですから」
敵は倒す。さもなければ大事なものを失うかもしれない。それが、俺がクレナクレムで学んだことだ。
赤のカード使いにどんな事情があるかは分からない。もしかしたらいいやつなのかもしれないし、友達になれるのかもしれない。
だが、そうじゃないかもしれない。
同じ世界出身などという薄っぺらい絆に賭けて説得を試みて、失敗したら? 戦場でそんなあやふやな賭けに出るほど、ソルベス村の人々の命は軽くなかった。
「倒せるときに倒す。そうでしょう?」
「……そうだね」
そして、俺たちは敵のカード使いを捜し始めたのだが――。
「それらしいのがいないな……」
「精霊も分からないようだ」
「ワフはどうだ?」
「わかりませぬ!」
ワフの野生の勘でも分からないか。だが、傭兵たちを一人一人観察しても、黒髪黒目の人間はいない。
もっと近づくしかないか? そう思ってペガサスの高度を下げ始めた直後であった。
ドオオオオオオオォォォォォオン!
「む、村の門が!」
ソルベスの入り口で、巨大な火柱が立ち上るのが見えた。
「くそっ! 入れ違いで村に向かってたか!」




